第61話 ゲームチェンジャー 1

 嘗て連邦と呼ばれた世界を二分にした大国が存在していた大陸、その内陸部には荒涼とした土地が広がっている

 其処は環境に適応できない生物が生きる事を許されない土地。

 年中雲一つない快晴で太陽光は容赦なく荒野を照らし土地を熱していた。

 水は極短い雨期に降る僅か量しか無く、乾いた土地には数少ない草木と低木にそれらを糧とする小型の草食動物、そして極僅かな肉食動物しか


 大崩壊と呼ばれる日を境に世界は様変わりした。

 

 人類文明は崩壊し、人類はその生存圏を縮小し文明レベルは一気に後退。

 そして人間以外の生物に至っては突然変異や進化が僅かな期間で数え切れない程発生し既存の生態系が丸ごと変化してしった。

 その結果として荒野に根付いていた生態系は跡形も無く消えさり新たな生態系が荒野に上書きされた。

 

 そしてミュータントへと変化した動植物は強靭となった身体で己が種の生息域を広げようとし日夜熾烈な縄張り争いを繰り広げる様になった。

 その過程で身体は巨大化し特異な機能を持つミュータントが現れるのに時間は掛からなかった。

 強大な身体を活かして噛みつき、引き裂き、踏み潰す為に巨大化した身体を維持・代謝を行うために必要なエネルギーは突然変異によって獲得した新たな代謝能力が補った。

 そんな巨大なミュータントが跋扈する魔境と化した土地に今日、新たな侵入者が現れた。











 荒野の上空を大型双発ヘリコプターが五機、編隊を組んで飛行している。

 飛んでいる機体は嘗ての連邦軍で大量生産された輸送ヘリの傑作機MTH-23であった。

 交差双ローター式、大馬力のターボファンエンジン2基が生み出す輸送能力で数多くの物資、車両、兵器を運び続けた。

 そして荒野で発掘された残骸を基にノヴァの手によって更なる大型化と若干の改修を施され新生した機体は相変わらず兵器を運んでいた。


 だが運んでいるのは過去の連邦軍が運用していた兵器とは全く異なる新兵器・対大型ミュータント駆逐機動兵器Anti-Large Mutant Destroyer Mobile Weaponである。

 1機の輸送ヘリにAWが1機、計5機のAWが輸送機下部に取り付けられた専用の懸架装置で運搬されている。

 

『目標地点に接近。到着予測時間178secondの遅れ。作戦に影響は無しと判断』


『先行した偵察機から目標地点データを取得。作戦遂行の為の地形データを送信』


 無人化した輸送ヘリに露天懸架されたAWに地形データが送信される。

 機体に搭乗しているパイロット達──今回の試験に自ら立候補した軍用アンドロイド達は送信されたデータを余すことなく閲覧すると機体の最終チェックを再開する。

 そして全機の最終チェックが終わるのを待っていたのか軍用アンドロイド達に新たな通信が届いた。


『本作戦の概要を改めて説明します。作戦の目的はプロトタイプAWの実戦データ収集、目標地点付近に生息しているミュータントを搭載された武装で撃破する事です』


 アンドロイド達の電脳空間に作戦地域の詳細な画像と共に展開しているミュータントの配置図が重なって展開される。

 その数は本拠地から飛び立つ前のブリーフィングと大きく変わってはいなかった。


『先行した偵察機によって大型2体、中型4体、小型23体のミュータントが確認できています。全てライブラリーに登録された個体である為冷静に対処を行って下さい。なお機体が大破、又は稼働が不可能な損傷を負った場合には当該機体を廃棄。搭乗者の回収を最優先として作戦を中断します』


