第139話 終わりの始まり

 駐車場でノヴァと別れたサンシェカは仲間達と合流する為に帝都を走った。

 革命家達はノヴァとの間に結んだ契約に従い交易施設に襲撃、その証明として貴族達が関わっている施設とその周辺は大騒ぎになっていた。

 燃え盛る施設と立ち上る煙で詳しくは分からないが遠くからでも騒ぎ立てる声がサンシェカの耳にも聞こえて来る。

 それはノヴァとの契約の一環ではあったが自分達の攻撃によって貴族の施設が燃え盛る様は今迄の仕打ちもあって清々しいものである。

 それは合流した仲間達も同じであり、誰もが燃え盛る施設を見て笑みを浮かべていた。

 だが何時までも燃え盛る施設を見る訳にもいかない。


 処刑までの残り時間を確認すると共に革命家達は本来の目的地である家族や友人が捕らわれている処刑場に向かって行く。

 本来であれば貴族に手を出した革命家達は多くの追跡を受ける可能性があったが移動中にハンターから襲撃を受けた回数は片手で数える程しかなかった。

 ノヴァによる妨害が効いているのか襲撃してきたハンターも少数であり、指揮系統も混乱しているのか連携をする事もなく仲間達でも対応可能なものであった。


 そうして大きな戦闘に遭遇する事も無くサンシェカを筆頭とした革命家達は処刑場に到着、中に侵入すると革命家達自身でも信じられない程の破竹の勢いで攻略をしていく。

 道中に仕掛けられた罠はノヴァが残したデータと上位権限を持つカードによって難なく解除、或いは破壊して突き進む。

 本来であれば捕らわれた仲間を助けに来た革命家達を嬲り見世物にする筈だった罠はノヴァによって殆どが無効化、看破されてしまった。

 その結果として帝都は過去に類を見ない程の侵入を革命家達に許してしまった。


 サンシェカと共に処刑場を突き進む革命家達は誰もが今回は違うと肌で実感した。

 今迄の様に見世物として一方的に殺されるばかりではない、仲間を助けあわよくば心底嫌う帝都の連中の顔を殴れるのではないかと柄にも無い夢を見た。

 それだけノヴァが残した情報と上位権限を持つカードは強力な武器となって革命家達を守る盾となり、敵を貫く矛となった。


 ──だが破竹の勢いは帝都側のなりふり構わぬ反撃、データには載っていない敵の出現により途中で途絶える事になった。


「あ~、此処までか。お偉いサマ共の顔を殴れると思っていたがコレは無理だな」


「おっさん、暢気な事を言ってないで戦え! 後もう少し、直ぐ其処に仲間がいるんだ! もう少しで助ける事が出来る!」


「確かにサンシェカの言う通りもう少しで仲間の所まで辿り着ける。今迄意地汚く生き残って来た俺からすれば此処まで来ただけでも驚きだ。だがな、アレは無理だ。俺達じゃ勝てない」


