第87話 潜伏記録

 潜伏記録1日目。

 今日から音声で記録を残す事にした、音声記録はヘルメットのレコーダーに記録していつでも聞き返せる様にしている。


 まさか自分が映画やゲームでありがちな行動を採るとは思わなかった、だが正気を保つ為には必要な事だと痛感している。

 映画やゲームではそんな物を残さず行動しろよと思って馬鹿にしていたが当時の自分の浅はかさに説教をしたくなる。

 実際にやってみれば誰に聞かせるわけでもない独り言を残しているようにしか見えない、だが実際にやってみると次第に落ち着いてきた。


 それと救難信号を出そうとも思ったがサリア達の代わりにエイリアン共が迎えに来そうで押すに押せない状況だ。

 起動させるとしたらエイリアンの支配地域外に出てからでないと怖くて押せない、とりあえず誤作動させないように回路を切っておく。


 さて、正直に言って状況は最悪だ。

 エイリアン共が消えてから施設の中を探索したが全容は未だ掴めない。

 建材からして人工物のようだがエイリアンが作ったものか人類が作ったものか全く判別できない。

 それでもかなりの時間を隠れながら行動を続けたが流石に限界がきて中断せざるを得なかった。

 今は施設の奥まった場所に隠れている、積もった埃の量からして早々に見つかることはないと思うが断定はできない。

 安全確保の為に手持ちの手榴弾で即席のトラップを仕掛けた後に此処で今日は寝ることにする。

 危険だが、そうしないと体が持たない。

心配なのは寝付けるかどうかだが……深くは考えないでおこう。



 それと今の状況が夢で、目が覚めたら何時ものベッドで寝ている事を願う。






 潜伏記録2日目。

 夢ではなかった、覚醒して目にしたのは見慣れた光景ではなく埃が積もった薄暗い空間だった。

 流石に気分が落ち込んだがじっとして居る訳にはいかない。

 生き残りたいのなら行動を起こさないといけない、そう考えて探索を再開した。


 それと今日から探索の際には強化外骨格を脱いで隠密に特化した装備で行う事にする。

 隠密特化だとエイリアンに見つかって戦闘になったら危険であり高確率で死んでしまうだろう。

 だがそれは強化外骨格を装備した状態でも同じ、エイリアンの一匹二匹やったところで囲まれて袋叩きにされる結末しかない。

 いま必要なのは戦闘能力ではなく隠密性能、エイリアンに察知されずに行動ができる事が重要であると判断した。


 それと収穫は少ない、施設には吹き抜け空間があって大体の構造に検討をつけることが出来たがそれだけだ。

 詳細は端末に記録して幾つか予想図を描いてみたが自信はない、先ずは地道に探索を重ねていく必要があるだろう。


 あと食料と水が尽きそうになっている。

 少しずつ飲み食いしていたが元から量が少ないのもあって残りは一日分といったところだ。

 何とか食料と水を見つけ出す必要がある、だが見つかるのか、不安は尽きない。


 今日は此処までにしよう。

 明日の目標は水と食料、それと予備の隠れ場所も幾つか発見することを目標とする。







 潜伏記録3日目。

 今日は施設の下層を探索しようと下に降っていくとエイリアンの雄叫びと銃声が聞こえた。

 見つからないようにひっそりと発生源に近づくと其処ではエイリアンと小さい何かが戦っていた。

 目を凝らして戦闘を観察すると驚いた事にエイリアン以外の生物がいた。

 小型犬くらいの大きさで見た目は四つ足のサソリのような……虫? 爬虫類? とにかくそれが集団でエイリアンを襲っていた。 

 しばらく眺めていたが多勢に無勢でサソリが一見有利に見えたがエイリアンの武装を前にしては動く的にしか過ぎずサソリみたいな生物は難なく駆除された。

 それからエイリアンが去った後にサソリを調べてみたが姿形がエイリアンに近く近縁種なのか野生化した個体かもしれない。

 それと死骸はそこそこの大きさであり、銃撃で吹き飛んだ四肢は食べられそうなのでいくつか回収した。


 どうやら今いる施設は下方向に向かって拡張を行っている途中らしく兵士クラスとはまた違ったエイリアンを見つけた。

 ツルッパゲの青白い人型が黙々と働いていた光景はひたすら不気味であり背筋が寒くなった。

