遠征に行かねば

第25話 新エリア探索準備!

「このままでは町にある資源が枯渇します」


 アンドロイドの新機体の設計製造や、ストレスによる唐突な突撃銃の作成など拠点でアレコレしていたノヴァに一号から衝撃的な情報が舞い込んだ。

 その内容の重大さから今後の拠点開発計画に与える影響は大きく急遽一号と共に開発計画を修正する必要に迫られた。


「廃品回収量の横ばいが続いています。今迄の回収量からして町に存在する資源の八割は回収したと考えられます」


「マジか」


「マジです。此処の規模は町でしかないので廃品などの資源も限られます。それに加えてアンドロイド達も増えているので回収され尽くすのも時間の問題です」


 町にある資源、廃品や鉄屑等の資源量についての見通しが間違っていたわけではない。

 拠点の拡張に伴う資源消費、増加する拠点人口、生産設備の整備などの出費が町の埋蔵資源量を上回ったのだ。


「軍用アンドロイドの拠点だった施設はどうだ」


「前回二号が赴いたアンドロイド生産施設もありますが、あそこは生産設備だけしかないので回収量も限られます」


 二号が因縁を持っていた軍用アンドロイドが住み着いていた廃墟は少しずつ資源回収を行っていた。

 だが規模が小さくアンドロイド達に与える仕事として多く回収人員を送り込んだため予想よりも早く回収作業が進んでしまっている。

 このままでは町の資源を回収しきる前に尽きてしまうというのが一号の予想だ。


「なら新しい調達先を見付けないとな」


 生産設備、機体、部品など物を作るには金属資源は欠かす事が出来ない。

 何より一号が調査していた油田から纏まった量の原油を確保できる事が判明したのだ。

 石油由来の燃料や素材、化学物質などを安定かつ大量に入手が可能になる。

 その為には採掘施設や貯蔵タンク、精製施設の建造をしなくてはならず膨大な金属資源の消費が予想され、町に残された未回収の資源では到底足りない量である。

 

「金属資源が欲しい、有力候補はあるか」


「はい、此処からほど近いところに地方都市があります。人口は100万人規模ですので都市鉱山として有力です」


 都市であれば廃棄された車両や建築物から資源の回収は可能だろう、パソコンなどの廃棄された電子部品であれば希少金属資源も回収できるはずだ。

 何より100万人規模の都市を維持するには多くの金属資源を必要としているのは間違いなく、回収量も町とは比べ物にならない筈だ。

 

