第136話 さよなら

 青年に連れられ来た薄暗い隠し部屋を備え付けられたモニターが照らす。

 帝都の下町に数多くある廃墟の一つ、その中に隠れるように作られた部屋の中でノヴァは隻腕でありながら機敏にコンソールを操作していた。

 ノヴァの最終的な目的は帝都からの脱出であり、その為にノヴァは逃走中に遭遇した青年との間に一つの契約を結んだ。

 それは帝都における青年の活動をノヴァがサポートして可能な限り多くの革命家達を救出することである。


 その第一段階として青年とノヴァは捕獲された革命家達が乗る車両を襲撃、救出された革命家達を仲間に加え武装を強化しようと動いた。

 そしてある程度集団が大きくなった段階でサポートは打ち切り青年はノヴァの脱出に協力する。

 具体的には青年達はノヴァが指定する施設に対して陽動を目的とした襲撃を行い、警備が薄くなった施設にノヴァが侵入する。

 それがノヴァと青年が結んだ契約の全貌でありノヴァの帝都脱出計画の概要である。


 そして二人が動いた結果は正直言って芳しくはなかった。


「順調……とは流石にいかないか」


 敵車両の誘導、監視カメラ映像の改竄、敵味方認識の書き換え、命令書の偽造、敵の誘導し孤立させる、などの幅広い分野でノヴァは青年を陰からサポートをしてきた。

 そして青年も怯えがらもノヴァの指示に従って動いた事で多くの輸送車両を襲撃、移送中にあった多くの革命家達を開放した。

 だが二人が助けた革命家達の中で青年と同じ仲間になってくれた者は多くはいなかった。


「47人救助、その内仲間に加入したのは14人か。正直に言えばもう少し増えて欲しかったが諦めるしかないか」


 青年が帝都の人間、彼らがハンターと呼ぶ敵から救助した仲間の数は47人。

 処刑までの残り僅かな時間で助ける事が出来た人数として見れば多いのだろう。

 だがノヴァの青年の目的は助けた革命家を仲間にしてハンターに対抗可能な即席の武装集団を作る事である。

 その為に移送中であった革命家を助けたのだが仲間になったのは僅か14人、救助した人数の半分を下回った。

 仲間にならなかった革命家達は青年が止める間もなく救助されるや否や軽く礼をするだけで再度、帝都の暗闇に紛れて行った。

 そのような光景を何度も目にしたノヴァだが助けられた革命家達の気持ちもある程度は想像できる。

 何しろノヴァと青年が企んでいる事は強大な帝都に対して反旗を翻し、逆に襲撃を仕掛けて捕らわれた仲間を助ける気でいるのだ。

 帝都に対して積年の恨みを積み重ね続けた人なら喜んでノヴァの計画に賛同するだろうがそれ以外の、戦う気が軒並み帝都によって折られた人々にしてみれば強大な敵に極少数で襲撃を仕掛ける無謀なものにしか見えない。