 仲間達が瓦礫で作った即席のバリケードに隠れて銃撃を行うサンシェカに対しておっさんと呼ばれた男は反撃を止め瓦礫に身を隠しながら向こうを覗き見る。

 男の視線の先にいたのは散々戦ってきた忌々しい仮面を付けた帝都の役人どもではない。

 それ以前に革命家達が相対している相手は人間ではない。

 凶悪な相貌で銃弾を何発撃ち込もうと怯える事無く戦い続ける敵、自分達よりも優れた武器を持ち、死への恐怖を全く持たず人型でありながら人間とは掛け離れた生物。

 ノヴァがエイリアンと呼ぶ人間ですらない凶悪な生物が彼らの前に立ち塞がっていた。


「一体アレは何だ!」


「知らねぇよ、役人どもの秘密兵器だろ!」


「気持ち悪い姿を見せるな! さっさと死ね!」


 数と質に圧倒され防戦一方の革命家達はエイリアンについて全く知らない。

 だが敵の正体が分からずとも凶悪な顔をした敵が殺した端から途切れる事無く何体も湧いて出てくるのだ。

 一体殺せば二体、二体殺せば四体と敵の底は見えず、反対に革命家達の弾丸は凄まじい速さで消費されていく。

 革命家達は勝ち目など砂粒ほど見えない理不尽な戦いを強いられていた。


「まだ弾は残っている! 俺達はまだ戦える!」


「嫌無理だって。奴さんはやる気で如何にか出来る相手じゃない」


「だけどっ!」


「さ、サンシェカ、もう無理だよ」


「……イリーナも、なのか」


 処刑場に突入した仲間達はサンシェカを除いて誰もが勝ち目がないと悟ってしまった。

 サンシェカに付いて来た友人らしいイリーナという少女も限界だ。

 此処まで恐怖を何とか押し込めてサンシェカに付いてきた少女だが声は震え、銃を持つ手はそれ以上に震えていた。


「サンシェカ、お前は悪くねぇ。此処まで俺達を引っ張って来た奴を俺は知らねぇ。それだけでもお前は大した奴だ」


「俺の力じゃない! 俺は……」


「分かっているさ。だがな、運も実力の内だ。お前でなければ此処まで導けなかった。誇れ、それだけの事をお前は成し遂げた」


 男はサンシェカに告げると懐にある予備の弾倉を確認する。

 此処に来る途中で帝都の役人とハンター共から奪った弾倉も合わせれば一戦交える位にはまだ残っている。

 これだけあれば十分、そう考えた男はサンシェカに向き直り口を開く。


「サンシェカ、お前は若い奴を引き連れて逃げろ。それが、お前の最期の役目だ」


 その言葉を聞いたサンシェカは信じられないような視線を男に向ける。

 その視線の先にいたのは圧倒的に不利な状況でありながら目をギラギラさて戦意を失っていない一人の男がいた。


「殿なんて一番美味しい所は大人の独壇場だ」


「おいおい、そんな大役がアル中に勤まる訳がないだろ。俺も混ぜろよ」


「うっせぇ、賭けで負け続きのお前が入ったら運が下がるだろ」


「なら俺も加わってやる。最後に気持ちよく銃をぶっ放して死にたいからな」


「おーおー、死にたがりの屑共が大勢だな。これだけいれば多少はマシな肉壁になるだろうよ」


「ちげぇねぇ!!」


 サンシェカと会話をしていた男だけではない。

 処刑場に突入した年齢の疎らな革命家達の半数を占めるいい年をした大人が、革命家という謂れなきレッテルを張られた男達が口々勇ましい言葉を笑いながら言い合っていた。

 ゲラゲラと笑う彼らの目は男と同じ様に殿をする事に恐怖を抱いていなかった。


「最期にガキを守って死ぬ。死に方としては悪くねぇ」


「此処まで来たんだ。いっその事、俺達だけで突撃してみるのもアリじゃないか?」


「だったらお前は真っ先に死ぬな。その膨らんだ腹では満足に走れないだろ」


「言わせておけば!」


 いや、殿をしようとする彼らも恐怖は感じている。

 銃を持つ手は震え、脚も落ち着きが無い程に揺れている。

 それでも彼らが此処に残ったのは、十死零生の殿を務めようと声を上げた理由は偏に熱に浮かされていたからだ。


「あばよサンシェカ、いい夢を見させてくれてありがとな」


 下層民の暮らしは碌なものではなく夢を見られるものではない。

 強者に媚びへつらい、弱者を足蹴にするのは基本。