 しかしその分危険もある、特に都市部であれば大量の人型ミュータントと遭遇する可能性がある。

 人型ミュータントで代表的なのがグールであるが、その正体は元人間でありウイルスで突然変異を起こし理性を失くしてミュータントになった。

 つまり都市の人口がそのままグールの生息数に比例するのだ。

 無論ウイルスに感染した人間が百パーセントグールになるわけではない、確率としては確か2~5%で残りは死亡してしまう。

 つまり都市には最低でも二万体のグールが生息していると考えられ、立ち回り次第では多くのミュータントを相手にする必要があるため易々と決断できない。


「地方都市か……、他にはないのか。規模が小さくてもいいから無人工場地帯とか?」


「ありますが拠点からかなり離れています。移動手段と十分な燃料が確保できない現状では無理があります」


「燃料が問題になってくるのか」


 無人工場を中心とした工業地帯は最小限の維持管理以外は人手を必要としない。

 そのお陰でミュータントの類は少なく、危険性が高いのは警備用の機械や武装アンドロイドやロボット等だ。

 機械が相手であれば無力化は簡単に出来るため工場を優先したい、だが長距離移動が可能な手段と燃料が無いのであればどうしようもない。

 一応廃棄された内燃機関を持つ車両から何台かレストアをしているが使えるのは一台しかなく、燃料に関しては試験採掘と試験精製で作った燃料がドラム缶一杯分しかない。

 現状の体制では工業地帯からの長距離輸送は不可能であり、そうなると選べる選択肢は決まってしまうものだ。


「なら余力があるうちに地方都市から資源回収が可能な体制を構築しよう。それで資源に余裕が出て来てから本格的な石油開発に取り組んでいく」


 町で得られる残りの資源で都市に資源回収の拠点を作り本拠地への回収体制を構築する。

 そうすればアンドロイド達に資源回収を任せて得られた資源で順次石油開発に取り組んでいくのがベターな選択だ。

 集められた資源で石油関連設備を建造、石油由来の製品が自給自足体制が出来上がれば出来る事が大きく広がっていく。

 プラスチック製品として銃器にポリマーフレームを採用したり、重油を使った火力発電で電力事情に大幅な余裕が生まれる等、石油が齎す恩恵は大きい。

 その石油の安定供給は目下最重要課題でもあるのだ。


「了解しました。では戦力を抽出して都市に向かわせます」


「あと俺も都市に向かうからよろしく」


「……ノヴァ様は拠点に残っていたほうが安全なのでは」


「アンドロイド達だけじゃ稼働している施設の安全な停止方法や無力化は出来ないでしょ。機械に関してはプロフェッショナルだから任せなさい」


 一号の言い分は間違っていないが拠点でじっとしているわけにはいかない。

 それに資源回収の拠点となる建物や場所の選定にはアンドロイドだけでは難しい理由がある。

 なにせゲームであった頃は都市にはなぜか稼働している警戒装置などの電子機器が点在しているのだ。

 簡単な南京錠から電子制御された難易度の高いものまで選り取り見取り。

 そして解除に失敗した場合の問題も様々あり、警報が鳴らされて音を聞きつけたグールが押し寄せる、防犯装置として備え付けの銃座からの発砲、突然の大爆発、等の殺意が高い物もあるのだ。

 そうなれば武装していようがなかろうが一貫の終わりだ。

 アンドロイドの場合であれば最悪の場合、電脳を含めて全身を破壊されてしまうだろう。

 そんな警戒装置などの機械を無力化や解除するのは専門の知識と技能が欠かせず、こなせるのはノヴァしかいない。


「それに安全かもしれないけど籠りっきりは体調を悪くしちゃうよ」


 ここしばらく拠点に籠って様々な機械の設計を行っていたが作業部屋に籠りすぎて身体の調子がどうも悪くなってしまった。

 その原因に関しては恐らくゲームプレイの影響ではないかとノヴァは考えている。


 昔のゲームをプレイしていた子供の頃を思い返せば、クラフトだけでなく探索もそこそこ楽しんでいたのだ。

 道中にある資源は可能な限り回収、倒したミュータントや敵の持ち物は武器、アイテム、防具、服に至るまで全て剥ぎ取って回収して敵を素寒貧にしていた。

 特に建物にある資源を根こそぎ回収しての素材集めはかなりの頻度でやっており、建物の中をすっからかんにした事に何とも言い難い充実感を覚えていた。

 そんなプレイの影響がノヴァの身体にあったとしても不思議ではない、一か所に留まれないのはそんなプレイの影響であり理性ではどうにもできない事なのであろう。

 下手に我慢してストレスを溜めるべきではない──そうノヴァは考えている。


「分かりました、ですが無理はしないで下さい」


「ありがとう、じゃあ久しぶりの探索に行きますか!」


 一号は探索に赴く事を止めたかったがノヴァの言い分は理解できる。

 現に拠点に留まり続けていたノヴァは精神に不調が現れており有効な解決方法を一号は見付けられていない。

 探索における技術的な問題に関してもノヴァに頼ることが安全かつ確実だ。

 拠点にいるアンドロイドで遠征が可能な戦力は限られ補充の見通しは立っていない貴重な存在、突発的な損失を抑えるのであればノヴァの同行は理にかなっている。

 一部に利己的な考えがあろうともノヴァの言い分は合理的であり現状における最適な選択だ。


 その合理的な考えを取り下げてでも引き止めたいと一号は思う。

 だが探索に胸を躍らせているノヴァの説得は困難だと理解してしまっている。

 もし十分な戦力と技能を持ったアンドロイドが複数いれば説得できただろうが、いないのが現実だ。

 ならばと端末を操作して自分が出来る仕事をこなすのだ。

 遠征に持ち込む武器弾薬を充足させ、二号をはじめとした現状用意できる最高戦力を十全な状態で送り出す事。

 

 それが一号にしか出来ない仕事でありノヴァの身の安全を確保する事にも繋がるのだから。

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