 助けられた事に関しては感謝しているが、襲撃は別だと考えていても仕方ないだろう。

 運に恵まれて拾った命を再び危険に晒したくないと思うのは当然。

 だからこそ、仲間になってくれた14人には素直に感謝するべきなのだろう。


 そうした経緯もあり、青年を含め数は少ないながらも捕らわれた仲間を助ける為に集った革命家達15人はノヴァのサポートによって可能な限りの強化を施された。

 殺したハンターの装備を奪い、纏う事で革命家と認識されない様にすると共にノヴァがシステム上ではハンターであると敵が認識する様に書き換えた。

 近くにある警備施設からは偽の命令を発行して怪しまれながらも武器を徴収、その際に彼らには賄賂として帝都の上層部で使われる電子マネーを気前よく振り込んだ。

 集めた武器は鹵獲した車両に詰め込み、車両のシステムも上書きする事で青年達が自由に操作出来るようにした。

 迫りくる時間に追われながらもノヴァは懸命にサポートを行い仲間になった14人も最後には信用したのか指示に従って精力的に動いてくれた。

 そして可能な限りのサポートを終えたノヴァは隠し部屋から外の廃墟へ出ると近くで待っていた青年が乗る車両に乗り込んで移動を開始した。


「君との契約に従って可能な限りのサポートは行った。今度は君の番だが準備は出来ているのか?」


「出来ている、仲間は既に配置に付いて後は連絡を待つだけだ」


 ノヴァの問い掛けに対して青年は迷いなく答えた。

 可能であればもう少し人数を増やしてから行動を起こしたかったが青年もノヴァにも時間的余裕は残されておらず、処刑までの時間を考えれば現状のまま計画を進めるしかなかった。

 また革命家達の処刑とは別にノヴァも帝都ではなくエドゥアルドに追跡される身である為、長く留まる事は出来ず、いずれにしても動くしかなかった。

 それでも帝都に誘拐した張本人であるエドゥアルドへの工作は革命家達のサポートと並行して行ってきた。

 具体的には治療ポットから抜け出したと気付かれない様にノヴァは病院にいた老人のアカウントを使って今も治療継続中とエドゥアルドに偽装連絡を定期的に入れている。

 だが万全とは言えず、エドゥアルドがもし通信に異常を感じて直に病院に乗り込まれてしまえばノヴァが病院から脱走した事は簡単に判明してしまう。

 無論ノヴァもそうならない様に監視カメラには治療ポットの中にいた時の映像を流し続ける等の小細工も施してはいるが安心は出来ない。

 だからこそ青年達の都合に合わせる形でノヴァも帝都脱出計画を開始させたのだ。


 そしてノヴァ青年の計画は第二段階に進み、二人の乗った車両は貴族達のお抱えの交易施設に向かっていた。


「なぁ、アンタが良ければ──」


「帝都に残り続けるのは不可能だ」


 それは取り付く島もない明確な拒絶である。

 合わせてノヴァは青年が何かを言い切る前に口を開き有無を言わせない勢いでその理由を語る。


「言っておくが俺は追われている、お前達に加わればハンター共とは比較にならない相手と戦う事になる。最悪の場合、俺以外が皆殺しにされてもおかしくない。そんな相手と戦い続ける事がお前達に出来るのか?」


 最初こそ革命家達も青年と同じように通信機を通してサポートするだけのノヴァに対して不信感を抱いていた。

 だが戦闘や物資補給におけるノヴァのサポートを受けて考えを改めた者も多く、サポートを切り上げる終盤辺りになってからは勧誘の言葉が引っ切り無しに聞こえて来た。

 ノヴァのサポートによってある程度の武装を整えることが出来たが基本的に革命家達の数は少ない、それで彼らが帝都と一戦交えるのは掛け値なしに危険な行為である。

 だからこそ革命家達はノヴァの的確なサポートを必要とし、勧誘の言葉を言い続けた来たがノヴァの口から出て来た言葉は拒絶しかなかった。

 そして作戦が第二段階に至った現在、最後の勧誘機会となった車両の中でもノヴァは青年が何かを言い切る前に拒絶を口にした。


「……」


「俺の返事は変わらない。そっちの方は大丈夫なのか」


「……仲間は既に配置している。後は連絡をすれば襲撃を始める、……けど数は少ないから期待はしないでくれ」


「それで十分だ。これが契約を果たした報酬だ」


 ノヴァは車両に持ち込んだ自前の端末とは別に隠し部屋にあった一台の端末と一枚のカードを懐から取り出して青年に見せた。


「上位権限を持つカードだ。既に帝都のシステムには細工を施している。これである程度のセキュリティーは突破できるだろう。それと端末の中身は仲間達が捕らわれた施設の見取り図と道中に予想される敵の配置図だ。可能な限り調べてあるから有効活用しろ」


