閑話 地下を追われた者達
第52話 棄てられた、価値がない者達 上
暗く冷たい閉ざされた空間、それが彼等の故郷である。
過去には地方の中核として栄え多くの人と者が溢れていた都市。
その地下には地下鉄を始めとした発達した交通網が蜘蛛の巣の様に張り巡らされていた。
それだけではなく帝国との不穏な情勢を鑑みてシェルターも急速に配備されていき都市の地下は地上の喧騒に迫る勢いで拡張を続けた。
──そして『大崩壊』を迎えた。
パンデミック、ミュータント、アンドロイドの暴走……平和だった世界は砕け散り混沌と恐怖が都市を覆った。
住民たちは地上から迫る災害から逃れる為に地下へと逃げ込んだ。
本来であれば都市の全人口を地下に収める事は不可能であった。連邦政府と地方政府の事前計画では都市からかなり離れた場所に複数建造された大型シェルターに人口を分散させる手筈であった。
手筈は整っていた。避難経路の構築、食糧・医療物資の備蓄は既に済ませていた。だが彼等を襲った災害は予兆も何もなしに訪れ政府の計画は実行に移せなかった。
そうして想定された収容人数を大きく超えた都市の地下は安全な場所ではなくなった。
寝床を求めて争い、隣人の食料を盗み、医療物資を強奪する地獄と化す。
地上に出て都市外のシェルターに向かおうとした者達もいた──そして彼等は膨大な数のミュータント達に襲われ全滅した。
地上で死ぬか地下で死ぬか。彼等は地下で生きる事を選んだ。
それから長い月日が流れた。
数多くの犠牲を払って初期の混乱は収まった。そして地下には生存者達が幾つものコミュニティを作った。
生活空間と物資を巡って時に同盟を結び、時に争い、それでも決定的な破滅を招く事無く地下世界は存続を続けた。
そこで生まれた子供たちは地下に広がる世界をメトロと呼び、それが彼等の世界の全てだった。
◆
心地良い微睡みに浸っている。
辛い事も苦しい事も其処にはない。居心地のいい暗闇である。
「──」
だが暗闇が薄まっていく。光が混じり何処からか音が聞こえるような気がする。
「──、──」
もう少し、もう少しだけ此処に居させてくれ。
だが願いとは反対に暗闇は晴れていき、遠くに聞こえた音は近付いて行く。
そして音が大きくなるに連れて微睡みの中にいた頭が働きだす。
「──、──、─ィル、ウィル、いい加減起きろ」
頭が音を声として認識できるようになって漸く男は目を覚ました。
机に突っ伏して寝ていた男、ウィルは先程迄の居心地のいい眠りが終わった事を惜しみながらも呼び掛けて来た仲間に顔を向ける。
「すまないジョズ、何時の間にか寝ていた。それで首尾はどうだ」
「その事についてダニエルから話があるそうだ。それと寝るなら机ではなく寝床に横になれ。身体を痛めるぞ」
「そうだな。目覚めは良かったが立ち上がった瞬間に肩も腰も痛みだした。次からは横になって寝るとする」
「そうしとけ。腰を壊したらサラが悲しむぞ」
「余計なお世話だ」
ウィルとジョズは互いに軽口を叩きながら歩いて行く。
そして二人が開けた場所に出ると其処にはダニエルが仲間達と共に二人を待っていた。
「首尾はどうだったか……まぁ良くは無かったようだな」
「二人ともすまない。粘ったがこれしか手に入れられなかった」
悔しそうに呟くダニエルの背後には食料に飲料水、生きるのに欠かせない物資があった。
だがその量は少ない。ウィル達が命懸けで地上を駆け巡り集めた物資の半分以下、三割程度しかなかった。
「買いたたかれたな。それで先方はなんて言っていた」
「……此方も危ない橋を渡って取引をしている。これで足りないなら今後の取引は辞めようと」
「そうか……ダニエルは今日一杯部屋で休んでくれ。明日も回収に向かうから体調を整えておけ」
「あぁ、すまない」
「落ち込むなダニエル、お前はよくやった。それは俺達皆が分かっている事だ」
満足いく取引を行えず落ち込んでいるダニエルをウィルは励ます。
それで幾らか持ち直した心優しい仲間は少しだけ表情を柔らかなものにして自分の部屋に帰っていった。
「ジョズ、これで何日持ちそうだ」
「切り詰めて五日だろう。喰いつくす前に取引を終える必要がある。……だが、また買いたたかれるだろう」
「あぁ、そうだな。くそ、こっちは御先が真っ暗なのに空は明るいな。その明るさを分けて欲しいもんだ」
ウィルは遣る瀬無い思いを抱えながら上を見る。