 作戦の趣旨はAWが巨大ミュータントに通用するのか、プロトタイプAWはその試金石でありパイロットである自分達に課せられた役割は重いものである。

 だがパイロットであるアンドロイド達はその責任の重さが心地よかった、戦うために作られた自分達の存在意義を存分に示せるのだ。


『え?はい、はい。えーノヴァ様からの伝言で『機体は壊れてもまた作れるから無理はしない様に』とのことです』


 作戦開始直前であったがCQから流れて来た自分達の主の言葉にアンドロイド達は隠す事なく笑うと共にその心づかいが嬉しいものであった。

 だが心配は要らない、何故なら此処に居るのはAWの概念実装機からプロトタイプ迄関わり育てて来たパイロットである。

 AWの限界は知り尽くしており、何より撤退を含めた潤沢な支援が約束されているのだから失敗の可能性は限りなく低い。


『間もなく作戦予定地域に侵入、各機最終確認を報告せよ』


『α1、オールグリーン』


『α2、オールグリーン』


『α3、オールグリーン』


『α4、オールグリーン』


『α5、オールグリーン』


『確認完了、目標地点に到着と共に拘束を解除。各機作戦を開始せよ』


『了解。第一AW試験小隊、作戦開始』


 試験小隊のリーダーを務めるアンドロイドの声と共にAWの拘束具が解除、5機のAWが空中から投下される。

 拘束から脱したAWが重力引かれ降下する、輸送ヘリの高度から計算し接地迄10秒弱。

 一秒ごとに地面が迫り高度が30mを下回った瞬間AW各機は背部と脚部に装着されたブースターを起動。

 吐き出される推力が落下速度を軽減しAWは墜落する事なく地面に降り立った。

 そしてブースターから吐き出された推力で巻き上がった砂埃を突き破ってAWは目標地点に進む。


 その姿は鋼鉄で造られた巨人と言えるだろう。


 全高約10mの人型の起動兵器、戦車や戦闘機の様な人類兵器に対して特化したのではなく大型化したミュータントの討伐に特化した新たなる兵器。

 小型化した核融合炉を起点にして多様な状況・環境において兵装を任意に変更する事で戦力を一定に保ち継続した戦闘を可能にする事をコンセプトに作られた。

 大崩壊前の軍人たちが見れば呆れるか笑うしかない珍兵器でしかないだろう、だがノヴァは胸を張って彼等に言うだろう──この様変わりした世界において必要とされる兵器はAWであると。


『目標捕捉、小型7体』


 鏃の様な編隊を組んで脚部に搭載されたホバーで荒野を進むAWは進行方向に作戦目標であるミュータントをその単眼で捕える。

 AWのメインカメラがとらえたミュータントは昆虫の様な見た目をしており胴体からは細長い足が3対ある。

 闘争用なのか口と思われる器官の上下には鋏のような大型の大顎を持っており身体の大きさも相まって非常に恐ろしいミュータントである。

 高速移動して迫るAWをミュータントも捉えてはいるがその異様な姿に戦うべきがどうか判断が付かないようである。


『各機第一兵装で攻撃開始』


 だがAW側はミュータントの行動を待つつもりはない。

 左腕に装着されたレールガンが核融合炉から供給される潤沢な電力用いて弾丸を加速し撃ち出した。

 弾丸はミュータントとの間にあった距離を一瞬で詰め、そして身体に突き刺ささり──弾着箇所を文字通り消し飛ばした。


 AW試作基本腕部兵器レールガンtype01、AWの基本的な装備として開発され中遠距離からの正確な射撃を可能とする。

 核融合炉から供給される潤沢な電力を活用した兵装であり一射一殺を念頭に置いて開発された。


 小型ミュータントの大きさはセンサーで測ったところ全高約4m、皮膚はライフル程度では傷つけられない程の強靭さであり一体だけであっても討伐にはノヴァ達の最高戦力である遠征部隊の半数が必要だ。

 だがAWがあればレールガンの一撃で仕留める事が可能、事前のシミュレーションで分かりきっていた事だが現実として改めて認識すると凄まじい戦力である。

 しかし倒したのは小型ミュータントであり本命ではない、作戦目標はまだまだ残っている。

 

