第107話 何故受け入れる
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放浪中に持て余した時間を使い電波塔を確保した場合の行動指針を策定する。
複数のパターンを想定するが現地の情勢に合わせて臨機応変に対応する事、絶対の指針ではない事を念頭に入れておく。
・プラン1
放送局の設備破損が軽微であり短時間の修復で利用可能の場合。
設備の修理が完了次第救難信号を発信、救助を待つ。
・プラン2
放送局の設備破損が軽微、破損範囲が広範囲に及び短時間の修復では利用不可の場合。
基本的には単独で対処を行う。設備の修理が完了次第救難信号を発信、救助を待つことになるが修復期間が長引く場合は現地住民と交流すること選択肢に入れる。
・プラン3
放送局の設備が大破状態、破損範囲が限定されるも短時間の修復では利用不可の場合。
基本的には単独で対処を行う。設備の修理が完了次第救難信号を発信、救助を待つことになるが修復期間が長引く場合は現地住民と交流すること選択肢に入れる。
・プラン4
放送局の設備が大破状態、破損範囲が広範囲に及び長期間の修復が必要とされる場合。
単独での対処は困難と判断、現地住民と交流を通し物資人材を調達。現地の軋轢を残さない様に修復を進め設備の修理が完了次第救難信号を発信、救助を待つことにする。
上記四パターンを基本的な行動指針として活動を行う。
また現地の危険度レベルを随時更新して行動する。
危険度の目安としてはミュータント、現地情勢、現地人との交流、判断時の所持物資量を複合的に判断するが各項目を最低0、最高2として簡便な指標を作成する
考慮して行動する際の目安を以下に記す。
・レベル0(0~1)
ミュータントの活動が見られず、現地住民との交流は無い等単独活動に支障がない状況であり一番望ましいもの、この場合は単独行動によって事態の打開を図るものとする。
・レベル2(2~3)
小規模なミュータントの活動が見られるだけであり現地住民との交流は限定的。
この場合であっても基本的には単独行動によって事態の打開を図るものとする。ミュータントに関しては積極的に殲滅を行い安全だけは確保する。
現地との交流は物資調達に限定すべきだろう。
・レベル3(4~5)
現地住民との交流を通して危険度を下げる事を意識して活動せよ。
過去の経験から地域情勢の悪化は活動に大きな悪影響を与える事が判明している。
必要とあれば現地との積極的な交流を通して味方を増やすべきだろう。
・レベル4(6~7)
修復作業を一時中断し情勢の鎮静化を最優先。
現地住民との交流を通して危険度を下げる事を最優先にして活動せよ。
また状況によっては現地情勢を悪化させている元凶をあらゆる手段を通して排除する事も検討に入れる。
・レベル5(8以上)
事態の収拾が不可能と判断した時点で運搬可能な物資を全て確保した後に現場を離れる。
それ程の状況であると考える。
*発見した電波塔を破棄した場合に代わりの物が見つかるのか?
*電波塔を新たに占拠する場合のコストはどうなる、賄えるのか?
*次の電波塔が使い物になるのか不明、留まった方がいいのではないか?
・現地住民との交流はどの程度まで考えるか。
基本的には何時か切れる関係であり深い交流を築く必要はないと判断。
交流、或いは交易に必要最低限の交流があればいいのでは?
・現地住民の交流、敵対に関してどこまで行うか。
犯罪者、野盗等の敵対した人間は基本的には殺害する。
上記以外の人間には第一手段としての殺害は行わず、交渉を優先。
潜在的に敵対する人物 → 殺害以外の方法、穏当な解決が望めない場合は殺害か?
状況に追いつめられ殺害対象になった人物は → その状況は一体何を指している?
子供の犯罪者はどうする → 殺人を犯した場合は殺害、か。
→ 殺人以外は────分からない、罰してどうする。
救援を求めてきた → 物資等に余裕があれば助けるか、無ければ──見捨てるのか?
対応によっては現地人よりも自分のメンタルが傷付く可能性が高い、メンタルセラピーは可能か?