其処には見慣れた地下世界の天井は無く、何処までも広がっていく青空があった。
ウィル、ダニエル、ジョズはメトロで生まれてメトロで育った。
メトロという世界は生まれが全て。上流階級は上流階級のまま、中流も下流も生まれた階層で子供の未来は決まる。
上流階級を頂点としてピラミッドの様に作られた絶対の階層、それが限られた地下世界で生きる為に生まれた暗黙の不文律。誰もがそれを受け入れていくしかなかった。
そしてメトロの階層は三つだけではなく下にはもう一つの階層、誰にも顧みられることが無く存在を認知されながら徹底的にいないモノとして扱われる貧困層があった。
メトロには彼等の居場所は無かった。住む場所も仕事も無い彼等は行き場がなくメトロの住人でさえ利用しない掃きだめの様な環境で生きるしかなかった。
生きる為に彼等は必死だった。
男は誰もやらない仕事をやるしか生きる術を得られなかった。
女は春を売った。娯楽がほぼ無い地下世界では原始的な性交が最高の娯楽であり貧困層の女達の唯一の収入源だった。
コンドームといった避妊具など皆無でありながら刹那の快楽を求め交わる男女。その結果として生まれ落ちた子供達もまた貧困層になった。
無計画に生まれては増えていく貧困層。そんな彼等を養うリソースはメトロには無い。何より正規の住人達に彼等を養うつもりはない。
多くの子供達が狭い地下世界の片隅に息を潜める様に生き、多くが途中で死にネズミの餌になった。
運よく生き残り大人になる子供もいるが彼等を受け入れる場所はメトロにはない。
だからといって無気力で死んだように生き続ける者ばかりではない。中にはそれが受け入れられない者達もいた。
此処から抜け出したい、いい暮らしがしたい、美味しいものが食べたい。彼等はより良い環境を求め、しかしメトロに這い上がる手段は無かった。
ならばどうするのか。奪えばいい。既に持っている者達を襲い奪うのだ。
貧困層が犯罪集団に転じるのに時間は掛からなかった。地下には彼等しか知らない抜け道が幾つもあった。それを通じて彼等は徒党を組み犯罪集団を形成する。
貧困層の増加に伴いメトロの犯罪者も増加した、多くの正規住民の犠牲者が出た。
だがメトロは奪われるばかりではなかった。犯罪者に対する取締り──いや徹底的な
犯罪集団を慈悲もなく殲滅するだけでなく地下のコミュニティ同士が共同して犯罪を抑止する為に時に彼等を
人として扱われず、這い上がる手段さえなく、間引かれ、敵とみなされれば容赦なく洗浄される。
そんな貧困層に三人は生まれた。そして彼等も生きる為に最初は犯罪に手を染めようとした。
だが出来なかった。彼等はメトロが主導する犯罪者の末路を見てしまい踏み出せなかった。
彼等は臆病者であった。落ち零れであった。だが如何にかして糧を得なければ三人は生きていけない。
そんな時に地上から地下に落ちて来たガラクタを拾った。ボロボロであったが何かの足しになるかと思ってメトロの質屋に持って行った。
そこで彼等は僅かばかりの食券を得た。それから三人は地上に出て物資を漁る様になった。
ミュータントに殺される事に怯え恐怖しながら都市を彷徨い、物資を手に入れる。
閉鎖されたメトロでは資源は貴重な物である。例え物が壊れようと何度も修理して再利用する。
だが完全に循環している訳ではなく、資源は少しずつ目減りしていく。其処に商機があった。
正規の住人達は彼等をスカベンジャーと呼んだ。それは蔑称であったが何物でもなかった彼等を示す名前になった。
スカベンジャーはメトロにとって有用な存在だった。危険な地上に出て貴重な物資を運んでくれた。
各種資源をメトロは買い取りスカベンジャー達は生きる糧を得た。ミュータントを地下に呼び込むかもしれない危険を持ったスカベンジャー達は地上に近い場所にしか住まわせない事でいざという時は切り捨てようとした。
それでも最下層で死んだように生きるのに比べれば雲泥の差だった。極論ではあるが人間に殺されるかミュータントに殺されるかの違いしかない。
彼等はミュータントに殺されるほうがましだった。いざとなれば余計に苦しまない様に仲間達が死なせてくれるからだ。
スカベンジャーは使える駒であった。危険になったら切り捨てるだけであったが、それでもマシだった。
