第84話 実験装置に辿り着け!
研究所のEフロアで行われていたのは地球外技術、通称エイリアンが扱うテクノロジーの分析、解析、研究である。
当時は既に帝国との戦端は開かれていたが連邦は可能な限りの人材と設備を投資して極秘プロジェクトとして研究所を建設。
対帝国、又はその先にある戦後を見据えてスタッフ達は日夜研究に没頭した。
特にエイリアンから回収した技術で有望視されていたのはワームホール発生装置である。
エイリアン側の用途は不明だがワームホール技術が齎す恩恵は絶大であり、戦後の宇宙開発競争において圧倒的なアドバンテージとなりえた。
人類の生存圏拡大、ワームホール技術の独占による市場の独占、軍事兵器への転用、国際的な影響力の増大の為に最優先で研究が進められた。
だが連邦の想定とは裏腹に対エイリアン戦線は悪化の一途を辿った。
拡大する被支配地域に対して漸く危機感を覚えた首脳陣によって戦略兵器の集中投下による早期決着が図られたが一歩遅かった。
研究所に侵入したエイリアンの軍勢はワームホール発生装置を占拠し何処かへ繋ごうとした。
だがスタッフの機転によりエイリアンは長い間眠りについていたが目覚め再び装置を起動した。
研究所の敷地面積の六割を占める広大な実験施設。
施設の中央にあるのは実験的に建造されたワームホール総合試験装置、技術的に未知の部分が多い事等から設備は巨大なものになり必要とされる電力も膨大であった。
そのため地下にある実験装置に必要な膨大な電力を供給する核融合システムを併設しなければならず、結果的に施設は街から独立して運営が可能になった。
実験装置以外にも中央を囲うようにフロアには大小様々な実験、観測装置が乱立し、エイリアンのコールドスリープによる影響によって機材の多くが薄氷に覆われていた。
電灯の光が反射して煌めく姿は一種の幻想的な光景に見えなくもない。
しかし実際には実験装置の傍にいる巨大なエイリアンが幻想を掻き消し、光景を見た誰もが悍ましいと思ってしまう惨状が広がっていた。
『……実、験装置……起動、250秒……』
そして今、フロアに鎮座する実験装置は電力を供給され唸りを挙げて稼働を始めている。
その光景の中心にいるエイリアンだが昔も今も変わらずに只ひたすら己に定められた役割を熟していくだけである。
空間を穿つ穴が開通するまでにはまだ時間が掛かる、その合間に上位個体は施設を掌握しようと配下の軍団を動かしたが進捗は悪い。
遭遇した正体不明の勢力の抵抗は予想以上であり、現時点においての損害は無視するには大きすぎた。
故に上位個体は施設の保存を最優先にした戦闘を中断、施設の破壊を含めた戦術の見直しを行うと共に戦力の一部を迂回させ抵抗勢力を挟撃する命令を下そうとし──その直前、破壊音が轟くと共にフロアの一部が破壊された。
『63秒、到着です、到着しましたよ!』
「良く出来ました五号!それにしても外側と違って中の保存状態は良好──」
破壊された箇所から現れたのはノヴァ率いるアンドロイド部隊、フロアを遮る壁を破壊して進んできたので煤や埃にまみれているが大きな消耗は無い。
ノヴァ達は開けた視界から研究所の心臓部であるフロアを見渡し中央にある稼働している実験装置を直ぐに見付ける事が出来た。
──それと同時に実験装置の傍にいるエイリアンの姿に驚愕してしまった。
「わぁ~お、でっかいタコが宙に浮いてら」
『何ですかアレは……、あんなものが存在しているなんて』
「悍ましいですね」
ノヴァが見たエイリアンの姿は宙に浮かんだタコとしか形容できない姿であった。
宙に浮いているのは人型重機の3mを超える巨体、如何なる原理で浮いているのか全く見当がつかない。
タコの特徴である軟体に加え太い触手が何本も生えては何も無い中で波打ち、その内の何本かが実験装置に突き刺さっている。
身体の表面は人間のような皮膚で覆われており生々しい血管が幾つも浮き出ている姿は異形感も合わさって不気味の一言である。
『勝てる?倒せる!阻止でき…データ、不足、該当データ無し!お父様、一旦撤退しましょう!情報が何もありません、演算が出来ません!危険が大きすぎます!』
此処へ来た目的、ワームホールの発生阻止を達成するための演算が出来ない。
正確な演算を行う為には事前に正確な情報が手元にある必要がある、だがそんな物は此処には無い。
不確定要素が、未知が多すぎた、正確な演算など出来る筈も無く五号から導き出されるのは幾つのエラーだけだ。
「成程、それじゃ実験装置に突き刺さっている触手は一本残さず切る、実験装置は完全破壊、以上!」
『お父様!!』
五号が操る機器はノヴァの言葉を聞き間違える事無く正確に拾う。
だからこそ信じられない、現状を理解できないノヴァではない、この先に待ち構える危険も理解できる筈なのだ。
しかし五号のカメラが映したのは何時もと変わりないノヴァの横顔であった。
「五号、逃げる段階はとっくに通り過ぎた。情報の有る無しに関わらず装置を破壊しないと駄目だ」
『馬鹿なんですか!未知の敵です、死にますよ!』
「ゴメンな、五号。お父さんは頭のいい馬鹿なようだ」