 ハンターに怯えながら暮らし、役人の目に留まらない様に息を潜め、全てを切り詰めて余裕の無い生活を送る毎日。

 希望は無く、それ故に絶望して誰もが一時的であったとしても境遇から逃れる為に安酒に、賭け事に、暴力に、薬に逃げる。

 そして気が付けば何処かの裏路地で誰かが何時の間にか死んでいる。

 それが下層民の一生であり、帝都が定めた変えることが出来ないシステムである。


 ──だが今はどうだ。


 聞くからに胡散臭いサンシェカの話は本当だった。

 武器を用意して、移動手段を用意して、情報も揃えて処刑場に殴り込めば快進撃。

 今迄散々威張り散らし殺しに来た役人を逆に殺し、見下していた奴らが信じられないような目をして怯える様は言葉に尽くしがたい感覚だ。

 こんな感覚を味わってしまえば戻れない、戻りたくない。

 どうしようもない屑である自分達は最後まで熱に浮かされながら死ぬ、死にたいのが殿を引き受けた者達の偽らざる本心であるのだ。



「野郎ども行くぞ!!」


 サンシェカには感謝している、だから此処から遠くへ逃げられる様に時間を稼ぐ。

 友人である少女と同じような若い連中に引き摺られていくサンシェカを横目で見ながら男は自分と同じ屑共を率いて殿を敢行する。

 そんな無謀に挑む男の顔は今迄の人生で嘗てない程に輝いていた。






 ◆






 帝都の中央、其処にはシェルターの現存するリソースの大半が注がれた煌びやかなビル群の中でも一際大きな建物がある。

 その建物は帝都の中枢であり、帝都の中でも貴族と呼ばれる人間しか立ち入ることが出来ない社交場がビルの最上階で日夜開かれている。

 其処では帝都の運営に携わる様々な案件が貴族間の複雑怪奇な関係によって取り仕切られ、また利益が分配されている。


 下層民では味わえない食事で腹を満たし、貴重な酒で喉を潤す。

 仮面を被り、謀を巡らせ、相手を騙し、利益を、権利を掠め取る。

 それが帝都に生きる貴族達の日常であり、彼らは限られたパイを巡って暗闘を繰り広げる日々を送っていた。


 ──だが、今日この日は違った。


「コレは一体何事だ! 例年とは大きく違っているぞ!」


「革命家への介入は禁じている筈だ!」


「誰かが装備の横流しをしたのか?」


「何が狙いだ……、敵対派閥の工作の一環か?」


 ハンターによる革命家狩りと呼ばれる興行を高見で見物する貴族達が集う社交界は過去に例が無い程に荒れ狂っていた。

 貴族達にとって革命家狩り等の興行は娯楽であると賭博でもある。

 自らの財産を掛けた賭け事であり様々な賭博が社交場で執り行われているのだ。

 賭けで成り上がる者がいれば堕ちる者がおり、それらを酒の肴として眺める者がいる。

 だが今日、社交界に集った者達の多くが撮影ドローンによる革命家狩りの中継が映された巨大なディスプレイを前にして悲鳴や怒り、困惑の声を張り上げていた。


「…………」


「そ、総統閣下」


 前年とは掛け離れた展開に騒ぎ立てるのは貴族だけに留まらない。

 社交界に参加している貴族よりも更に一段高い位置に座る男が一人。

 特別に誂えた座席に身を沈ませるのは帝都を作り、帝都を支配し、エドゥアルドによる長命化施術を施された男。

 策略を張り巡らせ代表の座を騙し取り、帝都成立時より生き長らえる怪物である総統と呼ばれる男が階下の騒ぎを冷めた目で眺めていた。


「こ、今回のような事態は非常に稀な出来事であり、ほ、本来であれば大した問題も無く終える事が出来るのですが──」


 総統を呼ばれる男の傍には今回の興行を仕切り、ハンターを統括する役目を勝ち取った役人が接待を兼ねて傍にいた。

 例年通りであれば更なる出世の登竜門である狩、だが過酷な出世レースを勝ち抜いた役人を待っていた例年とは全く違う展開。

 一言で言えば特大の不運が重なった役人は薄っぺらな笑顔を張り付ける事すら忘れて、顔を真っ青にしながら何とか言葉を紡ごうと努力した。


「言い訳はいい」


 それが責任回避の言い訳である事を見抜かれた役人は最後まで話す事を許されなかった。

