第29話 リザルト+α
「……やりすぎたかな」
「過剰攻撃であったとは思いますよ」
デーモンが存在していた場所は執拗な銃撃によって巻き上げられた土砂とデーモンの肉片と血液が混ざり合う事で非常に猟奇的な状態に変貌していた。
ゲームで散々返り討ちに遭った恐るべきミュータントがいた証は銃撃によって吹き飛ばされ銃撃の余波に巻き込まれなかった四肢と翼しか残っていない。
どうしてこうなったのかと考えればノヴァがゲームでの印象に引き摺られてしまったせいである。
ゲーム上でのデーモンには幾ら銃弾を撃ち込もうとも耐久力が少しずつしか減らず苦戦を強いられた苦い思い出があったのだ。
その為最高火力を連続して打ち込むという行動に打って出たのだが、その結果がノヴァの眼前に広がる惨状である。
「残った四肢と翼は回収、肉片も一応集めてくれ」
ノヴァ自身は今回の行動に関して反省はしているが後悔はしていない。
正確な情報が不足していた事、初見で先手を取れた事、討伐可能な武装を携帯していた事、様々な要素が重なって漸く可能であったこと。
そして何より残された死骸からデーモンの正確な情報を収集でき的確な戦力評価が出来るのであれば無理をした甲斐があるとノヴァは考えている。
「探索は一時中断しましょう。弾薬を補充しなくてはなりませんし銃身にも短時間で連続射撃を繰り返したせいで歪みがみられます」
「そうするしかないか……、回収が終わり次第前線拠点に戻ろう」
無茶な攻撃の代償として今日の探索は切り上げる必要があった。
二号が言ったように対ミュータントライフルも重点的な整備が必要であり、何より先程の攻撃で周囲の環境がどの様な変化を起こすのか未知数である。
無理をすれば探索は継続できるが、態々無理を重ねて探索する必要性は全くない。
今後も繰り返し訪れる場所である、安全を確保する為に此処で撤退の判断を下しても何の問題もない。
二号の指揮下でアンドロイド達は本日の戦利品であるデーモンの死骸を回収し撤収準備を進めていく。
迅速に動いては背負っている背嚢に死骸を四苦八苦させながら押し込んでいるアンドロイド達の光景を眺めながら何と無しにノヴァは辺りを見渡した。
周りにあるのは廃墟だけだが、その途中で小型のデーモンが開通させた廃墟の入口が目に留まった。
大きさは人一人が通れる程度でデーモンにはまだ小さ過ぎたようである。
「二号、廃墟の中を探索するぞ」
「理由をお聞きしても」
「デーモンが何を餌にしているのか知りたい。分かれば囮に利用出来る」
恐らくは狩りの練習であったのだろうが、デーモンの群れが夢中になる獲物とは何なのか。
その正体が分かれば囮として利用でき、何なら餌に大型の爆弾でも装備させてデーモンに捕まった瞬間に起爆させる外道染みた策も可能になる。
その為にも中にいる餌の正体を確認し、出来れば捕獲したいとノヴァは考えていた。
「先頭は私が行きます。ノヴァ様は後ろから付いてきてください」
先頭から二号、ノヴァ、追加護衛のアンドロイド一体の順で廃墟の中に入っていく。
廃墟の中は所々崩落しているお陰で日光が入り込み視界は明るい、それでも瓦礫によって足場は悪く進むのが難しい。
「さて、デーモンが執着していた餌は何かな〜」
ノヴァが廃墟の中をざっと観察するが生き物の姿形は見つからない。
だが何かがいた痕跡自体は地面に明確に残っている、だが痕跡が重なりすぎて形が崩れてしまい何の足跡なのかは全く分からない。
「逃げた……訳ではないか」
「息を潜めて隠れているのでしょうか」
それでも廃墟の中に隠れている可能性は非常に高い。
耳を澄ませば廃墟を通り抜ける風に混ざって僅かな呼吸音が聞こえる──気がする!