 自動運転で走る車両の中で青年は受け取った端末を起動させて中身を確認する。

 実際にノヴァの言葉に嘘は無く、端末の中には処刑所がある施設の見取り図に加えハンター達の配置図といった情報に加え記憶領域の限界まで多くの情報が詰め込まれていた。

 それらを見て端末を操作する青年の指が小刻みに震え、知らずの内に唾を飲み込んでいた。

 ノヴァは何でもない様に報酬として軽く渡した二つの情報は革命家達が終ぞ欲しがって得られなかった情報である。

 多大な労力と資金を投じても得られたのは断片的な情報、或いは偽物しか得られず革命家達は満足な情報を今迄得ることが出来なかった。

 だがノヴァが報酬として渡した情報によって革命家達は十分過ぎる程の情報を得る事が出来た。

 本来であれば情報の偽装を青年は疑う必要がある。

 だが短い間とはいえ自分達のサポートを嘘偽りなく的確に行い、武装を整える際の手腕を間近で見て経験した青年だからこそノヴァの言葉が信じられた。


「カードの方は攻撃が確認できた時点で有効化するからな。持ち逃げしても使い物にならないぞ」


「そんな事はしない」


 そして止めは上級権限を持つカードだ。

 下層民であり革命家という烙印を押された自分達には逆立ちしても手に入れることが出来ない代物である。

 施設に襲撃を仕掛ける報酬として渡された代物は自分達の苦労に見合う、いや、それ以上の代物である事を青年は感じる事が出来た。


 そうして報酬の話を最後に二人の会話は終わった。

 聞こえて来るのは自動運転の車両が出すモーター音と道路を踏みしめるタイヤの音だけ。

 車両は設定された目的地に向かっており残り時間は十分程度であると青年は車両に備え付けられたモニターから読み取った。

 目的地に到着して施設への襲撃が確認された時点で青年とノヴァの契約は終わる。

 半日にも満たない束の間の出来事、それがもう直ぐ終わると考えた青年は深い考えも無く車外の風景を眺めるノヴァに問いかけた。


「……どうして外に行くんだ」


「帰るべき家が外にあるから」


「本当に帝都の外から来たんだ。……帝都の外はどんな感じ? なんでもいい、話してくれないか?」


「どんな感じか……、先ず帝都から出た先にあるメトロは薄暗いしジメジメしているから好きじゃない。拠点があるのは地上だが其処は……寒いな、とても寒い。おまけにミュータントもゴロゴロいるから油断は出来ない。総じて言えば厳しい環境だな。後は……空がある。帝都やメトロとは違う果ての無い空、後は──」


