第27話 今度こそ新エリア探索
前線拠点の設営はユニット化した設備の設置に二日掛かった。
設備の運搬自体はアンドロイド達に任せたが物流拠点のシステムに持ち込んだユニットを追加して正常に機能するか等の作業はノヴァがやらなければならなかった。
そのお陰もあって簡易メンテナンス設備、稼働していた太陽光発電に加えた火力発電施設の併設、休息所、武器保管庫に拠点を取り囲む警戒システムの構築など前線拠点としての最低限の性能は持たせる事は出来た。
敷地面積にもまだまだ余裕があるので足りないものがあれば順次追加していく予定である。
そして前線拠点の建築完了と共に都市への探索が可能な体制になった。
ノヴァを含めたアンドロイドの部隊は第一陣として都市へ侵入した。
「都市の詳細な地図はあるけど参考程度に留める必要があるな」
「一世紀は放置されていますから」
元物流拠点の制御室を掌握した際に都市の詳細な地図データをノヴァは入手した。
恐らく効率よく配送を行うための参考データとして登録されていたのだろう、非常に詳細な地図であり都市全域の幹線道路をはじめとした多くの情報が記載されていた。
入手した情報は既に複製をして部隊全体で共有している。
そして情報を基に探索を始めると、地図上のデータと目の前に広がる廃墟と化した都市を比較した場合、所々に齟齬が生じている事が判明した。
生い茂った植物に、大量投棄された車両、建物が完全に崩れてしまっている等の都市側の変化が何カ所もあり探索を通して地図データを修正していく必要があった。
それでも都市の構造は大まかに分かるのでノヴァ達が迷うことは無く、都市内部へ少しずつ進んで行く。
「都市独自の生態系が築かれているな」
迷う心配がないので都市のあちらこちら視線を向ければ大小様々な植物やミュータントが生息しているのが分かる。
ノヴァ達を見付けても襲い掛かってくるようなミュータントはまだ遭遇しておらず、見かけたミュータントの多くは逃げたり、隠れたりしてノヴァ達から距離を取っている。
長年放置されて都市という特殊な環境に適応する為に進化してきたのだろうか、ゲームのうろ覚えの知識でも知らない生物が数多く見つけることが出来た。
探索中ではあったが道中で見つけた多くの動植物がノヴァの目に留まり、その独自の生態系を持っている事に目を奪われていた。
「目的地であるテクノ社支部にもう少しで到着します」
「分かった、進行方向に気になる物とかは無いか」
「現状では見つかっていません。ですが警戒態勢は緩めることは無いので安心してください」
都市探索一回目は前線拠点から程近いところにあったテクノ社支部を目指す事にしている。
目的として第一に設備や機材で使える物が残っていないかを調査する事、回収はしない方針で後続の資源回収部隊に任せる予定である。
それが終われば建物内をクリアリングしてセーフハウスを設置するつもりである。
資源回収中に対処できないミュータントに襲われた場合に逃げ込んで一時的に籠城してもらいつつ、前線拠点から戦闘特化部隊を派遣して対処させるのである。
まだ構想中ではあるが武装と人員が増えていくにしたがってセーフハウスは増やしていく予定だ。
「前方ミュータント発見、数1、ハウンドタイプ」
「処理しなさい」
先頭に立っている部隊員がミュータントを発見、進行方向にいたのは四足歩行のムキムキのブルドックの様な姿をしたミュータントだ。
大型犬と比べても遜色ない大きさであり、素早く、姿に見合ったタフネスを持つ厄介なミュータントではある。
だが二号からの指示を受けたアンドロイドはライフルを構える。
ミュータントとの距離は70m位だろう、まだ此方に気付いていないのか無防備な態勢のままだ。
そしてアンドロイドは狙撃を行い、無防備な頭部を弾き飛ばした。
本拠地で開発した警備部隊用の7.62㎜弾を使用する狙撃用ライフルは計算通りの威力を発揮した。
ボルトアクション式であり正確な銃撃が可能であり、銃口に装着しているサイレンサーによって発砲音も可能な限り減衰させてある。
それだけでなくアンドロイドの方にも火器制御システムをインストールしているのでよどみない操作を可能としているのだ、当然の結果と言えよう。
「ミュータントは処理しました。ですが群れが近くにいる可能性もあるのでノヴァ様は私達から離れない様に」