流石に野生動物並みの五感は持っていないので勘に頼ったあやふやな根拠である。
それでも地面に残った痕跡から隠れ潜んでいる場所を何とな~く探し当て一番近い場所に移動する。
其処にあるのは瓦礫だが地面の痕跡は此処で途切れている、であれば瓦礫の下に隠れているに違いない。
そして瓦礫はノヴァ一人でも持ち上げられそうな大きさである。
「こんにちは!君の正体は何か…な……」
瓦礫を持ち上げ隠れているであろう生き物を見付けようとしたノヴァ。
実際に瓦礫の下には生き物は隠れていた、外から分からなかったが瓦礫の下は大きく窪んでいて其処に身体を小さく丸める様に生き物が──人間が隠れていた。
「ノヴァ様!」
呆気に取られたノヴァに二号が覆い被さる。
その直後、廃墟に銃声が響き渡った。
◆
時は少し遡る。
ノヴァ達がテクノ社支部を調査している時に一人の男が子供を背負い廃墟を全力で疾走していた。
呼吸の度に全身が燃えるような熱を感じながらも足を止めることは無い、なぜなら男の背後から恐るべきミュータントが迫っているからだ。
振り返る余裕は全くない、そんな危機的な状態で男が目指しているのは先行している仲間が隠れている廃墟だ。
実際に廃墟の崩落して出来た隙間から仲間たちが身振り手振りで男を急かしていた。
男は身体に残された体力を使い切る勢いで全力で走り続け廃墟に逃げ込む事が出来た。
「ダニエル、これで全員か!」
「ああっ!誰も残ってねぇよ!」
「よし、崩せ!」
廃墟に逃げ込んだ男、ダニエルが息も絶え絶えに返事をすると男達が廃墟にある唯一の入口を崩す。
多くの瓦礫が入口に流れ込み、複雑に重なり合う事で入口を強固に塞いでいく。
そして完全に塞がったのを確認すると廃墟に逃げ込んでいる仲間達は漸く一息つくことが出来た。
「ウィル、これからどうするんだ」
乱れた息を何とか落ち着かせる事が出来たダニエルは仲間達のリーダーであるウィルにこれからの事を尋ねる。
「分かっている!今考えているから静かにしてくれ!」
ウィルの口からは何も出てこなかった、これからどうするべきか、何をするべきなのか、何一つ語られることは無かった。
だがダニエルはウィルを責める事は出来ない、この先に待つ結末は何であるか誰もが分かりきっているからだ。
それでもウィルに尋ねてしまったのは長年の付き合いのせいであった。
「ウィル、分かっているだろ。私達はもう終わりなんだ!」
誰もが分かっていながら口にしなかった結末、それをはっきりと口に出した男の胸倉をウィルは掴み上げ廃墟の壁に叩きつける。
「ジョズ、お前が信心深いことは昔から知っている。だが神への祈りは一人でしてくれ」
「私でも分かるんだ!ここに居る皆んなは既に分かっているんだよ!そ、それなのにま、また皆んなを危険に晒すのか!」
「ジョズ!」
壁に叩きつけられた男、ジョズはウィルの剣幕を受けても怯えることは無い。
いや怯える事が出来ない、怯えるために必要な恐怖心が麻痺してしまい破れかぶれになっているのだ。
「ウィル、落ち着け、落ち着くんだ!お前ら、ジョズを向こうに連れて行け!」
ダニエルは疲労に苛む身体を動かしジョズからウィルを引き離し、ジョズに至っては仲間の男達に任せてウィルから離れた場所に移動させる。
ウィルの視界からジョズがいなくなったことでダニエルに掴まれたままのウィルの身体から怒りが霧散していく。
そして立つ力さえなくなったウィルは廃墟の床に座り込む。
「すまない、ダニエル。俺は……」
「気にすんな、お前はよくやった、それは間違いないんだ」
慰めの言葉がこれ程虚しいとダニエルは思わなかった。
だが僅かでもウィルに気力が戻るのであれば言った価値はある。
実際にウィルはそれに値するだけの事を成し遂げて来たのだ。
「ああ、そうだな……」
「ウィル……」
「すまない一人にしてくれ」
だがこの局面に至り言葉は最早何の意味も持たなかった。
ダニエルは圧し潰されそうなウィルに掛ける言葉が見つからず離れていくのを見続ける事しか出来なかった
「俺達に帰る場所は無い、だが何処に行けばいいのだ……」
故郷たる場所は燃え尽きた、ミュータントでもアンドロイドでもない、隣人であった同じ人間の手によって。
「派閥抗争に負けた敗者の末路か」
減り続ける資源、増産の目途が建たない食料生産、閉ざされた空間に住み続けるストレス、それら全てが合わさり限界を迎えた。
数多くのコミュニティが生存しようと衝突を繰り返し、武力衝突にまで発展しかけた。
だが緊張状態の最中であっても続けられた政治的抗争の結果、ウィルを代表としたコミュニティが生贄として選ばれた。
ウィルを筆頭とした仲間達は必死になって決定を撤回させるために多くのコミュニティに働きかけた。
だが時間も、代わりに差し出せる物資も何かも足りなかった。
圧倒的な武力を背景にした立ち退き、生命を保証されるも生贄に選ばれたコミュニティは地上に追いやられた。
そして今、恐るべきミュータントに襲われ仲間達の命が尽きようとしている。
「いいさ、俺達はここで死ぬ、それは避けようが無い運命だったのだろう」
ウィルは必死になって考えているのだろうが、もうどうしようもない。
避けようがない破滅をウィル自身も理解している、それでも諦めきれないのだろう。
「先に地獄へ行ってやるよ」
此処まで長い付き合いだった、だからこそ初めに命を賭すのだ。
デーモンに組み付き、動きを抑えて仲間達が数少ない銃で鉛球をクソ野郎にぶち込むのだ。
自分は間違いなく死ぬだろう、それでもやる価値はある。
「だからよ、生き残ってくれウィル。お前は俺の親ゆ──」
ダニエルの呟きは最後まで言い終わることは無かった。
廃墟の中にまで響き渡る轟音、そしてデーモン共の悲鳴、何が起こっているのか分からないが、何かが外で起こっている。
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