第83話 エイリアンVSアンドロイド!!

 地球外から到来したエイリアン、彼等の生態はアリに似ている。

 命令系統はピラミッド型であり頂点に存在する上位個体が命令を出し働きアリ達はそれに従う。

 下された命令に疑問を抱く事も無ければ拒否する事も反抗する事もない、地球外生物でありながら非常に特異な生態系を持っていた。

 

 彼等が最初に確認されたのは帝国と連邦が領有権を主張する係争地である。

 両国の紛争中に前触れも無く介入、地球外のテクノロジーで武装し雲霞の如く押し寄せる軍勢によって両軍に甚大な被害を齎した。

 係争地はエイリアンの手に落ち、其処から帝国と連邦関係なしに侵略を始めた。

 

 この時点で戦争の当事者であった帝国と連邦が停戦し、協同してエイリアンに対処していれば未来は良い方向になっていただろう。

 だがそうはならず両国は協同どころか情報交換さえ行わず個別に対処を始めた、現場レベルでは国家の枠組みを超えて共同する事があったが限りなく数は少ない。

 

 経済、資源、領土、思想、一時的であっても手を取り合うには障害が多すぎた。

 そしてエイリアンの存在と彼等の扱う技術、そのどれもが両国には魅力的な代物であった。

 それらを手中に収めた国が世界を統べる、現実を見ない政治屋によって当初の戦争目的は書き換えられ両国は新たにエイリアンとの戦端を開き二正面作戦を展開した。


 その過程で両国ではエイリアンに関する研究が行われ幾つもの事実が判明した。

 エイリアンは帝国と連邦が戦争の火蓋を切った開戦直前に隕石によって飛来、両国と国境を接する中立国に墜ちた事。

 既に中立国はエイリアンによって壊滅し老若男女問わず全ての国民が犠牲になった事。

 両軍が戦っているエイリアンの正体が犠牲になった中立国の国民を素材にした生物兵器である事を。


 戦場は地獄であった、人と戦い、エイリアンと戦う。

 前線の兵士は心を病み、戦線は膠着どころか押され始め、中立国を幾つも飲み込み強大化するエイリアン。

 最早戦後について考える余裕すら奪われた、そして全てが破綻を迎える直前になって漸く両国は協同する事が出来た。

 

 両国が保有する戦略兵器の集中投下、ハルマゲドンを避ける為に気が狂うような綿密な打ち合わせの末に実行できた作戦は成功した。

 侵略された中立国と自国領土も含めて全てを焼き尽くした、残されたのは幾つもの廃墟と汚染され不毛と化した大地。

 それでも侵略者であるエイリアンは滅ぼせた、世界の破滅を防ぐ為の尊い犠牲であったのだ。


 だがエイリアンは滅んでいなかった、唯一生き残った上位個体は残存戦力を引き連れ連邦の内陸部へ密かに侵攻、ワームホール発生装置を確保しようとした。

 しかしエイリアンの目的は果たされなかった、研究所にいた人間の機転によってエイリアンは全滅の一歩手前まで追い詰められた。

 故に上位個体は自らと残存戦力も含めてコールドスリープ状態に移行、全滅を回避し遠い未来に再起を図る事にした。

 人間では出来ないエイリアンの強靭な生命力と特異な生態系がそれを可能とする、時間はエイリアンの味方なのだ。


 ──そして待ち望んでいた刻が訪れた、コールドスリープ状態にありながら環境の変化を捉えた上位個体が目覚めたのだ。


「GAYAAAAAA!」


 巨大な研究所を震わせる咆哮が放たれた。

 そして引き連れていたエイリアンの軍勢もコールドスリープ状態から目覚め各々が雄叫びを上げる。

 

 二百年もの間人知れず封印されていた脅威、エイリアンの軍勢が動き出す。

 彼等が上位個体から下された最初の命令は自分達を封じ込めていた忌々しい隔壁を破壊する事である。

 指令を受け取った軍勢は各々が持つ武器を隔壁に向けて引き金を引く。

 光弾が、レーザーが、爆発する火球が隔壁に命中し鋼鉄を歪め、融かし、引き裂いて行く。

 

 隔壁はもう間もなく破壊される、その後の行動方針も上位個体は指示する。

 先ずは施設を掌握し彼方にある母星と通信を行う、その後は地域一帯を制圧し新たなる拠点を建造するのだ。

 それが彼らの役割であり存在理由、殺し尽くし、奪い尽くし、支配する、本能として刻み込まれた命令に従うだけ。

 

 そして忌々しい隔壁が砕け散った、破壊の衝撃で宙を舞う煙を差し込んだ日の光が照らしていた。

 その光景を配下の視界を通じて視た上位個体は命令を下す、侵略の再開を。

 

