第108話 目指す方向

 会議を終えた翌日ノヴァはキャンプに関する大まかな方針と計画を立案し終えると泥の様に眠り、翌日になって再びキャンプの主だった人物を集めて再び会議を開いた。


「これから今後のキャンプに関する運営方針と計画を説明する。一通りの説明が終わり次第質問をしてくれ」


 そう言ってノヴァは机に置かれた投影装置から立体的な映像を中空に映し出した。

 詳細な図ではなく大まかなキャンプの全体像を立体的に映し出した映像に過ぎないが会議に出席した人物の誰もが驚いているようだった。

 だがノヴァは彼らの反応を気にせずに手元にある端末を操作し映像を動かしていく。

 時間経過に従って投影されたキャンプの形は徐々に変化、元々あった建築物に加え様々な用途の建物が建造されていき規模を拡大させていく。

 そして最早キャンプと呼べる規模を超えて暫く経ってから漸く映像は止まった。


「映像に映ったこれが現時点で計画している拡大計画の全体像だ。まず前提としてキャンプは私が電波塔を修理し利用するために作ったものであるので住民として大人数を賄える構造ではない。それを考慮してキャンプの規模そのものを拡大し収容人数を引き上げる。移住する住人達には労働力を提供してもらうのを基本方針とする。彼らの居住空間は基本的にミュータントから解放した廃墟を再利用する事になるが内装はボロボロなのでこれを修繕し居住に適した状態に戻す事が最初の仕事だ。また住人の大幅な増加を予想して衛生面から上下水道、医療、衛生関係も順次手を加えていくが最初は上下水道のみに限定する。居住地の整備の他に移住者に任せる仕事として考えているのが地上の廃墟から物資を集め分別精錬を行い資源化する事業、それに加えて精製した資源を利用して現在製造している製品の量産を任せる予定だ」


 計画そのものはアンドロイド達が移住した時の計画を土台として流用している。

 無論キャンプの立地や環境、今回移住してくるのがアンドロイドではなく人間であることも考慮して計画の細かな部分で変更はあるが大筋は変わらない。

 人を集め、物資を集め、行動を制御し、適切な采配を行い、問題に優先順位を付けて順次解決していく。

 今迄散々ノヴァが行ってきた作業であり慣れた作業でもある。

 それでも実行に関して問題となるのはノヴァの立案した計画を会議室にいる人間が実施出来るかの能力の問題である。


「これに合わせて各人にはそれぞれ役割を割り振りたい。まずアルチョムは地上の探索を行ってもらい廃棄された工場から工作機械を優先的に見つけ出してほしい。輸送機と修繕したばかりの外骨格を貸し出すから可能な限り回収してきてくれ」


 アルチョムに任せる仕事は工作機械の回収だ。

 移住した住民に何か仕事をさせようとするなら物を作って売るのが基本である。

 だからと言って移住しにきた住人の全員が物を作れと言われて出来る人間ばかりではないのをノヴァは十分承知している。

 最悪の場合は碌な技能がない穀潰しもいる可能性も想定し、問題のある人間も有効に活用できる仕事を斡旋する必要がある。

 だからこそ複雑な仕事を単純化させ、さらに量産を目指すのであれば能力に依らず一定の成果を出せる工作機械は欠かせない。

 また回収した工作機械によっては量産ラインを整備し、エイリアン製の製造機械の代替をさせたい思惑もある。

 計画において重要な部分でもあり、回収できた工作機械の質と量によっては計画を都度修正する必要があるだろう。


「セルゲイさんにはキャンプ一帯の防衛を任せたい。もちろん村の方が大事なのは理解しているので本音を言えば防衛を指揮できる人材を紹介してほしい。キャンプが何処まで拡大するのかは測りかねているので大人数を指揮した経験のある人が望ましいです」


 ノヴァの計画通りにキャンプが問題なく拡張するのであればミュータントから防衛する敷地面積は一気に拡大する。

 防衛に割ける人数は増やす予定ではあるが一番の問題は多数の人間を指揮できる人間が居ない事である。

 ノヴァとしては能力も経験も優れたセルゲイやアルチョムを指揮官として部隊を統率してほしいが二人とも忙しいのは知っているので無理強いをさせるつもりはない。

 だが二人と同等まではいかなくても準じる程の指揮能力を持った人材がキャンプの防衛には必要なのだ。


「次に傭兵部隊だが此方はアルチョム達が抜けた穴を埋めるのが基本方針になる。隊商の護衛と住民が活動する物資回収範囲のミュータントの逐次掃討だ。依頼金はその都度払うか長期契約を結ぶのかは交渉を通して決めていこうと考えている」