噂を聞きつけ人が集まった。徒党を組んで地上に出て多くの仲間が死んだ。だが死を無駄にすることも無く彼等は糧として技を磨いた。
そうして小さいながらも人が集まり一端の集団となった。危険ではある。いつ死んでもおかしくは無い。それでも細やかな幸福を掴める様になれた。
だが突然その未来は閉ざされた。ミュータントでもなんでもないメトロの政治に巻き込まれて。
地下で見つかった利用可能な核融合炉。膨大な電力を巡って発見したコミュニティとメトロの中心であるコミュニティが対立した。
末端に位置し中心からの碌な援助がなかったコミュニティは核融合炉を自らと同じようなコミュニティと共に発展に役立てようとした。搾取するばかりの中心から独立しようとした。
メトロの中心を担うコミュニティはメトロの治安悪化、本心として自らと並びたつような権力が擁立されるのを危惧し核融合炉を管理下に置こうとした。
本格的な武力衝突に至る前に数え切れない暗闘が行われる。
政治、経済、流通、全てを巻き込んだ闘争は始まっていないが時間の問題だった。
その争いの中でウィル達の集団が槍玉に挙げられた。
中心からは敵となるであろうコミュニティへ資源と情報を供給していると難癖を付けられた。
核融合炉を有するコミュニティからも同じように疑われた。
実際の所は互いに過熱していく戦意を収めるための生贄だった。捨てても投げても痛くない駒として彼等は扱われた。
彼等は居場所を追われた。地上に追放されたのだ。
どの陣営も彼等を助けるようなことは無かった。貧困層の生まれ。代わりとなるモノは幾らでもいた。
追放された彼等は途方に暮れた。それでもメトロの住人達とは違い地上を良く知っていた。
ミュータントに怯えながらも新たな住処となるような、故郷と呼べる場所を探した。
──そして、自分達が全く知らないアンドロイドの集団に遭遇した。
その過程でウィルの子供が攫われ、集団そのものがアンドロイド達に捕らわれる事が起こった。
誰もが殺されると怯えていたがアンドロイドはウィル達を殺さなかった。ただ彼等の持つ圧倒的な戦力を見せつけて都市へ放逐した。
途方に暮れたスカベンジャー達。だがいつまでも放心していられる時間は無かった。
解放された彼等は再び新しい住処を探し、それは早くに見つかった。
建物の基礎もしっかり残っている無人のビル──アンドロイド達が大規模で周辺のミュータントを間引いたお陰で手薄になったビルをスカベンジャー達は占拠した。
ようやく腰を落ち着ける事が出来た彼等だがまだ安心は出来なかった。
生きるための水も食料も尽きようとしていた。
だが彼等に食料を地上で手に入れる宛は無かった。散々に悩んだ果てに彼等は今迄と同じように物資を集め、食料品と交換する事にした。
メトロの住人と密かに接触して取引を行う。スカベンジャーである彼等が知る食料を手に入れる手段がそれしかなかった。
だが現実は非情であった。資源と食料のレートが今までにない程に悪化していた。
取引が露見したら困るのは理解できる。メトロが取引を行ったコミュニティに対して何らかの制裁を課すかもしれない。
それを考えても暴利であった。これで食い繋ぐには足りない。その日暮らしも危うくなる量しかなかった。
「どうにかしないといけない」
「それに同意するがウィルはどうするつもりなんだ」
ウィルとジョズは誰もいない部屋の中で話し合った。
如何にかしないといけない。そんな事は此処に居る皆が理解しているのだ。
「中心と敵対しているコミュニティに持っていく」
「まぁ、順当ではある。問題は取引を持っていくコミュニティだが……」
「今度は俺が行く。ジョズはダニエルと共に回収を進めてくれ。特にダニエルは落ち込んでいるからフォローを頼む」
ウィルの提案は奇抜なものではない。メトロと敵対関係にあるコミュニティは将来的に起こるであろう抗争に備えて物資を集めていた。
追放前にはメトロ全体で物価の上昇があった。予想ではあるが脇目も振らずに集めているのだろう。其処にスカベンジャーが集めた物資を持ち込めば高い値で買ってくれるだろう。
そうしなければスカベンジャーが集めた物資がメトロに流れるのだから。
「分かった。だが気を付けてくれ。嫌な予感がする」
「ジョズは心配性だな。まぁいい知らせを待っててくれ」
ジョズの心配を聞きながらもウィルは明るく言ってのけた。