「分かったよ、道中の守りは任せたからね」
そうしてアンドロイドとノヴァ達は慎重に探索を進めていき、目的地であるテクノ社支部に到着した。
「さてテクノ社のセキュリティは生きているのかな」
今回ノヴァは裏口に回るようなことはせずビルの壊れている正面入口からアンドロイド達と共に中に入る。
受付を見付けると、其処にある端末の状態を確認して操作を試みる。
だが受付の端末は何の反応も示すことは無く、自前の端末を使ってビルの制御システムにハッキングを試みるも電源そのものがビルに来ていない事が判明した。
「此処は完全に停止しているね。警備システムも機能停止しているから扉を開けるにはバールでこじ開ける必要があるよ」
受付に近くにあった奇跡的に破損していないガラス製の案内板にはフロアにある施設が描かれているだけで構造も大雑把にしか分からないものだった。
それでも目的の物である機械や設備が設置されているフロアくらいは判明した。
「目星を付けているのはビル中層の保管室と修理セクターだけど……階段上るのだるいな」
目的のフロアに行くためにはビルを登る必要があり、テクノ社支部のビルはそれなりの大きさであるから登るのも大変である。
エレベーターなり昇降機設備が使えれば楽が出来るのだが電源はきていない為使えない。
また電源問題が解決したとしても昇降設備自体が腐食などを起こしていないか調査して使えるのか判断する必要がある。
現実的に考えると小型の昇降機と発電機を持ち込む方が安上がりだろう。
「セキュリティが停止しているのであれば分隊を向かわせますが」
「そうだね、それもいいかも知れな──」
その時、二号との会話を遮るように大きな叫び声が響いた。
異常を察知した二号は部隊を集結させノヴァを囲むように全方位に向けて警戒態勢を取る。
だがミュータントが襲ってくるようなことは無くビルの中は再び静寂になった。
「何の音だ?」
「分かりませんが、叫び声は大型のミュータントによるものです。ビルの外に偵察を向かわせます」
二号は部隊からアンドロイドを二機、ビルの外へ向かわせて情報収集を行わせる。
暫くすると偵察に向かったアンドロイドから叫び声を発したであろうミュータントを発見したと報告が入った。
『建物の外からです、此処から300m離れた所で大型のミュータントを確認しました』
「特徴は分かるか」
『四足歩行、背中に一対の翼を持ったミュータントが6体います。その中に特に大きな個体が確認出来ます』
「四足歩行に翼を持ったミュータント……。こっちには気付いていないか、出来れば直接見て確認したい」
『此方には気付いていないので観察できます』
二号は危険を冒したくないようだが今回ばかりは付き合ってもらう。
無論これがありふれたミュータントであれば危険が及ぶような行動はしない、アンドロイド達に任せるつもりでいた。
だがアンドロイドから知らされたミュータントの特徴に当てはまるものは少ない、更に集団の中に特に大きな個体がいるとなれば話が違ってくる。
もしノヴァの最悪の考えが当たっているのであれば……、発見したミュータントは非常に危険な存在であり、今後の計画を大いに狂わせる存在である可能性が高い。
「あそこか」
ビルの外を出て、偵察をしていたアンドロイドと合流する。
廃墟に身を隠している二機から発見したミュータントの位置を教えて貰い双眼鏡で覗く。
覗いた先に見える幹線道路に面した建物、その正面に複数のミュータントが集まり建物に攻撃を加えている最中であった。
攻撃の度に無数の瓦礫が散らばり、廃墟と化している建物は攻撃の度に震える。
だがノヴァの視線は既に廃墟に攻撃しているミュータントではない、その背後にいる巨大なミュータントに注がれていた。
「……デーモン」
生物の身体を容易く噛み砕ける牙と顎を持ち、コンクリートを簡単に砕ける強靭な四肢に鋭い爪、背中には一対の翼を持ち飛行能力を有したミュータント。
ゲームにおいては中ボスであり隠しボスではゲーム上最強と言われた凶悪なミュータント。
そして最悪の予想が当たっていた。
隠しボスと思われる特殊個体、ミュータントの王がノヴァの視線の先にいたのだ。
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