 傭兵に任せる仕事は幅広いがそれ程人数を必要としないものが殆どである。

 だがミュータントとの戦闘が予測されるので誰にでも任せられる仕事ではなく、隊商に関してはアルチョムの仕事を引き継いで定期的にメトロに行ってもらう必要がある。

 扱う品物も高価であり食料品に至ってはキャンプにおける生命線であるため信頼できる人間に任せたいのが本音だが人手が足りないので仕方なく傭兵で穴埋めをしているのが現状である。

 報酬を惜しむつもりはないが仕事に誠実に取り組める傭兵が雇用できるのかが一番の問題である。


「以上で説明を終えるが計画も大雑把なもので穴があるのは承知している、だから気になった事は直ぐに質問をしてくれ」


 一通り説明をノヴァが終えると間を置くことなく幾つもの質問の手が上がった。

 それに関しては想定内でありノヴァが考えた計画からして未だに素案の段階に過ぎず、これから中身を詰めていく必要があるのでいい傾向であった。


「電波塔の修復はどうしますか」


「一時中断だ、ミュータントが入り込まない様に駆除自体は継続的に行うが人手は必要以上に割かない予定だ。他に何かあるか」


「工作機械は種類を問わずに回収する方針ですか」


「ああ、原型があるのなら一から新造するよりも楽だ。どれだけ壊れていようが新品同然に修復するから破損状況は気にしないでくれ」


「分かりました。それと──」


 幾つもの埋めきれない穴があった計画の穴を埋める様にアルチョムは質問を重ねていき、

 アルチョムの質問内容にノヴァは淀みなく答えていく。

 そうして粗方疑問が解消されたアルチョムの質問が終わると次は傭兵二人組の番であった。


「ボスはメトロから食料を調達していたようだけど現状は厳しいわよ。意図的かは分からないけど何処も値上がりの真っ最中、幾らボスが儲けていても継続的に食料を買い続けると資金繰りが怪しくなるわよ」


「それに関してはメトロ以外の調達先を探す必要があるだろうが取引先に心当たりがないから手詰まりだ。現状では高値で買い続けるしかないと考えている」


 ソフィアの指摘した問題点はノヴァも事前に知ってはいたが効果的な対策は思い付かなかった。

 基本的に今迄の交易はアルチョムの人脈を通しての取引であり、今までの取引で人脈は多少広がってはいたが代替案を担えるような人間はいなかった。

 そうである以上、最悪の場合は赤字覚悟の取引を続けるしかないとノヴァは昨日から想定し身構えていた。


「なら僕の人脈を使うのはどうだいボス」


 だがノヴァの計画に欠けていた部分を補完する考えがあるのか会議では終始口を閉ざしていたオルガが意味深な言葉を口にした。


「僕は傭兵だけど元々は家族経営の店を営んでいたんだ。だけど過去に色々あって落ちぶれて店は潰れちゃった。だけど昔の人脈は今も残っているし彼らを通じてメトロ以外の場所から食料品を買ってくることも可能だよ」


 それは今のノヴァにとって聞き捨てならない話である。

 もし本当であればメトロの影響を最小限に留めて食料調達が可能になる一手である。

 だからこそノヴァは提案をしてきたオルガに厳しい目を向けて口を開く。


「対価は幾らにする。また交渉に必要なものは何かあるのか?」


「……総利益の三,いや二割でいい。それと交易に適した駅を一つ、目星は付けているよ。そしてその駅を拠点としてボスの直下の販売組織を立ち上げる。今迄の様に片手間の交易ではなくより販路を広げるんだ」


 それはオルガにとって今後の関係を確固なものとする為に考え抜いた提案である。

 オルガから見てノヴァの弱点は地元における交易関係が限定的であり代替手段が乏しい点である。

 本来であればノヴァが製造した機械や部品は広くメトロを通して売買すべき品々である。

 だがアルチョムの人脈だけに頼っていたせいかメトロの一部にしか販売されておらず、今は良くても早々に販路も行き詰まるだろう。

 何よりメトロの商人は今迄の取引を通じてアルチョムがこれ以上販路を拡大できないと見抜いている。

 其処に付け込んで商品の価格を値下げさせたりする機転を持ち合わせているものだ。

 今はまだ品々の希少価値から利益は減る様子は無いだろうが遠からずに足元を見られる可能性が出てくるのは確実だ。

 それを避ける為にノヴァの直下に独自の販売組織を立ち上げるべきなのだ。

 専属の人間を雇い、設備を整えてメトロを広く移動して販売を続けるだけで優位に立てる。

 それがオルガの考えた計画である。


 オルガの説明を一通り聞いたノヴァは一旦目を瞑って考える。

 計画に必要となるだろう資材と人材、コストとメリットを手元にある端末を操作して大雑把な数字を当てはめて計算し大まかな見積もりを算出する。

 そして最後に計画がキャンプに齎す中長期にわたる影響を考え──結論を出した。


「四割だ」


「うん?」


「総利益の四割を対価とする。此方は相応の対価を支払う用意がある、計画において限定的な裁量権も与える、駅の整備に必要な人材と物資も提供する。その上でオルガには計画に投じたリソースに見合ったリターンを求める」