 ノヴァは青年の無邪気な問い掛けに思う所があったが、青年の強い眼差しに負けると思い付いたまま答え始めた。

 だがノヴァの会話は目的地である施設、その手前にある駐車場に車両が速度を落として近付いた事で中断された。

 駐車場で車両が止まるとノヴァは一度周囲を確認してから外へと出たが、青年は車両の外に出ようとしなかった。

 動き出す事無く車に留まったままの様子を不自然に思ったノヴァは軽く手で車両を叩く。

 するとノヴァ話している最中に口をはさむ事無く黙って聞いていた青年の口が開いた。


「待つことは、他の──」


「一人だ」


 これで二度目。

 だがノヴァは青年が言い切る前に簡潔に短く告げる。


「連れて行けるのは一人、それでも無事に外に辿り着けるかは分からない。そして人を選んでいる時間は無い。外に行けるのはお前だけだ」


 ノヴァは言い切ると同時に青年を見つめた、返事を待った。


「一緒に行くか、家族、友達、仲間、全てを見捨てて?」


 それはノヴァの手を取る条件であり青年が支払う代償である

 青年が今日まで紡いできた関係、手に入れた物、帝都に存在する全てとの関係を断ち切る覚悟があればノヴァは青年を受け入れるつもりではいた。


「……無理だよ、出来ないよ」


 だがノヴァに問い掛けられた青年は手を取る事が出来なかった。

 俯き涙声で絞り出した声には様々な感情が綯交ぜになっている。

 それが青年が出した答えであった。


「そうか」


 ノヴァは短い返事をするだけで他には何も言わなかった。

 それが良かったのだろう、暫くして気持ちを持ち直した青年は車両から出ると懐から通信機を取り出した。


「始めてくれ」


 青年が短い通信を終えると同時に少し離れた場所にある施設から銃声と爆発音がノヴァの耳にも聞こえて来た。

 自前の端末で付近の監視カメラ映像を盗み見れば施設の職員達は見るからに慌てており、多くの職員が音の発生源に引き寄せられていった。

 他の監視カメラでも同様の映像が映っており陽動が成功していると確認出来たノヴァは青年に渡したカードを有効化する処置を行う。


「カードを有効化した。後の事は──」


「どうして僕は生まれたの?」


「……」


 それはノヴァに聞かせるつもりもない青年が自らに問い掛ける小さな声であった。

 だが耳に届いてしまい何と言えばいいのか分からずに押し黙ったノヴァだが沈黙は長くは続かなかった。


「僕はサシェンカ、アンタの名前は?」


「ノヴァ」


「ふ~ん、帝都では聞かない変な名前だ」


「失礼な奴だな、君は」


 振り返りノヴァと視線を合わせた青年は自らの名前を名乗り、ノヴァも返した。

 そして短い会話を終えた二人は今度こそ別れを切り出した。


「サヨナラだ、サシェンカ」


「うん、さよなら。アンタのお陰で無駄死しなくて済みそうだ。カードも情報も、本当にありがとう」


 それは透き通った様な笑顔だった。

 それが何を意味するのかを理解していながらノヴァは駐車場から離れていく。

 慰めは言えない、出来もしない空想を語るのは決意を固めた彼に対する侮辱だからだ。


「ああ」


 振り返るような事も無くノヴァとサシェンカは別々の方向に向かって走り出す。

 ノヴァは周囲を警戒しながら最寄りの施設入口にと近付いてき、手前で立ち止まると姿を隠して入口にある警備室を観察した。


「警備は薄くなっているな」


 覗き見た監視カメラ映像と変わらずに警備室にいる人間は一人だけであった。

 本来であれば複数人が警備にあたっていたが施設の襲撃を受けて最低限の警備を残して現場に駆り出されたのだろう。

 陽動が成功した事で手薄になった警備室を確認したノヴァは入口に設置された監視カメラを掌握。

 その後に偽装された映像を監視モニターに映す細工を施し終えると足音を立てない様に警備を掻い潜り警備員に気付かれる事無く施設に侵入した。

 そして施設の疎らな警備をやり過ごしながらノヴァは事前に目星を付けていた建物の中に入る。


「よし」


 其処は格納庫を兼ねた整備場でありノヴァが探していた車両は分解整備されずに線路上に置かれていた。

 目標の物を見つけたノヴァは格納庫を見渡し上階に管制室らしき部屋を見つけると気配を殺しながら移動を開始した。

 階段を足音を立てずに上り管制室の手前で中を覗き見れば襲撃の最中であっても配電盤に向き合いながら作業をしている職員が一人だけいた。

 傍から戦力としてカウントされていない技術者らしき男の背後にノヴァは忍び寄るとハンターから拝借したスタンバトンを勢いよく振り下ろした。


「!?!?」


 振り下ろされた衝撃と電撃によって悲鳴を上げる事無く職員は迅速に意識を断たれた。

 倒れた職員の手足を縛りロッカーに押し込んでからノヴァは部屋の中央に設置されたコンソールに向かい合った。


「此処は管制室に間違いないようだな。よし、格納庫シャッターを開放、警備用のセンサーは全て無効化、メトロに続く線路上にある各種隔壁解除して最後に車両固定を解除。これでよし」