 命令を受け取った配下は動き出す、その姿は光に吸い寄せられる虫のようにも見える。

 そして我先にと進んで行くエイリアンの軍勢、その先頭にいた一体が隔壁を踏み越えようと大きく一歩を踏み出し──


「全機、攻撃開始」


 煙を引き裂いて膨大な数の鉄火が撃ち込まれ身体が弾け飛んだ。

 ノヴァの指示により戦闘態勢で待ち構えていたアンドロイド部隊が時を超えて甦ったエイリアンを迎え撃つ。

 銃弾の嵐と化した弾幕は途切れることなくエイリアンの軍勢に向かって撃ち込まれ続けた。

 

 襲い掛かる銃弾がエイリアンの腕を吹き飛ばし、脚を粉砕し、頭蓋を貫き、肉体を引き裂き臓物を撒き散らす。

 銃弾を防ぐ術を選択できなかった同類が次々と殺されていく。

 だがエイリアンは銃弾が引き裂いた煙の向こう側にいる敵の姿を確認した。


「GURAAA!!」


 敵だ、テキだ、敵だ!

 人間を素材にして作り出されたエイリアンの先兵、彼等は個々の考えを持たない冷酷な殺戮兵器である。

 恐怖を持たず、痛みに怯むことは無い、人間を遥かに超える再生能力を持ち弾丸一発二発では死ぬことは無い強靭な兵士。

 本能にまで刻み込まれた闘争本能が敵を認識した事で目覚める、不意打ちを喰らったエイリアンは仲間の死体を盾にして態勢を迅速に立て直す。

 そして撃ち込まれる弾幕と同等以上の反撃を加え眼前にいる敵を攻め立て始める。

 鋼鉄の隔壁を完膚なきまで破壊した光弾が、レーザーが、火球が今度は敵であるアンドロイドに向かって撃ち込まれる。

 迎撃の為に用意した可動式バリケードが攻撃を喰らい赤熱し、融解し、弾け飛ぶが、機関が作ったバリケードは十分以上の防護性能を発揮する。

 それでもエイリアンの反撃は苛烈を極めアンドロイド達は防御を維持したまま少しずつ戦線を下げていく。

 

 敵の後退を好機と見たエイリアンはアンドロイドの防護を貫く為に更なる銃撃を加えると同時に4mを超える人型の大型個体を突撃させる。

 巨大な身体に見合った強靭な生命力は小口径の弾丸を分厚い肉で受け止め無力化し、大口径であっても怯むことなく進むことが可能な生きた戦車。

 体躯に見合った携行式の砲は爆発性の火球を発射し広範囲を薙ぎ払う事が可能、大型によって敵の防護を粉砕し引き裂かれた敵の陣営に雪崩れ込むのがエイリアン側の作戦であった。


「強化外骨格部隊、突貫!」


 だが突出した大型個体にアンドロイド側の強化外骨格部隊が突貫する。

 強化外骨格の体躯は3m程度である大型個体よりも一回り小さいが、数の多さを活かし大型個体に連携でもって相対する。

 一体を複数の機体で囲むと一機が大型個体の攻撃を引き付けて、残った機体が装備した近接戦闘武器で下半身を重点的に攻め立てる。

 撃ち込まれる火球をアンドロイド達は余裕を持って避け、大振りな攻撃の隙を逃さずに近接武器を叩き込んでいく。

 戦斧が、ハンマーが、巨大な鉤爪が大型個体の脚を砕き引き裂く。大型個体が堪らずに手に持った砲を鈍器として振るうもアンドロイドには当たらない。

 

 極秘研究所の敷地内にエイリアンの咆哮と絶叫が響き渡る。

 銃弾と光弾とレーザーが飛び交い、無差別に振るわれる暴力と統制された暴力によって瓦礫と血肉が撒き散らされていく。

 そしてアンドロイドとエイリアンの戦線は戦力が拮抗し一時的に膠着状態に陥った。

 だが上位個体は戦術を変えずに攻撃を続けて敵を磨り潰していく事を選択し──


「グッドモーニング!そして死ね!」


『お父様!前、前にですぎデス!』


 エイリアンの軍勢をノヴァ達が横から急襲した。

 

 横合いから現れたノヴァの目の前にはエイリアン、その中でも数の多い兵士クラスが十を超えていた。

 その姿は人間を素材にしているせいか人型である。

だが頭部に髪は無く三対の黄ばんだ眼を持ち、剥き出しの鋭利な乱杭歯という人間ではありえない姿をしている。

 