少し疲れた、今日は此処までとする
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最優先は帰る事、サリア、ルナ、アンドロイド達の下に帰る事である。
それを念頭に入れて活動するのは当然として俺の心は何処まで保てるのか……
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ノヴァの働けという発言に対してアルチョムとセルゲイは一応の理解は示していたが会議に参加している傭兵二人は違った。
「余計なお荷物なら抱え込まなくて良くない?」
「アタシもそう思うわ。彼らには悪いけど追い返してしまえばいいじゃない。ボスが態々そこまでする必要はないと思うけど」
オルガとソフィアはそれぞれが疑問に思った事を口に出した。
彼らにしてみても駅やコミュニティから追い出された移住希望者と呼ばれる棄民を何度も見た事がある。
そして受け入れ先で彼らが余所者として肩身が狭い思いをしながら暮らしているのも知っている。
何処の駅もコミュニティも余裕がある訳でなく優先すべきは同じ場所に住む隣人であり余所者は後回しになるのが常である。
だからこそ、そんな彼らを受け入れるノヴァの判断が理解できなかった。
「確かに二人の言う通りだよ。キャンプにとって移住希望者なんて余計なお荷物だ」
アルチョムとセルゲイと違ってノヴァと重ねた会話が少ないので人柄を知らない事と非常に金払いのいい人物としか見ていない事も重なり未だに傭兵二人はノヴァの人柄を図りかねていた。
だからこそオルガとソフィアは今回の会話を通してノヴァの人柄を知ろうとした。
それは今後とも傭兵として取引を続けていきたいからだ。
「理由は幾つかある。1つ目、彼らの受け入れを拒んだとして他に行く当てはあるのか。そもそも他に行く場所がないから辺鄙な此処まで来ているという可能性が高い。そして受け入れを拒まれた人々は何処か安全な場所でも探すだろう。そして都合がいい事にこの辺りはミュータントを粗方駆逐したお陰で当分の間は安全地帯になるから勝手に住み着く」
メトロに居場所がなくなって地上に逃れてきた移住者達だがキャンプに受け入れを拒否されても何処かで休み寝る必要がある。
そして都合がいい事にキャンプ周辺はノヴァの積極的な駆除のお陰でミュータントの数は非常に少なくなりメトロの住人にとって住みやすい環境になってしまっている。
追い出され、行く当ての無い彼らは何処か適当な廃墟に住み着くのは自然な流れだ。
「2つ、大量の物資を投じてミュータントを駆逐したのに移住希望者が餌としてミュータントを呼び込む可能性がある。加えて餌と競合相手が少ない環境はミュータントにとっても美味しい土地になる」
ノヴァが苦労してミュータントを駆除したキャンプ一帯は餌となる生き物がいない。
何故なら一帯で定期的な駆除を行う事でミュータントの侵入を防ぎ、餌となるミュータントの増殖を防いでいるからだ。
ミュータントは当然の様に生物であり他の種のミュータントを襲い殺し、その肉と血を食らって生きる生物、食べ物がなければ生きていく事は出来ない。
だが其処に人間がいれば話は変わってくる。
ミュータントの多くは雑食か肉食であり捕食対象は多様、そして対象には当然の様に人間も含まれており彼らにしてみれば人間も餌の一つでしかない。
そんなミュータントは競争相手が殆どおらず、加えて狩りやすい餌が大量にいる土地を見逃す事はなんてことがあり得ない。
遠からず移住者が見えないところに住み着けば彼らを狙うミュータントが現れる。
そして其処が穴となり再びキャンプにミュータントの侵入を許してしまう可能性が高い。
「3つ、住み着いたはいいが彼らは人間であり生きていく為の物資が必要で、それらを何処から調達するのか。追い詰められた人間は生きる為に盗みでも何でもするぞ」
礼節、順法精神、思いやり、優しさ、それは満ち足りた人間だからこそ出来る事である。
だが反対に満たされない人間はどうなるか、それをノヴァは嫌という程悩み思い知らされてきた、善意が良い様に利用される事を知っている。
そうしてノヴァは追い詰められた人間の善性は信じられないと学んだ、それが当たり前であると知ったのだ。
だからこそメトロから追い出されてきた移住者を悪い意味で信用しているのだ。