 その後も怯えながら下層の探索をしていると工事が完了していない区画を発見した、するとそこには剝き出しの地層があった。

 今自分がいるのはエイリアンの宇宙船ではないかと頭の片隅で考えていたからうれしい発見だった。

 それから働いているエイリアンを観察することで休息所らしき施設、いや装置を発見した。

 不気味なエイリアンではあるが生命体である以上休息は必要らしい、装置を調べると寝ているエイリアンの口の中にゲル状の何かを流し込んでいた。

 食料と水分補給を兼ねたものだろう、そこから装置に繋がっているケーブルを辿って地下水脈を汲んでいる装置を発見した。

 ゲル状物体に加工される前の段階で水を補給できるように揚水装置をバレない様に弄った、これで水については問題ない。


 此処で今日の探索は切り上げた。

 隠れ家候補も幾つか見つけそのうちの一つで今日は過ごすことにする。

 あと今日の晩御飯はサソリ? の脚の丸焼き、エイリアンの銃を分解して即席のレンジを作って加熱する。

 味は……何だろう、でかい虫よりマシ、かな、鶏モモ肉? いや違う、マジで何だろう。

 まぁいいや、明日の目標は上層の調査、食べたら早めに寝ることにする。


 おやすみなさい。











 潜、ぷ、……4日、メ。


 ダメ、今日、は……メ、あし、た。











 潜伏記録5日目

 腹を下した、生焼けだったようだ。

 昨日は一日中下痢が止まらなかった、隠れ家でずっと蹲っていた、だが吐き出した諸々が不味かった、その後も。

 順を追って説明する。


 ・腹を下して下痢が止まらず隠れ家の隅で出し続けていた。

 ・下痢の匂いを嗅ぎつけたのかサソリが大挙して押し寄せる。

 ・急いで応戦、その最中にエイリアンもエントリー、三つ巴の大乱闘スマッシュブラザーズ。

 ・下層で人間が居た事を知られないためにオレ暴れまわる、その際ボヤ騒ぎを何件も起こす。

 ・警報鳴り捲り、少し下痢が収まったら持ち物持って全力で逃走、サソリをおびき寄せるために糞濡れの衣類をエイリアンに投げつけた。


 結論から言えば昨日は人生最悪の一日だった、どうして生き残れたのか自分でも分からない。


 だが俺は決断した、絶対此処から生きて逃げてやると。


 とりあえず別の揚水装置から水を拝借、身体を清めて食事は芯まで熱を通して食べた。






 潜伏記録6日目

 今日は上層を探索、此処は色々な施設があり武器庫や機甲戦力? らしき多脚兵器が幾つもあった。

 気になるが後回しにして探索に集中する、上層は施設の多さに比例してエイリアンの数も多く探索は慎重に行う必要があった。

 また探索途中に施設全体を管制している部屋らしきものを発見、制圧するにはエイリアン数が多く不可能であったため床下を這いずり回って回線を拝借した。

 気付かれない様に幾つも細工を施したお陰でエイリアン側は全く気付いた様子はない。

 急いで端末に詰め込めるだけの情報を詰め込んで急いで退散した。


 そして隠れ家に戻ってから情報を解析、漸く施設の全容が判明した。

 あと地上に出るために出入口を発見したが外部に関する情報は少なく気温が非常に低い事しか分からない。

 だが希望は見えた、これからすべき事はどうやってここから出るか、その手段を見つけることだ。

 細かな調査は明日に回す、疲れたので今日はもう寝る、お休みなさい。






 潜伏記7日目

 奴等の戦車を奪って逃げることに決めた。


 探索の最中に見つけた多脚兵器はエイリアンにとって戦車のように運用する兵器であるらしい。

 搭載されたエネルギー兵器や実弾兵器は強力でありこれを使わない手はない。

 大まかな計画としては奴等の戦車を奪って地上に脱出、これを基にして計画を立案し問題を解決する。


 まず格納庫だが当然の様にエイリアンが巡回しており数も多い。

 多脚戦車もデータによれば三機待機状態にあり、この内一機を強奪しても残り二機が襲い掛かれば撃破されてしまう。

 それを防ぐには格納庫にいるエイリアンを殲滅して起動させない様にするかハッキングを通して操作権を奪うしかない。

 ハッキングは……できるのか? 