そう言ってノヴァはカメラに向かって笑い掛ける。
ノヴァとしても五号の疑問に対してしっかり向き合って話し合いたいが時間がない。
破壊して出来た入口からノヴァは中央に向かって走り出し──だがノヴァは急いで瓦礫に身を隠す。
その直後ノヴァ達がいる場所に向けてエイリアン側から猛烈な銃撃が撃ち込まれた。
「予備部隊か、デカブツはいないが数が多い」
隠れた瓦礫から覗き見る限りでは相当数の兵士クラスのエイリアンが確認出来た。
撃ち込まれる光弾は射手の多さもあり濃密な弾幕となってノヴァ達の身動きを封じる。
下手に顔を出せばその瞬間に蜂の巣になるのは間違いない、だが弾幕が途切れるのを待つ事は出来ない。
『シーク…エ、ス起動、…200、秒』
「ノヴァ様、私達が抑えます。セカンドと共に中央へ」
「任せた!」
タイムリミットは刻々と迫っている、中央にある実験装置から聞こえる音は益々大きくなっている。
悠長に考えている暇は無い、ノヴァは護衛部隊長の進言を聞き入れると共に、携行している閃光手榴弾をエイリアンの集団に向かって投げ入れる。
設定された起爆時間を迎え轟音と閃光がフロアを覆う、エイリアンの弾幕が一時的に途切れた瞬間を逃さずノヴァとサリアは同時に動きだした。
走り出した二人は注意を分散させる為に途中から二手に分かれ中央にある実験装置に向かう。
だが閃光手榴弾による一時的な混乱から立ち直ったエイリアンは二人を阻止しようと銃を向ける。
一瞬で数えるのは不可能な銃口の数、だが引き金を引かれる前に護衛アンドロイド部隊による銃撃がエイリアンを襲う。
正確な銃撃によって銃口を向けていたエイリアンの頭が吹き飛び、銃を携えた腕が吹き飛ばされる。
銃撃を避ける為にエイリアンは実験装置の影に隠れ、多くのエイリアンが応戦せざるを得ない状況に追い込まれた。
無論エイリアンの全てが釘付けになったわけではない。
ノヴァの目の前に現れたエイリアンもその内の一体、構えられた銃口が仄かに発光する──が撃たれる前にノヴァが構えていた小銃によって蜂の巣にされた。
「邪魔!」
糸の切れた人形の様に倒れ込むエイリアンの死体を蹴とばす。
その直後に目の前に現れたエイリアンにもノヴァは速度を落とす事無く突き進む。
槍の様に突き出した銃口が乱杭歯を砕いて入り込み銃撃、頭蓋骨と脳漿を撒き散らして即死するエイリアン。
弾切れを起こし突き刺さった小銃はそのまま、引き抜く手間が惜しいとばかりに先程殺したエイリアンの銃をノヴァは拾った。
「いい武器じゃん、貰うぞ」
SFチックな見た目であるが性能は身を以て知っている。
どうやら個別認証等のセキュリティーも無いようでノヴァにも問題なく使えるようである
両手にエイリアン製の小銃を構えノヴァは進行方向に立ち塞がる敵に銃撃を行っていく。
「邪魔だ、死ね!」
ノヴァの罵声と共に放たれた光弾はエイリアンの身体に着弾すると共に肉を弾き飛ばし指先程度の穴が出来る。
光弾一発では小さな穴であるが短機関銃の如く撃ち出される光弾によって穴だらけにされたエイリアンは極短時間の内に大量出血を起こされ力尽きた。
だがノヴァが一体倒しても直ぐに二体目が現れては進行方向を塞ぎ、また銃撃をして来た。
脚を止めることなくノヴァは横に逸れる事で躱すが方向転換をした先にもエイリアンが現れた。
銃口を向けてはいないが此方を認識している、方向を変えようにも聞こえてくる足音からして囲まれるのは時間の問題である。
「だったら上に逃げようか!」
ノヴァは目の前にいたエイリアンを踏み台にして実験装置の上に飛び乗る。
軋みを挙げて実験装置が変形する前に次の足場に飛び移る、それの繰り返しによってノヴァは中央にある実験装置に向かう。
援護射撃もあるが下からエイリアンによる銃撃は大雑把なものである、飛び乗った事でバランスを崩し倒れる実験装置によってエイリアン側が正確に狙えない影響もある。
そして銃撃と轟音と怒声と叫び声が木霊する空間をノヴァは走り切った。
「人類の英知に触手プレイを決めてんじゃねえ!活け造りにしてやんぞ、この薄気味悪いタコが!」
実験装置に辿り着いたノヴァは挨拶代わりに装置に突き刺さっている触手の一本を切り飛ばす。
夥しい量の血が断面から流れ、エイリアンはフロア全体に響く叫び声を挙げた。
そして装置に突き刺していた触手を全て引き抜き、宙に浮かびながらノヴァと相対した。
「初めましてエイリアン、それ以前に言葉通じている?まぁ、どっちでもいいけど」
言葉による返礼は無い、代わりに宙に浮かんだエイリアンは触手を高速で放った。
放たれた触手は命中しなかった、先程迄ノヴァがいた場所に触手は深く突き刺さり床を大きく変形させるに留まった。
「触手プレイは勘弁!そもそもお前出る作品間違っているだろ!」
ノヴァの叫び声にエイリアンは何も反応しない、撃ち出した触手を引き戻し無機質な目で見つめるだけだ。
『シーク…エ、ス起動、…150、秒』
壊れた人工音声によるアナウンスがフロアに響く。
残された時間はあと僅かである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます