第28話 真心を込めたプレゼントを貴方に…

 ゲームにおいて最強の一角を占めるミュータントの王、それがデーモン。


 高い耐久力と防御力、巨大な身体を活かした近接攻撃、喰らったら即死判定である噛みつき、これらの強靭な身体と強力な攻撃手段を駆使してくるミュータントである。

 それだけでも強力なミュータントであるのだがデーモンの最も優れた能力は飛行可能な事にある。

 空中という三次元機動を可能とし、空中に逃れる事は勿論、プレイヤーの認識外から突然強襲してくる事もある。

 討伐するには高い防御力を持った防具、弾幕を張り続けられるミニガンの様な強力な銃器、大量の回復アイテム、この三つが揃って初めて討伐可能となる。

 そして討伐自体も攻撃に耐えつつ弾丸を喰らわせ続ける一種の我慢比べが必要となる。


 そんな凶悪極まるミュータントがノヴァの視線の先にいるがこちらを見つけてはいない、これは不幸なのか幸運なのかは判断がつかない状況である。

 その為発見者であるアンドロイドから発見時の状況を詳しく聞き情報収集を行う必要があった。


「発見した時から群れていたのか、なぜ廃墟を攻撃しているか分かるか?」


「偵察で見つけた時には既に群れでいました。廃墟への攻撃ですが、どうやら餌となる生き物が廃墟に逃げ込んだようです。距離があるため鮮明には見えませんでしたが、それらしき瞬間を確認しています」


「廃墟に逃げ込んだ餌を掘り出そうとしているのか」


「入口は一つしかなく、どうやらデーモンの体格では通れないようです。入口を広げるために攻撃していると考えますが」


 アンドロイドの証言に淀みは無い、観察している限りではノヴァにも獲物を掘り出そうとしているように見える。

 ならば廃墟を攻撃しているデーモンに何故最強個体が付いているのか、その理由は何なのか──


「狩りの練習か……」


 悩んだ末に一つの考えが脳内に浮かび上がる。

 ミュータントといえども生物である事には変わりなく、そして視線の先の様子から群れを構成している可能性が高い。

 ならば群れ全体で狩りや育児をしていると考え仮定したときに今やっている事は育児の一環として行っている可能性がある。

 その中でも生存に欠かせない狩り、その練習を最強デーモンを背後に配置、幼いデーモンを安全安心な環境下で狩りの練習を行わせているのではないか。

 

 合っているかどうかは分からない、だが考えの一つとして有り得そうではある。


「此方はまだ見つかっていません。安全を最優先に考えて無視するべきです」


 二号の発言はノヴァの安全を最優先に考えた場合、間違ってはいない。

 最強のミュータントに考えなしに挑めば容易く反撃に合い、最悪の場合はノヴァもアンドロイドも共に殺されるだけだ。

 下手に関わることなく逃げるのも有力な手段である。 


「いや、此処で仕留めよう」


 だがノヴァは視線の先にいる大型デーモンを含めた群れを殲滅することを選んだ。


「何故ですか?」


「デーモンは縄張り意識が強い、中に入り込んだ生物は仕留めるまで追い続ける習性を持っているから非常に危険だ。それに恐らくここら辺一帯が縄張りなんだろう、放置していれば今後の資源回収の障害になる」


 廃墟に逃げ込んだ獲物はいずれ仕留められ、デーモンの腹を満たす運命だ。

 だが、ノヴァ達はデーモン達に気付かれていない、小型のデーモンを背後から見守る大型のデーモンがこちらからしてみれば無防備な状態を晒しているのだ。

 先手を取れ、仕留められる絶好機会である。


「幸いにも仕留める事が可能な武装はある。対ミュータントライフルの弾幕射撃で圧殺する」


 警備部隊用に開発したライフル、それよりもより強力な銃として大型のミュータントを一方的に殺害する事を目的として設計。

 参考としてデグチャレフPTRD1941の簡素な構造を採用、専用弾丸としてもPTRDと同様の14.5x114mm弾を撃ち込めるよう開発した。

 並のミュータントやグールであれば掠っただけで身体の一部がはじけ飛ぶ威力を持つ怪物銃である。

 