『小型7体討伐完了。小型7体の背後の布陣していたミュータント群が此方に接近、数を報告、中型4体、小型16体、距離1200』


『了解。陣形を保ったまま後退しつつ射撃開始』


 5機のAWは陣形を保ったまま真っ直ぐに後退を行い、その後をミュータント達が猛烈な勢いで追跡する。

 砂埃を立てながら迫るミュータントは時速90キロを超え100キロに迫る速さを出しているがAWに追い付く事は無い。

 それどころかAW側が速度を調整しレールガンの適正距離にミュータントを誘導していた。


『各機データリンクを行い射撃を開始』


 再びAWによる一方的な攻撃が始まり5機のAWは攻撃目標が重なる事なく一撃で小型を仕留め続ける。

 そして殲滅した小型の屍を越えて中型ミュータントが現れる。


 中型は小型ミュータントを大型化したような姿をしている昆虫型のミュータントである。

 身体の大きさだけでも戦力は向上しているが中型の最たる特徴は遠距離攻撃手段を持っている事だ。


『中型からの攻撃を視認、各機散開』


 AWとの距離は未だに離れているが中型は口元から分泌物を勢い良く吐き出す。

 直撃コースにいたAWは余裕を持って回避する、そして分泌物が弾着した地面は其処に生えていた草木諸共地面を融かした。


『ライブラリーに追加情報を入力。脅威度判定を更新、各機協同して速やかに殲滅せよ』

 

 リーダーの命令に従い5機のAWは集中させた火力を中型に叩きつける。

 レールガンから撃ち出された弾丸は次々と中型に着弾し身体を削り飛ばしていく。

 だが小型よりも大型化した身体は強靭さとしぶとさを増していた。

 弾丸一発では致命傷には至らず全身から鮮血を噴き出し続けながらもミュータントは速度を落とさなかった。

 最終的には神経中枢があると思われる胴体中心部に火力を集中させることで倒す事が出来た。


『中型4体、小型16体撃破。最後の作戦目標である大型2体は初期位置から大きな動きは無し』


 小型を中型との戦闘は極短時間で終わった。

 AWの視線の先には息絶えたミュータントが列を作る様に積み重なり細長い山を作っていた。

 それはミュータントの死骸で作られた屍山血河であり墓標でもあり、その遥か向こうには未だに大きな動きを見せない2体の大型のミュータントが無機質な目をAWに向けているのをメインカメラが捉えていた。


『さてどうするか……』


 リーダーであるアンドロイドは先程迄の我武者羅に突撃するミュータントと打って変わって静観の構えを崩さない大型の対応について迷っていた。

 内陸部に生息するミュータントの生態が未だに解明されていないのも多い。

 それでも今回の試験では事前の航空偵察で情報収集を行い、ある程度の行動パターンが予測できるミュータント群を試験相手に選んだ。 

 だが敵対相手に突撃せず静観する大型ミュータントの行動は今まで観測されていなかったものである。

 その行動が意味するものが何なのかは全くの不明、大きな不確定要素であり試験小隊のリーダーは迂闊に動く事は憚られた。


 だが事態はアンドロイドの考えを超えて動き出した。


『センサーに動き、二体の大型ミュータントが離れていきます』


『逃走か?』


 AWが観測して得た情報は二体の大型ミュータントが此処から離れるのを示している。

 ミュータントも生物の一種であると考えるのなら敵わない相手から逃げ出しているとも取れる行動だ。


『作戦目標はミュータントの殲滅ですが追撃しますか?』


『そうだな……、射撃体勢を維持しつつ前進。大型を追跡し行動パターンに関する情報収集を行う』


 リーダーの命令に5機のAWは従い編隊を組んで逃げる大型ミュータントを追跡する。

 本当に只の逃走なのか、逃げた先に何があるのか、大型ミュータントが見せた行動から十分ではなかった情報収集を補完する事をリーダーは選んだ。

 幸いにも大型の移動速度はそこまで早くは無い、試験小隊は余裕を持って大型を追跡する事が出来た。

 

 そして大型が行った行動の意味を理解できる場面が早々に訪れた。

 異変を最初に感知したのは上空で待機している輸送機の観測機器であった。


『センサーに感アリ!南東200m地点に不審な地面の隆起を確認、警戒せよ』


 警告を受け取った試験小隊は異常が感知された方向にAWの向きを変え──その直後荒野の一角から爆発が起き巨大な砂埃が立ち昇る。

 そしてAW各機がセンサーを爆発地点に向けると同時に砂埃の向こうから爆発を起こした原因が姿を現す。


『これは……未確認の超大型ミュータント!』


 AWのメインカメラは大型を優に超える巨躯を持ったミュータントの姿を捉えた。

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