 そして総統と呼ばれる男の絶対零度の視線が注がれている事を理解した役人は視線から逃れる様に顔を下げる。

 それは単純な恐怖、帝都を統べる男の機嫌を損ねた瞬間に自分は殺されるのではないかと役人は気が気でない。

 目を合わせる事すら恐ろしいと役人は顔を上げることが出来ず床を見続けるしかなかった。


「貴様の配下では手に負えなかった、それだけだ。その尻拭いをしているのは誰か分かっているのか?」


「はいっ! それは勿論の事です!!」


「……まぁいい、例年通りではないが偶には番狂わせがあった方が面白い。だがそれも此処までの話だ。後の事は任せていいのか?」


「はい勿論です!!」


 総統の試すような視線を向けられた役人は即座に返事をする。

 出来ませんとは言えない、言えるはずがない、総統の言葉は絶対である。

 何故なら先程、役人は総統から直々に特別な戦力を供与されたばかりなのだ。

 それが意味する事は一つ、このバカ騒ぎを即座に鎮圧をする事を総統が求められている以外にはありえない。

 出来なかったとは言わせないと言外の圧力を骨身に感じながら役人は事態の収拾に向けて迅速に動き出す。

 そうして与えられた戦力を有効活用する為と逃げる様に離れていく役人の姿を見送った総統は再び階下に視線を落とす。

 其処には先程と変わらずに例年とは全く違う展開に騒ぐ貴族達の姿があった。


「この機会にある程度間引くか……」


 誰にも聞こえない小さな呟きを零すと総統もディスプレイに映る中継映像を眺めた。

 撮影ドローンを通じて生中継される映像では快進撃を続けた革命家達が総統の供与した特別な戦力によって足を止められ、防戦一方となる姿が流れていた。

 それでも奇跡的に死者が一人もいないのは拙い動きでありながら連携を行い戦い続ける事が出来たからだろう。

 何処からか横流しされた武器で健気に反撃を行う革命家達の姿が幾つも見られたが圧倒的な不利な状況にあるのは変わらない。

 革命家達の反撃の手は止まる事が無いのは反撃が止まった瞬間に蹂躙されるのを理解しているからだ。

 それは蠟燭が尽きる間際に起こる一瞬の煌めきでしかないのだ。


「無駄な事を」


 結末は既に決まっている、そうでありながら抗う事の愚かさを理解しない下層民の姿は不快でしかない。

 そして、今回の様な醜悪な出来事は二度と起こさないと総統は決めた。


 ──帝都は己であり、己は帝都である。


 国と自身の境目が無くなった男、総統と呼ばれ恐れられる怪物は静かにグラスに入ったアルコールを喉に流し込む。


 今日と同じ明日が永遠に続く。

 歪んだ認知でありながら其れが真実であると、変わる事が無い永遠であると男は欠片も疑う事無く信じていた。






 ◆






 ハンターによる革命家狩り。

 悪趣味な催し物は革命家達の予期せぬ快進撃により例年とは全く違う波乱に満ちた展開が繰り広げられるものとなった。

 だが革命家達の快進撃も長くは続かない。

 帝都の用意した奥の手、総統の直下の特別戦力である戦力化したエイリアンが処刑場に展開された事で革命家達の脚は止まった。

 そして、この先に待つ結末は誰もが予想できるものになった。

 幾ら革命家達が武装を整えようと所詮、帝都の役人から掠め取った銃でありハンターの武装と同等の物か劣る物でしかない。

 そんな武装ではエイリアン相手には火力不足であり、圧倒的な差を埋める事は出来ない。

 それに加え無尽蔵に湧いて出て来るエイリアンに対し元から数の少ない革命家達は圧倒的に不利である。

 革命家達が戦意を漲らせ決死の覚悟で立ち向かおうとも焼け石に水、それ程の圧倒的な戦力差が繰り広げられているのだ。


 そんな理不尽極まる中継映像を見た事で社交界に集っていた貴族達も先程までの無様な慌てようから落ち着きを取り戻す事が出来た。

 革命家達は必ず負ける運命にある。

 それが確認できるや否や貴族達は圧倒的に不利である革命家達を対象に新たな賭け事を始めた。

 それが当然の事であり、疑う余地のない事だと誰もが心から信じているのだ。


「?」


 ──だからこそ僅かな異常を察知する事が出来た者はとても少なかった。