 いや、やるしかない。

 無力化するか遠隔操作できるように細工を施すか、今後を考えれば戦力を増やすためにも遠隔操作できるようにするべきだろう。


 地上に出るには通路を塞いでいる隔壁を解除する必要があるがこれは簡単だ。

 問題は異変に気付いたエイリアンへの対応、まず間違いなく大量のエイリアンが押し寄せてくるだろう。

 馬鹿正直に戦うのは無し、最優先するべきは戦闘を行うことなく地上へ脱出する事だ。

 その為には脱出に合わせて同時多発で問題を起こしてエイリアンを対処に向かわせて分散させる必要がある。


 よし、やることは決まった。

 仕込みの一覧を作成してから今日は寝ることにする、お休みなさい。






 潜伏記録8日目

 クソ! あのタコ死んでいなかった、クソが! 

 ……落ち着け、落ち着け、よし落ち着いた。


 今日は脱出に向けての仕込みを行っていた。

 施設全体を移動して効果的な場所にエイリアンからちょろまかした武器で作った爆弾を設置。

 信号を流せば何時でも起爆できるように下準備を行っていた。


 だがその際に奇妙な部屋を発見、回収したデータからは正確な用途を推測できず放置していたが如何やら上位個体専用の空間であったらしい。

 琥珀色の液体で満たされた巨大な水槽の中には空飛ぶタコがいた、クソッ! 

 如何やら上位個体の記憶中枢だけを移植して身体は新しく作っているようだ。

 しかし今日見たタコの大きさは研究所で見た姿に比べて二回り以上小さく再生が始まってから日はまだ浅いようである。

 だからと言って無視できるものではない、再生が完了するまで残された時間もデータによれば48時間しかない。


 いや、まだ48時間もある、とりあえず仕込む爆弾を増やす事にした。

 それとタコは一人で倒せるような相手ではない、そんな相手と真面目に戦う気は最初からない。

 何はともあれ時間との勝負、今日は爆弾を作ってから寝る、お休み! 






 潜伏記録9日目

 今用意できる最大の爆弾を二つ用意した。

 一つはこの施設に電力を供給している発電施設へ設置、残った一つはタコが浮いている水槽へ仕込んだ。

 どれも特別製であり破壊力は太鼓判を押せる代物だ。


 そして設置が終わり次第格納庫の制圧に取り掛かった。

 エイリアンの数は三十ほどいたが一体一体丁寧に始末して気付かれた様子はない。

 格納庫へエイリアンが侵入しない様に隔壁を下ろして外部からの操作を受け付けない隔離状態に移行、これで異常に気付かれても時間稼ぎにはなる。

 3機の多脚戦車の内1機は自分が操作するので外部から遠隔操作されない様に信号受信機器をすべて取り外した。

 残った2機も遠隔操作に必要ない信号受信機器を取り外しシステムの書き換えを行っているがあと8時間かかる。

 格納庫の制御室から外部に対して偽装データを送っているがいつまで持つかは分からない、だがやるしかない。


 あと格納庫で運搬用の多脚歩行機械を発見、こちらも多脚戦車と同様の細工を行いながらコンテナを積んでいく。

 中身はエイリアン側の武器、弾薬、機材、その他諸々がたっぷりと詰まっており根こそぎ持っていく。

 これでエイリアン側の戦力を減らせて嫌がらせもできる一石二鳥の冴えた方法だ、素寒貧にして迷惑料代わりに貰うぜ。


 へへっ、俺を此処に連れてきた事を後悔しながら死ねよタコ! 


 よし、やる事はやった、あとは寝るだけ。

 8時間後に脱出作戦決行、それまでお休みなさい! 

 寝るぞ!

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