だがジョズの言った事は的外れではない。それが分からないウィルではなく、そうでなければスカベンジャー達のリーダーは務まらない。
それでも強がらなければならない。そうしなければ何かが壊れてしまう事をウィルは感じ取っていた。
◆
ダニエルに代わりウィルが回収した物資を仲間達と共に運んでいく。
ウィルは目的のコミュニティに着いたら少しでも多くの成果を得る為に粘り強く交渉を行うだろう。
ジョズ達はウィルの帰りは遅くなり明日になるだろうと考えていた。
だがコミュニティに向かったウィル達はその日の夜に帰って来た。
背負っていた搔き集めた物資はない。だが物資が満帆に詰まっていた背嚢は潰れたままであった。
それが取引の結果を誤魔化し様も無く物語っていた。
「……それでウィル、どうだった」
「……悪い知らせと、もっと悪い知らせ、どれから聞きたい。俺が勧めるのは悪いほうからだ」
出掛けた時の取り繕ったような笑顔すらウィルの表情にはない。
ただ暗く、濁ったような目をジョズに向けるだけだ。共にコミュニティに向かった仲間達も同じで表情は暗かった。
「……悪いほうから知らせてくれ」
「レートは悪化した。持ち込んだ量の一割、それが得られるものだ」
メトロ中心よりも悪い、悪すぎる。
これではその日暮らしさえもできない。真面目に取引をするつもりがない。生かすつもりも無いのが明らかであった。
「もっと悪い知らせは……」
「持ち込んだものは奪われた。奴等、銃を突き付けてな『これは君達に掛けられた疑いを晴らすためである。次回迄に二倍の物資を持ってきた時に食料と交換しよう』てな──ふざけているだろ」
ウィルが背負った背嚢を地面に叩きつける。だがそれだけだ。怒りを巻き散らす事もなくその場に座り込んでしまった。
ウィルの、スカベンジャーを率いるリーダーの行動を仲間達も見たが、誰も諫めようとはしなかった。それをするだけの余力は尽きてしまっていた。
「メトロも、奴等も俺達を使い潰す事しか考えていない。潰れるまでに後どれだけ搾り取れるかしか考えていねぇ」
ウィルは淡々と向かった先での出来事を仲間達に話していく。
向かった先で銃で脅されたことを。薄く笑いながら必死になって集めた物資を取り上げられたことを。まるで汚物の様にコミュニティの外に追い出された事を。
「すまん、俺は限界だ。もう立てない。不甲斐無いリーダーで済まない」
スカベンジャーのリーダーであるウィルは折れた。
昔の様に仲間達を率いていた姿は其処にはなかった。突き付けられた非情な現実の前に消え去ろうとしていた。
仲間達の多くが地面に座り込んだ。立ち上がる気力は既に無い。仮定としてコミュニティを襲うにしても武器も人数も何も無い彼等には何も出来ない。
その事実はスカベンジャー達がギリギリで保っていたモノを容易く壊してしまった。
「いや、持ち込む先があと一つ残っている」
だが未だに立っていたジョズの声が仲間達の間に響いた。
「何を言っている、もう何処も俺達を……」
「アンドロイド」
アンドロイドとジョズが口にした瞬間、気力を失い生気を失くした仲間達が一斉に振り向いた。
「本気か。死ぬぞ。殺されるぞ」
ウィルがジョズに言った言葉。それは視線を向ける仲間達が思っている事でもある。
「そうかもしれない、殺されるかもしれない……だが殺されないかもしれない」
生きる為にアンドロイド達へ交渉に向かう。
正気とは思えない。だがスカベンジャー達は考えてしまった。
あれほどの武力を持ちながらそれを誇示するだけに留めたのは他ならないアンドロイド達なのだ。
一方的な通告ではあった。だが彼等には通告などせずとも容赦なくスカベンジャー達を殺しつくす事が可能だった。
それをアンドロイド達は実行に移さなかった。其処にジョズは賭けると言うのだ。
「最後に残った物資を俺が持っていく」
「待てジョズ、なら俺が──」
「駄目だ。ウィルはアンドロイドに攻撃を加えた事があるだろう。ダニエルもだ。だが俺はない。気絶していてその他大勢と一緒に捕まっていただけからな」
なけなしの気力を集めて立ち上がったウィルだがジョズの言葉で動きを止められる。
そして共に立ち上がったダニエルもジョズの言う事は理解できた。
「二人が出てくる時は取引が成功して、それで今後も彼等と取引をするようになった時だ。襲い掛かった過去について誤魔化しもせず、誠心誠意正直に頭を下げる時だ。それ以外で行けば殺される確率の方が高い」