「4つ、彼らの対応で少ない人出が更に警備に割かれる。此処にいるのはアルチョム達の村から借りた人員で回しているが人手に余裕があるとは言えない。信頼できる人間は現状では限られるからだ」
ノヴァが使える人員は限られている。
その限られた人員で廃墟を調査し、ミュータントを追い払い、日々消費される食料品等の物資購入等を行う必要があるのだ。
現状の人員運用は正直に言ってギリギリの状態、もしアルチョムがいなければ何処かで破綻してもおかしくは無い運用であるのだ。
これ以上余計な負担が増えてしまえば運用は破綻してしまう、努力や精神力で補える範囲を超えてしまうのだ。
破綻を回避するには人員を増強するしかないがノヴァが現状信頼できる人材は限られる。
そして人材の供給源たるアルチョム達の村にも人手が必要な事からこれ以上の増強は難しいのだ。
「5つ、移住希望者の放置は今後の活動において無視できない不確定要素となる。対策は出来るだろうが彼らが何をするのか常に警戒しなくてはならない。そうすれば常に余計なリソースを費やすことになる」
彼らを放置した結果、ノヴァはキャンプ周辺に居を構えた彼らが何をするのか常に警戒をしなければならない。
彼らは一体何をするのか、製造した品々をキャンプに侵入して盗み出すのか、集団で押し寄せてキャンプに入れろと要求するのか。
その行動を完全に予想する事は困難であり、一つでも想定外であれば今後の活動は難しくなるのは間違いない。
「放置するのは簡単だが、その後に起こるだろう問題が大きすぎる。なら受け入れて制御下に置く。そしてある程度行動をコントロールして無駄飯ぐらいにならない様に労働力として活用する。色々と準備が必要だろうがそっちの方が結果的には安上がりだ」
彼らを受け入れるのは人道の為ではない、コストの問題であるのだ。
放置して後々の活動に大きな障害となる不確定要素とするか、リソースを投じて制御下に置き無害化か若干のプラス要素に転じさせるか。
酷い言い方をすれば移住希望者という不良債権をどう少ない金額で処理できるのかという問題なのだ。
「ふーん」
ノヴァの考えを一通り聞いたオルガはノヴァの理屈にある程度の納得は出来た。
確かに移住希望者の取り扱いを間違えれば彼らが牙を剝くだろう事は想像に難くない。
メトロにおいて人口は勢力の大きさを測る指標の一つであるが多過ぎても取り扱いに困るのが人口なのだ。
最低限の衣食住を保証できなければ彼らは容易く犯罪者となり勢力を内側から冒す病巣にもなるのだ。
「因みに聞くけど殺さないの?」
だからこそオルガは聞いてみたかった、移住希望者という棄民を殺さないのかと。
彼らを現状に負担を強いるコストと認識しているのなら極論ではあるが殺害も一つの選択肢に入る筈だ。
だがノヴァは彼らの殺害を選択肢に入れなかった。
意図しての事か、或いは単純に見落としていただけなのか。
そこを問うたオルガだがその直後自らの発言を悔いる事になる。
「はは、……面白い事を言うな、お前」
ノヴァの表情が抜け落ちた。
まるで能面の様になった顔をオルガに向けてノヴァは口を開いた。
「殺す手段はなんだ、銃で撃ち殺すのか? ナイフで喉を掻き切るのか? それとも廃墟の屋上まで登らせて下に落とすのか? 殺害に使われるリソースと時間が無駄だ。それともお前らは報酬を払えば殺してくれるのか? マフィアの様な人間の屑じゃない、老いぼれた老夫婦を、兄弟を連れてきた子供を、乳飲み子を抱えた母親を、幼い子供を背負った父親を、全員、一人残さず、しっかりと殺しきってくれるのか?」
悪人なら躊躇わずに殺せる、彼らに悪魔と呼ばれようとノヴァが気にかける事は無い。
この世界、ポストアポカリプスな世界で生きるのであれば自力救済が基本原則であるのだ。
頼りになる警察も司法も軍隊もいない、自分の身を守れるのは自分だけである。
その大前提をノヴァは理解し、適応し、実践しているだけだ。
だがそれ以外は踏み出せない、踏み出してしまえば散々化け物と言われた己が本物の化け物に成ってしまうのだ。
感情を排し、効率だけを突き詰めた怪物に成り果てるのだけは嫌だ、それがノヴァの最後の一線であるのだ。
「済まないボス、出過ぎた事を口にした。以降はこの話はしない、約束する」
「ボス、彼女を止めなかった私も悪かった。もし彼女が同じ話をしようとすればアタシが殴って止めるわ」
