第48話 はじめまして、そして──
『ああ、クソ!クリーチャーが勝手に動き出したと思ったら皆殺しにされやがって、ボスの機嫌が悪いから適当な理由付けて巡回に出たのにどうしてくれんだブリキ共が!』
『ポラン、イラつくのは良いが壊すんじゃないぞ。こいつ等の身体は手入れされているから高く売れるんだ、これ以上傷物にはしたくないんだよ』
『分かってるんだよ!それで、こいつらが運んでいた物はどうだ』
『大当たりだ!いくつかの金属の塊に用途は分かんないが機械装置が幾つもある、それに加えて真面な銃に少ないが金まであったぞ!』
『チッ、何とか言い訳は立つか。おい、根こそぎ車両に積み込め』
『おい、ポラン!見て見ろ、ガキがいたぞ』
『ガキだ~、……ホントだな、それで何でブリキがガキを守ってるんだ?』
『知らねえよ、取り敢えずガキも取っとくか。……オラッ!』
『やめて!マカロンを傷つけないで!』
『ああ、なんだクソガキ』
『待てよ、……おいガキ、お前が大人しくこっちに来るならそのブリキをこれ以上痛めつけないでやるよ、来なかったらコイツバラバラにするけどな』
『……ホントに傷つけない?』
『おお、ホントだよ。俺は正直者なんだ、素直に言う事聞いてくれれば…な』
『駄、目、です、うそ、を』
『おい、黙れよブリキが。それでどうする?』
『分かった、言う事聞くからマカロンと他のアンドロイドに手を出さないで』
『おお、分かった。よし、それじゃこっちに来い。………………んなわけねえだろ馬鹿が!』
『お~、勢いよく吹っ飛んだな。んでポラン、なんでそいつに切れてんだ?』
『コイツだ!コイツなんだよ!……地下でクリーチャーが暴れた事があっただろ、その日俺の担当日だったんだわ』
『ああ、あったなそんな事』
『んで、その騒ぎの最中コイツが消えててよ、あの白衣の連中が言うには暴れることが無い筈なんだよ、それが暴れたのは何らかの干渉があったとか言いやがってよ。死んだクリーチャーを解剖したところ、何だ、脳に干渉されたらしいんだわ。んで原因を探したところこのガキがクリーチャーの脳に干渉したらしいとか言ってたな。でもよ、あの時コイツの姿が見つからなくて大方下水に流されて死んじまったんだと思ってんだよ』
『そいつは運がなかったな』
『ああ、このガキのせいであの後どれだけ面倒な目に遭ってきたか、クソが!』
『おいおいそれ以上蹴り続けたら死ぬぞ…………いや、死ぬ前にヤらせてくれよ』
『あい変わらずの趣味だな、だが止めといたほうがいいぞ、頭の中を弄られたくなければな』
『そいつは勘弁だな。けど惜しいな、それでどうすんだよ、殺すか?』
『……いや決起会の餌が少ないからそれに加えよう、ドブネズミのせいで結構逃げたからな』
『おお、いいじゃねえか。まあ散々な目に遭ってきたが今回の収穫で運が向いてきたんじゃねえか』
『だといいがな、おい、ガキの手足を縛って載せろ。…………ああ、もう詰めないのか、クソ、値打ちの物だけ積み込んどけ!』
◆
ノヴァは端末に写された映像を見終わった。
それは襲撃に遭い破損の酷さから放置された護衛部隊のアンドロイドがみた記録だ。
其処には何があったのか、アンドロイドは、ルナリアがどの様な目に遭ったのかを正確に記録していた。
「申し訳ございません、ノヴァ様。命じられた任務を達成する事も出来ず、そればかりかルナリアお嬢様まで……」
「いや、お前達はよくやった。多くのクリーチャーを撃退し任務を果たそうとした。だが弾丸が足りなかった、クズ共の迎撃まで持たせる事が出来なかった。全てはこの作戦の実行許可を出した俺の責任だ。お前達は持てる能力を全て尽くした、自らを責める必要は無い」
任務を果たせず多くの仲間とルナリアが連れ去られるのを見るしか出来なかったアンドロイド。四肢は潰れ動くのは首しかない状態である彼が出来ることは無かった。
それを責める事はしない、出来る訳が無い。これ程身体を壊されようと懸命に役目を果たそうとした彼をどう責められようか。
「サリア、彼を後方に運んでくれ」
「分かりました。それでこの後どうなされるおつもりですか」
どうするのか、何をするのかそんなもの決まっている。
これはノヴァの見通しの甘さが招いた事態だ、そのせいでノヴァではない彼らが被害に遭ってしまったのだ。
ならばこの事態を招いた責任を取らねばならない、彼等を率いる者として行動を起こさねばならない。