 オルガとしては話した計画が全て採用されるとは思ってもいなかった。

 計画の一部だけが採用され、だが諦めず提案をし続け少しずつノヴァのキャンプに組み込まれる腹積もりでいた。

 何より昨日の配慮に欠けた質問によってノヴァの心証を害してしまったオルガに対する印象は一気に悪化したと考えていた。

 その印象を払拭する目的もあった提案であったがノヴァがオルガの想像を簡単に超えた、全面的なバックアップと限定的だが裁量権まで与えてきたのだ。

 大盤振る舞いの話どころではない、ノヴァは本気で計画を実現させるつもりであった。


「大盤振る舞いね……オルガ、これは気が抜けないわよ」


「分かっているさ」


 オルガの傭兵になった時から今まで被り続けていた飄々とした表情を捨てる。

 そして顔に浮かべるのは付き合いのあるソフィアが見た事がない真面目な表情だ。


「任せてくれボス、貴方が望む成果を出して見せよう」


 其処には何処か胡散臭い女傭兵の姿は無い。

 そして彼女の頭の中は猛烈な速度で回り出し必要な下準備を終え次第、すぐに計画に取り掛かるつもりであった。


「悪いが先生の要求には応えられない。村の防衛を疎かにする訳にもいかないが何より俺やアルチョムに代わる程の指揮能力を持った奴は村にいない」


 傭兵二人の質問を終えたノヴァは最後にセルゲイの質問を聞こうとしたが先回りをしたセルゲイが先に口を開いた。

 だが傭兵組の前向きな姿勢とは正反対にセルゲイの表情は厳しく、また返事も良いとは言えないものである。

 想定していたとはいえ、二人に代わる指揮能力を持った人材が村にいないのは痛手である。


「だが指揮能力を持った人物、いや集団には心当たりがある。ザカフカーズ駅にいるプスコフだ」


 だがセルゲイの話は其処で終わらず、二人に準じる能力を持った人材がいるだろう組織を紹介してくれた。

 だがメトロの事情に疎いノヴァではザカフカーズ駅も、プスコフに関しても全く知らないので正確な判断が出来ないでいた。

 だが、ノヴァと違いアルチョムと傭兵二人組はセルゲイの言葉を聞いて何とも言えない表情をしていた。


「あそこねぇ……」


「確かに、ボスが求める人材はいると思うけどね」


「三人とも知っているのか?」


「プスコフには父の言う通り指揮に優れた人物がいる可能性は高いです。ですが問題がありまして……」


「ボスは知らない様だから僕が説明するね。ザカフカーズ駅のプスコフは簡単に説明するとメトロでも有名な武闘派の駅なんだ。始まりは駅に逃げ込んだ帝国軍の大部隊だったらしくて豊富な軍備と統一された指揮系統を持っていてメトロでも上から数えた方が早い勢力を持っていた。……だけど今は色々と不幸が重なって落ちぶれた駅の一つでしかない」


「彼女の言う通り、今はもう落ちぶれた駅だ。だが帝国軍の規律と戦技を受け継いだ奴らが今もあそこには大勢いるだろう」


 会議に集った彼らから説明を受けたノヴァも理解が及んだ。

 確かに落ちぶれた駅ではあるが候補とする人材がいる可能性は高いだろう、だがセルゲイがプスコフを紹介した真意が何処にあるのかノヴァは聞いていない。

 其処を誤魔化す事無くノヴァが尋ねるとセルゲイは何とも言えない表情をしながら口を開いた。


「プスコフは……俺の古巣だ。あそこには袂を別った親友がいる、彼なら力になってくれるだろう」




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 ・放送局を占拠しました。

 ・施設を完全に制圧しきれていません。

 ・ランダムでミュータントが襲撃してきます。

 ・簡易陣地(改)を作成:ミュータント迎撃効率10%向上、

 ・迎撃用の罠を多数設置:迎撃効率20%向上

 ・放送設備は使用不能です。

 ・労働可能人員:1+10人+村からの一時的な避難民+??? 

     *大量の移住希望者が向かっている

         →キャンプには彼らを収容する余剰は無い! 


 ・放送局制圧進行率 :98%→駆除はほぼ完了している

 ・放送設備修復率  :0%→被害状況の調査を予定している


 ・仮設キャンプ:稼働中

 ・食料生産設備:稼働中・自給率は低い

 ・武器製造:火炎放射器 生産完了:予備以外の追加生産の予定は無し

 ・道具製造:汚染除去フィルター(マスク用)市場流通分の追加生産を予定

 ・バイオ燃料:生産中


 *キャンプ拡張計画始動!!


 ・ノヴァ:やるなら徹底的にやる。

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