「ならいい、二度と口にするな。それと今日は事前に指示した通りに動いてくれ。明日から本格的に動き出す。悪いが出て行ってくれ」
オルガとソフィアの謝罪をノヴァは聞き入れた。
そして会議は中断し部屋から全員出ていったのを確認してからノヴァは両手で顔を覆い、深く、深くため息を吐き出した。
視界を閉じ余計な情報を排した暗闇の中でノヴァは荒ぶる内心を鎮める。
「病は気からという諺がある。だから落ち着け、落ち着いて対応を考えろ」
表情が抜け落ちた顔を両手で隠しながらノヴァは意識して気持ちを切り替え、考える。
状況悪化を避けるために実施する仮設キャンプの大増築はどの程度を想定するのか、受け入れ後の生活をどうするのか、何を食い扶持にして稼がせるのか、増えた住民をどう統治するのか、警察権を持たせた組織は作るべきか、拡大したキャンプを防衛する武器は足りるのか、信頼できる人員はどう集める、…………。
「クソ! 何時になったら帰れる!」
遠目に見る限りでは電波塔のアンテナの状況は酷い物だが使えるのか、破損はどの程度なのだろうか、アンテナが基部から腐食して使い物にならないのか、少し機材を修復しただけで使えるようになるのか。
順調とは程遠いながらも少しずつ電波塔の修復に向けて準備をしてきたが足りるのか。
実際に登って詳細に調査しなければ分からない事ばかりだ。
そして最短最速を目指し、現地との余計な交流を避け必要最低限に留めてきたノヴァだが状況は一変した。
もはやキャンプの存在を誤魔化すことは出来ず、今後の活動方針を改めなければならない。
だが衆目を集めてしまった以上どの様な事が起こるのか全く予想が付かない。
移住騒ぎだけで収まってくれるのか、それ以外の厄介事も出てくるのか。
どれ程の効果があるのかは未知数、噂は何処まで広がるのか、メトロからキャンプを目指す人間はどれ程いるのか分からないのだ。
「……もう少しだけメトロに関わるべきだったのか、それとも最短最速に固執して修繕にリソースを集中させ過ぎた事が間違いなのか」
広く現地との交流を構築し長期的な視点で修繕に取り組むべきだったのか。
或いはメトロに積極的に関わっていればこのような事態は避けられたのかもしれない。
余計な考えが、無駄な思考がノヴァの脳を満たし始める。
「だが、そもそもアルチョムが助けた奴隷が本当に情報流出源なのか」
マフィアによって玩具にされた奴隷の子供達、地上拠点の一室に押し込められていた彼らをアルチョムは助けた。
今でも一部の子供達はキャンプの治療施設で安静状態にあり寝たきりだ。
だが攫われてきた子供の中で怪我の浅い子供数人は交易に同行させ両親がいる場所に帰して来たらしい。
その過程で道順を覚えた可能性もあり得るが、消耗していた子供達が正確な道順を覚えているのだろうか。
もしかしたら──
「……辞めだ、今はそんな事にまで思考を割く余裕は無い。急いでキャンプの拡張案を設計して取り掛からないと」
答えのない思考、空想など時間の無駄だとノヴァは切り捨てる。
今考える事はキャンプを目指して集まってくるメトロの住人とその対応だけに集中しなければならないのだ。
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・放送局を占拠しました。
・施設を完全に制圧しきれていません。
・ランダムでミュータントが襲撃してきます。
・簡易陣地(改)を作成:ミュータント迎撃効率10%向上、
・迎撃用の罠を多数設置:迎撃効率20%向上
・放送設備は使用不能です。
・労働可能人員:1+10人+村からの一時的な避難民+???
*大量の移住希望者が向かっている
→キャンプには彼らを収容する余剰は無い!
・放送局制圧進行率 :98%→駆除はほぼ完了している
・放送設備修復率 :0%→被害状況の調査を予定している
・仮設キャンプ:稼働中
・食料生産設備:稼働中・自給率は低い
・武器製造:火炎放射器 生産完了:予備以外の追加生産の予定は無し
・道具製造:汚染除去フィルター(マスク用)市場流通分の追加生産を予定
・バイオ燃料:生産中
・ノヴァ:精神がコトコトと弱火で煮られています。
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