「アンドロイド達を、ルナリアを助けに行く。時間は残されていない、今、動員可能な全ての戦力で街に向かう」
「分かりました、ノヴァ様の装備は既に届いています。セルフチェックが終われば何時でも出撃が可能です」
「ありがとう」
本拠地から急いで取り寄せた兵装、ノヴァ自身の戦闘力を向上させるために開発された兵器たち。
本来であれば対ミュータント用に開発された凶器を人に向ける事に対しての躊躇いは既にノヴァには残っていない。
いや、あれは人ではない、人の形をした畜生、害獣なのだ。
沿岸部の拠点に着いたノヴァは届けられた兵装を身に纏う。
強化スーツに作られた接続部に強化外骨格が接続されていく。
現時点で作成可能な素材、技術を詰め込んだ外骨格の強化率はスーツの比ではない、本来であればスーパーマン染みたキャラ育成を行わなければ装備出来ない重火器を使用する事が可能であり積載量も多い。
背部の兵装担架に可能な限りの装備を装着、外骨格のヘルメットを装着、網膜投影により生身と変わらない視界と各種パラメータが表示される。
『試作強化外骨格PAX-1、起動、各種パラメータ正常、リアクター点火』
全てを装着し補助電源で稼働させていた外骨格、その血肉を動かすための心臓を起動する。
外骨格作成において最も困難であった心臓、鋼鉄の鎧を動かすエネルギーを生み出すリアクター。
幾度かの実験と失敗を重ねて生み出した。ゲームでは作成できず探索で入手するしかなかったそれを独自に開発する事にノヴァは成功した。
『リアクターは正常に点火、内部温度上昇、許容範囲内、電力変換率87%、戦闘行動可能』
内蔵された人工音声がノヴァに問題が無い事を伝える。
その事を確認したノヴァは拠点の外へ出る、其処には戦闘準備を整えたアンドロイド達がサリアを筆頭にして待機していた。
「いくぞ」
「はい」
短い遣り取り、だがそれで十分だった。
装備を整え戦闘状態にあるノヴァ達は街に向かい、そう時間を掛けることなく辿り着いた。
「おい、なんだ………ぺげっ!?」
「て、て……ギャ!?」
歩哨や監視に立った者達が見た物を伝える時間は与えない、ノヴァ達は迅速に敵を処理すると正面から街に入る。
そして街で未だに稼働している大型スクリーンに映ったルナリアの姿、そしてこれから行われる事について知った。
「二手に分かれる、一つはルナリアに、もう一つは捕らわれたアンドロイドの救出に向かう」
「分かりました、ではノーマンが部隊を率いてアンドロイドの救出に向かってください」
「了解」
サリアはノヴァと共にルナリアの救出に向かう、その事にノヴァは疑問を抱かない。
何故ならサリアもまたルナリアの母なのだから。
スクリーンから送られる映像の発信元を特定し、立ちふさがるモノを迅速に処理してノヴァは進む。
そして辿り着いた、今まさにミュータントに食いつかれそうな間一髪の瞬間に間に合った。
「パ……パ?」
「はい、パパですよ」
青あざだらけのルナリアを見てノヴァは一瞬言葉に詰まる。
だが何よりも先ずはルナリアを安心させなければならない、これが夢でも幻でもない事を伝えなければならない。
「助けに来たよ。サリア、ルナリアの保護を、連れ去られた仲間達と共に先に離脱してくれ」
「分かりました」
「パパ……」
「大丈夫だよ、先に帰ってくれ。やることを終わらせたらパパも直ぐに帰るから」
ノヴァは背後にいるサリアにルナリアを託す。ノヴァは一緒には帰れない──今はまだ。
ルナリアを抱えて遠ざかるサリアが会場から見えなくなってノヴァは動き出した。
「おい、ポランは居るか」
会場の未だに稼働しているハッキング対策などを全くしていないシステムを掌握する事などノヴァにも造作ない。
ノヴァの発した声はシステムを経由して会場の音響装置で拡大され響いた。その抑揚のない声は未だに現実を理解しきれていなかった者達を動かす切っ掛けとなった。
「聞こえないのか、ポランとその仲間は何処にいるか聞いてるんだ」
だが返事は無かった、会場に集った者達は騒めくだけであり誰も名乗りを上げる事は無かった。
ノヴァは会場に集った者達を見渡し高速でスキャンをしていく、何かを感じ取ったのか騒めくだけだった動きが落ち着き、多くの視線がある一カ所に集まる。
「お前か?」
視線の先にいるモノの顔をスキャンすると其処には目的の人物とその取り巻きたちが集っていた。
ノヴァの視線の先にいるポランは観念したのか立ち上がった。
「俺がポランだよ、んでお前は…………」