「通常弾ではなく炸裂徹甲弾を使用。交互に射撃を行い弾幕を張り続けろ、最初から全力攻撃、目標に命中していようと撃ち続けろ」


「……ミュータントを仕留められなかった場合は急いでノヴァ様には逃げていただきます」


「分かったよ、その時は脇目を振らずに全力で逃げるよ」


 二号の出した条件をノヴァが了承してから二号は率いているアンドロイド部隊に命令を下す。

 下された命令に従いアンドロイド達は分解して運んでいたライフルを余計な物音を立てないよう迅速に組み立てる。

 組み上がった全長が2mを超える長大な銃をアンドロイド達は巧みに操作、バイポットを展開し伏射になると共にボルト引き薬室の中を確認する。

 異常がない事を確認してから射手であるアンドロイドは空の薬室に先端を赤く塗った炸裂徹甲弾を装填する。

 そして全ての射撃準備が整った四丁の怪物銃の銃口が僅か300m先のデーモンに向けられた。


「14.5㎜の大口径弾だ、デーモンであっても効果はある」


 強がりではなくゲームでは大口径弾の方がダメージは通りやすかった。

 だがそれがゲーム限定の法則なのか、それともゲームの法則が全て現実に反映されるのかは未知数だ。

 それでもいつか戦う日がくる相手である。

 不意を突かれて襲撃される前に、いま無防備な姿を晒し仕留める事が可能な武装を持ち込んでいる、先手を取れる今日この日のような幸運を逃す気は全く無い。


 ノヴァは双眼鏡を覗きながら二号に合図を送る。


『攻撃開始』


 それが始まりの合図になった。


 一撃目が放たれライフルの銃声とは比較にならない轟音が廃墟に響き渡る。

 銃口から鮮烈な発砲炎と共に撃ち出された弾丸は減衰する事なく直進、大型デーモンの翼の付け根に命中。


「うわ、命中部位がごっそり弾け飛んだぞ……」


 部隊のアンドロイドが命中結果を見て思わず呟く。

 翼の根元に打ち込まれた炸裂徹甲弾は体内に深く侵入し、その最中爆発を起こすと周辺組織を吹き飛ばし、根元を大きく抉る。

 それだけに留まらず炸裂徹甲弾は付け根の組織を吹き飛ばされた片翼を形を保ったまま遠くへ吹き飛ばした。

 唐突に失われた片翼を知覚できていないのかデーモンの反応は悪い。

 だが傷口から間欠泉の様に流れ出る出血を認識して漸く身体に走る激痛に叫び声をあげようとし──だがその前に二撃目、三撃目が間髪入れずに撃ち込まれる。

 

 肩を吹き飛ばし、片脚を吹き飛ばし、頭部を、胸を、一撃毎に大型デーモンの身体が消し飛ばされていく。

 そして被害は大型デーモンだけに留まらない、弾け飛んだ骨片と弾丸の鉄片が散弾となって小型のデーモンを襲う。

 まだそれほどの硬さの無い皮膚を突き破り筋組織をズタズタに斬り裂き、伝わった衝撃が内臓を掻き回す。

 

 炸裂徹甲弾は一丁に付き十発用意されている、全てがハンドメイドであり貴重な弾丸である。

 それが四丁で四十発、絶え間なく弾幕を張るように撃ち込まれたらどうなるか。

 その結果がノヴァの目の前で繰り広げられている。


「全弾撃ち込め」


 だがノヴァは安心できない。

 大型デーモンは目の前で半分血霞と化しつつある、それでも何度もゲームでは返り討ちにされ殺された記憶が強く残っている為もしかしたらと考えてしまう。


 銃撃よりも砲声と言った方がよい轟音が止んだのは全ての炸裂徹甲弾を撃ち終わってからだ。

 そして狙撃によって巻き上がった噴煙が晴れた時、デーモンを襲った暴力の結果が判明した。


「はわわわわっ」


「ミンチよりひでぇよ」


 部隊にいるアンドロイド達はそれぞれ露わになった惨状に思い思いの感想を口ずさんでしまった。

 銃弾を撃ち込まれた幹線道路は掘り返され、路面の下にある地面が剥き出しなっている。

 群れていた全ての小型デーモンはなんとか形を保っている、だが全身があらぬ方向に捻じ曲がり、血塗れと化してすでに息絶えていた。

 大型デーモンに至っては吹き飛ばされた四肢と翼以外は何も残っていない。

 ただ幹線道路とそれに沿うように建てられたビルを尋常じゃない広さで染め上げる紅、それがデーモンがいた事を示す唯一の痕跡であった。

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