だからこそ躊躇いも慈悲も無くノヴァは刃を振るえた。

 人間より優れた身体能力を保有する為にエイリアンの骨は固く筋肉は固いゴムの様に強靭である。

 だがそんなことは関係ないと言わんばかりにノヴァが振るった剣はエイリアンの首に吸い込まれ肉と骨を容易く断ち切った。

 

 強靭な心肺能力によって首の断面から噴水の様に噴き出る血が雨の様に降り注ぐ。 

 傍にいたエイリアンが振り向き殺意に従ってノヴァを撃ち殺そうとし──だが其処にはノヴァの姿は無く、また振り返ったエイリアンの首も飛んで行った。

 エイリアンの軍勢に紛れたノヴァが辻斬りの如く剣を振るう度にエイリアンの首がポンポンと飛んでいき血の雨が降った。

 

 エイリアンに正面から相対すれば数の暴力で圧倒されてしまう、分かり切った問題に対してのノヴァの出した答えがコレであった。

 元々ノヴァが得意とするのは奇襲であり暗殺である、プレイスタイルとして正面から殴り合うのは苦手なのだ。

 そして強みは強化外骨格を装着する事でさらに強化、大型近接武装を問題なく振るう事が可能となり迅速かつ効率的な殺戮を可能とした。


 だがエイリアンの軍勢は上位個体に統率された群体である。

 脅威を確認しノヴァから離れた場所にいた集団が銃を構える。

 狙いは猛威を振るう一個体、射線上にいる味方ごと銃撃で圧殺する事を選択し──


「ノヴァ様に銃を向けるとは、死になさい肉人形」


 上空から集団の中央に降り立ったサリアが戦斧を振るう。

 その一撃はノヴァの様に優れた技術によって繰り出されたものではない、機体の出力に物を言わせた力任せの一撃である。

 重く長大な戦斧を振り回し間合いに立っていたエイリアンの胴体が引き千切られ、宙を舞った。

 ノヴァとは違い下半身はその場に立ち尽くし、腸を撒き散らしながら両断された上半身が吹き飛んでいく。


 たった二体によって整然としたエイリアンの軍勢が搔き乱された。

 そして二人の崩した戦列に護衛の部隊が銃撃を加えて更なる出血を強いる。


「横っ腹を突いて正解だな!見ろ、エイリアンがゴミの様だ!」


『アブ、危な、危け、ああぁぁぁぁ!何してるんですかぁぁぁぁ!?!?』


「元気だな五号、子供は元気な位が丁度いいぞ!」


『正気ですかぁぁぁぁ!?!?自棄になんないで下さいぃぃぃぃ!?』


 ノヴァ達の攻撃はエイリアンの戦列を揺さぶる事に成功、そして戦列が乱れた瞬間をアンドロイド部隊は逃さず戦線を押し上げた。

 一当たりして反対側のフロアに駆けこんだノヴァが隙間から戦場を観察すれば優勢なのはアンドロイド側であった。

 それでもエイリアンの戦意は衰えること無く、致命傷を負ってなお銃撃を続ける個体が数多くいる。


「しぶといな、流石はエイリアンといったところか。もう一当てするか?」


『駄目です!ダメです!今度こそ死んでしまいます!それに音響センサーを解析したところまだ多くの敵がフロア奥に残っています。ですが映像を分析する限り苦戦はするでしょうが、このまま戦闘を続けていけば勝てます。ですから危険な行為は慎んで──』


『……実験、装置、き、起動、電力充、填……で、300秒、』


 だが五号の必死の説得の最中にその放送が研究所の中に響く。

 音割れした人工音声が伝えるのは実験装置起動のアナウンス。

 それが意味するものは一つ、上位個体が母星と連絡を取ろうとしているのだ

 

「五号の計算だと時間が掛かりすぎる。その間に奥に引っ込んでいる奴がワームホールを起動するから無しだ」


『その通りですけど正面の通路は敵の軍勢で塞がっているの!施設内の見取り図で最短経路を進もうとすれば時間が掛かりすぎてしまうんです!』


「そうか、サリア!」


「了解しました」


 まさに阿吽の呼吸、付き合いの長いサリアはノヴァが言わんとしている事を理解した。

 直ぐに戦斧を床に突き立て右腕をフロアの壁に向けると同時に機体の腕がまるで華が咲くように展開する。

 華の中心には小さな砲、機体に搭載した隠し武装でありサリアの奥の手の一つである。

 其処から放たれた擲弾はフロアの壁に着弾し大爆発を起こした。


「移動経路を確保しました、残り使用回数は7回です」


「という事で五号、奥のフロアまでの最短経路を示してくれ!」


『無茶苦茶だぁぁ!』


 五号が操るカメラから悲痛な叫び声が響く。

 だがノヴァ達はそんな五号の悲鳴を聞き流しながら奥のフロアに向けて進みだした。

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