其処から先をポランが言うことは無かった。
ノヴァの左手に装備された武装、6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンから銃弾が放たれる。
連射速度を落としてはいるが毎分1200発という単銃身機関銃では実現できない圧倒的な弾幕が目標を引き裂く。
轟音が響いたのは10秒にも満たない時間だ、それでも生身の身体を消し飛ばすには十分だった。
ポランとその取り巻きが座っていた一画は物理的に消えた、彼らが其処に居た事を示すのは僅かに残された肉片と辺りに飛散した鮮血だけだ。
そこで漸く会場に集った者達は気付いた、ノヴァが敵である事を。
「……お前、此処から生きて帰れると思うなよ。俺の決起会を邪魔しやがったんだ、その鎧を引き剥がして徹底的に甚振ってやろう、楽に死ねると思うなよ」
会場に集った誰もが殺意を抱いている、その中にあって決起会の主催者であり街の支配者であるゾルゲの怒りは最も強大であった。
ゾルゲが手元にある装置を動かすと会場にある入口が幾つも開き其処から重武装を施した兵隊、それに加え多くのクリーチャーが出て来た。
クリーチャーが兵隊を襲うことは無い、完全な制御下にあるのだろう。
だが兵隊を、クリーチャーを、数多くの怒りの視線を差し向けられたノヴァはというと何も感じていなかった。
それどころか笑っていた、嗤っていたのだ。
会場の音響装置が増幅し会場に響かせる嗤い声は追い詰められた餌が放つものではない、現実を拒否した異常者が放つものでもない。
「何が可笑しい」
「可笑しいも何もこの程度の戦力で、数だけしか取り柄のない愚か者にクリーチャー程度の玩具で私を殺せると」
こいつは何を言っているんだ、やはり気が狂っているのか、誰もがノヴァの言う事が理解できなかった。
それはゾルゲも同じであり、何より今まさにノヴァに迫る自らの戦力に自信があるからこそ全く理解できなかった。
そして呆けたような顔を幾つも観測したノヴァは理解した、自分が言った事が全く理解されていない事を。
そこでノヴァは会場に集った者達へ今度はより砕けた表現で、より分かりやすく、まるで出来の悪い子供に言い聞かせるように話しはじめる。
「ああ言ってる意味が分かりませんか、では貴方達にも分かりやすくいいましょう。自分よりも弱い子供相手にしか暴力を振るえない度胸も玉も竿も何もかも小さい馬鹿に、ミュータントに毛が生えた程度の玩具を自慢げに見せびらかしているのが余りに滑稽で面白い見世物だなと。貴方、確か、ゾロ、ゾり、ゾロリ?あ、いや、ソルトでしたか、サル山の大将もお似合いですがサーカスの興行主にでも成られたらどうですか、きっと観客の笑いが絶えることは無いでしょう、まあ笑いといっても失笑か嘲笑の類でしょうが」
今度こそノヴァの言いたいことは伝わった。
「殺せ!!!」
最早威厳もかなぐり捨てて吠えたてるゾルゲ達は最早同じような言葉を絶え間なく繰り返し放つだけになった。
そればかりか懐から銃器を取り出し観客席から狙いうちしようとする者まで出始めた。
「ああ、それと私一人で相手にするつもりはありませんよ」
だが直ぐに彼等の動きは止まった、止められた。
ノヴァの言葉が言い終わった直後にコロシアムの天井が爆発した。
「出来ないことは無いでしょうけど取りこぼしが出てしまうのは嫌なんですよね」
爆発の規模は大きくない、スタジアムの天井が崩れる程の大爆発ではない。
だが天井には幾つもの穴が開き、其処から何かが落ちて来た。
降りて来たモノの質量はそれなりのモノであり、真下にいた者達は頭から潰された。
即座に死ねたのは運が良かった、下手に避け損ね手や足が潰される者達が会場の至る所に出てしまった。
そして潰されることが無かった者達は落ちて来たモノがアンドロイドであることを知った。
だがそれらの姿は彼等の記憶にあるみすぼらしいアンドロイドの姿とはかけ離れたものであった。
「この場にいる全戦力に命令する。殲滅せよ、一匹残らず、敵を生かして帰すな」
会場にノヴァの下した命令が響く。
それを受け取ったアンドロイド達は各々の武装を展開する。
その向けられた矛先が何処に向かうのか、それは誰の目にも明らかである。
「見敵必殺、見敵必殺」
銃声が、悲鳴が、叫び声が、断末魔が響き渡る。
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