 ノヴァがコンソールを操作した事で階下にある装置が動き出す。

 管制室にあるモニターでメトロへの通路を塞ぐ隔壁と格納庫のシャッターが解放されていく映像を確認したノヴァは管制室での操作を終え部屋から出て行く。

 その際に隣接された小さな武器格納庫から使えそうな武装を幾らか失敬してからノヴァは階段を下りて車両へと向かう。


「……何が帝都だ」


 全ての準備を終え脱出を目前に控えたノヴァは小さく文句を呟いた。

 メトロで聞いた話とは全く違う腐敗した帝都、もう二度と来る事は無いと決意を固めてノヴァは車両に乗り込もうと足早に歩き出し、ブーツが小さな水たまりを勢いよく踏んだ。

 唯の水溜まりであればノヴァは特に気にも留めずに脚を進めていた。

 だが水溜りを踏んだ足を持ち上げた瞬間にノヴァはブーツ越しに違和感を覚えた。

 それは水とは違い粘り気を持った液体であり脚を上げればブーツは納豆の様に幾筋もの糸を引いていた。


「雨漏りは違う、蒸気が凝固、地面にあった整備用の薬剤と混ざったか?」


 ノヴァは格納庫を見渡すが整備用の道具は遠くに見かけたが薬剤は見当たらない。

 地面を見ても特に変色している訳でもなく薬剤がしみ込んでいる訳でもなさそうである。

 だから特に気にするものでもない、些か気持ち悪いがブーツが溶解する様子も無い事から無視しても大丈夫だと考えた。


 ──故にそれはちょっとした好奇心であった、それがノヴァの命を救った。


 電源を切ったスタンバトンの先端で液体を救い上げ、少しだけノヴァは液体の匂いを嗅いでみた。


「……生臭い?」


 薬品の特定しようとしたノヴァの予想に反して液体は生臭かった。

 特異な匂いがある訳でもなく無臭でもない、枕にしみ込んだ自分の涎の匂いを何十倍にも生臭くしたような不愉快な匂いであった。

 そして視線を地面に向ければノヴァが踏んだ小さな水溜りは幾つもあった、──現在進行形で上から落ちて来る大粒の液体によって。


「──ああ、そういう事ね」


 何となく液体の正解が何であるかノヴァは分かってしまった。

 それでも自分の考えが間違っている事を期待してノヴァは視線を天井に向けた。

 だが期待は裏切られた、ノヴァは天井を見上げながら憎々しく呟き、叫んだ。


「ねぇ、俺はホラーが大嫌いだと言わなかったか、エドゥアルド!!」


 格納庫の天井にはいつの間にか大量のクリーチャーが張り付いていた。

 なんて事はない、粘性を持った液体の正体はクリーチャーの涎という最悪の代物であっただけだ。

 そしてノヴァの叫びを合図にして天井に張り付いていたクリーチャーが落ちて来る。


「対話の余地なしか!」


 ノヴァは踏みとどまること無く走り出す、車両とは反対方向に。

 その直後、何体ものクリーチャーの落下エネルギーを受け止めた列車のフレームが歪む甲高い音が格納庫に響き渡る。


「クソ! せめてもの憂さ晴らしだ、纏めて吹っ飛べ!!」


 最早、ノヴァの帝都脱出計画はエドゥアルドに捕捉され不可能となった。

 それを嫌でも理解させられたノヴァはせめてもの抵抗として懐から取り出した手榴弾を幾つも格納庫に投げ込んだ。

 そしてノヴァ自身はすぐ近くにあった窓に体当たりをしてガラスを割りながら外へ出る。

 その直後に背後で手榴弾が爆発しクリーチャーの悍ましい悲鳴が幾つも響き渡った。


「クソがぁぁぁ!!」


 だがこれで終わりではない。

 ノヴァは外へ出た勢いを保ちながら施設の中を全力で走り出した。

 当然、気配を隠す事をしないノヴァは多くの職員の目に留まり誰何を掛けられ、だがノヴァは全てを無視して全力で走り続けた。

 そして施設の外に出たノヴァは急いで駐車場に向かい放置していた車両に乗り込むと自動運転を切り、マニュアルでの運転を始めた。

 行先は決めていない、今すぐに此処から離れるべきだと叫ぶ本能に従ってノヴァはアクセルを勢いよく踏んだ。

 急加速によってタイヤが煙を出しながら車両が走り出す。

 交易施設から離れていく光景をノヴァはバックミラー越しに見た──、同時に何処からともなく現れた何体ものクリーチャーも一緒に。

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