ジョズの分析には説得力があった。
特にウィルは自分の子供を助けるためとはいえ多くの暴言を吐いてしまった。
そんな人物をアンドロイド達は交渉相手とは見なさない。交渉を行うとは考えられなかった。
「分かった。だが、せめて何か手伝わせてくれ」
「俺もだ」
ウィルとダニエル、共に長い付き合いである友人たちが悲痛な表情をしながら言い出してきた。
何もいらない。そう言おうとして口を開いたジョズだが、一旦口を閉じて考える。
「じゃあ、作ってほしいものがある」
何か協力できれば二人は落ち着く、そういった打算があった。
しかしふと思いついた事があった。それがアンドロイドに伝わるかは分からない。だからと言って取引が成立する確率を上げるために出来る事はやるべきである。
自分でも突拍子がないとしか思えない考えをジョズは二人に告げる。
それを聞いた二人は驚いたものの真面目な顔をしてジョズが必要とするものを作るために材料を集め始めた。
◆
地方都市、其処にノヴァ達は収集拠点を置き都市の物資を回収していた。
ノヴァが去ってからも拠点は拡張を続け多くのアンドロイド達が資源回収に従事している。
無論資源回収だけでなく、ミュータントの襲来に備えて武装を施したアンドロイド達が収集拠点の周りを巡回していた。
そんなノヴァ達にとっての重要施設に接近する人間を発見した。
報告を上げて来たのは拠点を巡回しているアンドロイドの警備部隊からだ。
『人間が接近しています。武器には見えない何かを引き摺っているようです』
『何を引き摺っているんだ?詳細な映像を送れ』
ある地点を巡回していた小隊が拠点に向かっている人間を発見、すぐさま拠点を任されている上級アンドロイドに報告した。
上級アンドロイドは警備部隊から送られてきた映像を見る、そして警備部隊の分析を裏付けるかのように人間が何かを引き摺っていた。
確かに一見武器には見えない。まるでガラクタを集めて繋げたような奇怪な見た目をしている。
『武器でも兵器でもない何かにしか見えないのですが……あっ、人間が服を脱ぎ始めました。それと……旗、旗の様な物を振っています』
『?』
如何やら映像を送って来たアンドロイドの視覚センサーは故障しているようである。
上級アンドロイドが見る映像には人間がいきなり服を脱ぎ、最低限の下着の身の姿で白旗の様な物を振っている姿が映っていた。
『如何やら君の視覚センサーに異常が生じているようだ。セルフチェックをし忘れたのか、それともセンサーが不良品であったか?』
『いいえ、セルフチェックは毎回欠かさず行っています。異常は見つからず視覚センサーも部隊配属に伴って支給された新型です。異常があれば警備部隊の全機体を回収する必要があるのですが……』
『分かっている。それでは如何やら私達が壊れた訳ではなく、視界は正常である。ならば見ている映像は本物であるのだろうが……』
だからこそ今見ている映像の意味が分からない。
なぜアンドロイドを前にして服を脱いだのか。露出狂なのか、それとも古のヌーディズムを実践するヌーディストが現代に甦ったのか。
それにしては中途半端な脱ぎ方に意識が持っていかれるが、アンドロイド達は人間が手に持ち振っている旗の色に気が付いた。
『白旗だな』
『白旗です』
白色の旗を振る意味は降伏、又は戦う意思がない事を示している。
継ぎ接ぎだらけで完全な白とは言い難いが、全体で見れば白にも見えなくはない。
『小隊で行動し身柄を確保するように。攻撃をした場合のみ反撃を許可する』
『了解』
人間が意味を理解しているのであれば攻撃はしてこないだろう。
だが何があるかは分からない。どのような意図を持って接近してきたのか解き明かす必要がある。
拠点を任された上級アンドロイドは油断も無く映像に映る人間を見つめる。
だがアンドロイド達は内心ではこの異常な状況を無自覚に楽しんでいた。
ノヴァ様が与えてくれた新しい身体にも平穏にも大いに感謝している。しかし代わり映えのしない日々に飽きてきたのも事実であった。
これから何が起こるのか。上級アンドロイドだけではない、拠点に詰めるアンドロイド達全員がこれから何かが起こる事を期待していた。
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