 賭け事の熱狂に浮かれる貴族達の中である者は小さな違和感を感じ取った。

 それは小さな振動であり、不規則に自分達の足元を小さく揺らしていた。

 だがそれだけの事、珍しい現象ではあるが振動はとても小さく、感じ取った者達も取るに足らない現象であると誰もが考えた。

 だが彼らの予想は外れて振動が収まる事は無く、それどころか小さな振動は次第に大きなものとなり誰の目にも分かる形で社交場に飾り付けられた装飾を揺らし始めた。


「なんだ、これは?」


 最早、限れた人間しか感じ取れない小さな揺れではない。

 酒に酔った者でさえ感じ取れる程に大きくなった振動は不規則に、だが誰もが感じられる揺れとなって社交場を襲い続ける。

 それは帝都に生まれた人間が今迄感じた事ない未知の感覚は社交場に集う貴族達の間に不安を芽生えさせた。

 そんな貴族達の不安を感じ取った主催者側は彼らを落ち着けようと気安い声を出した。


「皆さん落ち着いて下さい。現在発生している揺れによって引き起こされた問題は何一つありません。間もなく我々が調査を行い、問題を明らかにします。ですから皆さ──」


 だが彼貴族達を宥めようとした主催者側は最後まで話しきる事が出来なかった。

 今迄とは比べ物にならない大きな揺れが社交場を揺るがし、それだけに留まらず帝都全域に響く程の爆発音が轟いた。


「何だ、一体何が起きた!」


 揺れで姿勢を崩した男が落ち着きのない声で声高に叫ぶ。

 それは社交場に集った者達の総意でもあった。

 そして社交場にいた男の一人が会場から遥か遠くにあるシェルターの一角で大きな黒煙が立ち込めているのを見つけた。


「向こうで爆発が起こったのか!?」


「そんな……馬鹿な」


「あそこにあるのは閉鎖された通路だ。厳重に封鎖され爆発が起こる訳がない!」


 遠目でも分かる程に黒煙が立ち上る場所はシェルターの内と外を隔てる外壁。

 そして過去のシェルター建造の際に使われた物資搬入通路である大型貨物輸送ルートがある場所である。


「映像が変わったぞ!」


「何か写っているか?」


「分からない、一体何が起こった?」


 社交場に集う誰もが外に注目しているとディスプレイに映される映像が変わる。

 異常を察知して革命家達の苦戦ではなく爆発が起こった場所の映像が映されるも黒煙は未だに晴れず何が起こったのか誰にも分からない。

 それでも外に注目していた貴族達の多くがモニター視線を移し、撮影ドローンが映す映像を食い入るように見つめた。


「何かがいる?」


 一瞬、黒煙に一見すれば歪な人影のようにしか見えない影が映り込んだ。

 だがそれは在り得ない、何故なら立ち上る黒煙に映る人型の影は途轍もなく大きい。

 2,3mの話ではない、10mはあるだろう大きな影なのだ。

 だから映像を見た誰もがこう考えた、あれは粉塵に映った外骨格の陰であると。

 足元にあるだろう光源によって影が引き延ばされ巻き上がった黒煙が巨大なスクリーンに映し出されたのだと。


 誰かが思いついたそれらしい理屈、目に映る不可解な現象が既知の物であると理解できた誰もが心を落ち着かせ、──それは直後に崩れ去る事になる。


 黒煙に映る巨大な影が動き出す、人型の影が一歩を踏み出す毎に重苦しい音が響き渡る、小さな外骨格が出せる様な音では決してない。

 そして巨大な何かが黒煙を突き破って現れた。


「なんだ、あれは……」


 黒煙の向こうから現れたのは巨大な人型の何か。

 それを見た誰もが一目で生物ではないと理解した。

 だが正体が分からない、揺らめく炎を鈍く反射する巨大な人型が何であるのか答えられる物は誰一人いなかった。


『目標地点に到着。これより作戦を開始します』


 それは巨大な機械、一人の男が零から作り上げた既存の兵器体系から外れた存在。

 対大型ミュータント駆逐機動兵器Anti-Large Mutant Destroyer Mobile Weapon、通称AWと呼ばれる鋼鉄の巨人が其処にいた。

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