第24話 洋ゲーの嫌いな所

 ノヴァはクラフトが好きである。

 ゲームの一プレイヤーであった頃は小まめに廃品回収をしては材料を集め、フィールド上の何処かに有る設計図を探していた。

 そうして用意した素材と設計図で色々な武器や防具を作っていた。

 

 だが夢中になっていたゲームにおいて武器の造形だけは悉く好みから外れていた──明け透けに言えば武器のデザインがダサくて好きになれなかったのである


 ハンドガンは初期状態から異様にゴテゴテしていてアクセサリーを盛り込めばゴテゴテの極致で最早ダンベルである。

 アサルトライフル君は見た目が機関銃じゃない?と見間違うほどの重さであり何を食べてバレルを水冷式にしたのか謎である。

 しかもまともな銃器は何故か重いのだ、ハンドガンのウェイト表記が3㎏なんてダンベルじゃないか!

 えっ、SI単位じゃなくてヤードポンド法?3ポンドで1360g、死ねよ。

 

 その他にも武器はあるが、どれもが奇抜な見た目をしていて流石海外製と思ったもののノヴァは我慢できなかった。

 海外プレイヤーにとっては好ましいのかもしれなかったがノヴァは違う、プレイの半ばでゲームにMODをいれたのだ。

 ノヴァは重度のミリオタではなかったが現実世界の洗練されたハンドガンをはじめとした銃器の方が好きなのだ。

 アクセサリーを付けた結果としてゴテゴテになるのは許せるのだ。

 海外製ゲームにおける謎センスの銃器が苦手なのだ!


 そんなノヴァがある程度の生産設備を得られてから設備やアンドロイドの機体などの制作と並行して行っているのが銃器の開発だ。

 しかし資材と設備の制限付きである為工作難易度が高い物は一点物のハンドメイドになりコストが掛かりすぎる。

 それでもストレスの発散を兼ねて幾つかの試作品をノヴァは作成、拠点に新しく作られた射撃練習場で試し撃ちを行っている。


「試作品としてはまあまあかな?」

 

 試作品として作ったのは2種類のアサルトライフル、見た目はM16とAK-47そのままである。

 しかし完全なコピーではなく、素材と工作機械の精度不足から性能はオリジナルよりも低下している。

 それでも小銃としての最低限の性能は持つように設計はしてあり、性能評価の為に射撃場に来たのだ。

 

 因みにアサルトライフルの名称はM16に似ている銃はM1、AK-47に似ている銃はA1と暫定的な名前を付けている。


「的は50m先、さて撃った感触はどんなものか」


 ノヴァがM16コピーのM1を構え、安全装置を解除して発砲。

 銃撃による反動がストックを通して身体に伝わるが制御可能な範囲内である、

 単発、連発と繰り返しながらワンマガジン三十発を使い切ると、次はAK-47コピーのA1も同様にワンマガジン発砲する。


 発砲音が響くたびに的となった空のドラム缶に穴が開いて行くが集弾率は余り良くない。

 M16の方が精密性、集弾性能が高いが決定的な差でない、使い手の技術次第では覆す事が可能だろう。

 ノヴァの結論としては現状では優劣は付けられないとなる。


「見た所、連邦と帝国のそれぞれの流れを汲んだアサルトライフルですか。どちらを警備部隊に採用なされるのですか?」


「う~ん、どうしようか。大きな性能差はないから実際に使う警備部隊の意見を聞いたほうがいいかも」


「連邦の正式採用アサルトライフルを作成したらいいのではないですか、資料も揃ってますから作りやすいと思いますが」


「えっ、あれ作るの嫌なんだけど。バレルもフレームもデカいせいで重さが8㎏になって重すぎるし、連発しか出来ないから実質機関銃じゃん」


 あの見た目ライトマシンガンでアサルトライフルと言い張る面の厚さよ。反動は重すぎる銃のお陰で皆無に近いらしいが携帯に不便すぎるわ。

 此処は本職のアンドロイドの意見を参考にするべきだ。


「それで警備隊長が比べてみた感じはどう?」


「私の好みはM1だな、A1は精密性に欠けて弾が当たらない」


 そう言って試作銃を発砲しているのが拠点にいるアンドロイドの中でも珍しい軍用モデルのアンドロイドである。

 部隊ではジョンと呼ばれ歩兵として帝国と戦った事がある歴戦のアンドロイドであり、現在は拠点の警備部隊の隊長である。

 

「そうか、他に何かあるか?」


「使うとしたらM1だがミュータント相手には銃弾が威力不足だ。グール相手であれば5.56㎜で十分だが大型のミュータント相手であれば最低でも7.62㎜は必要になるぞ」


「なる程、M1をベースに口径を大きくして再設計するか」


「再設計完了後の量産は何時になるか分かるか」


「耐久試験とか幾つかの試験をするから最低でも一週間掛かる」


「製作時間とコストは」


「使える設備が限られているから日産で4丁が限界、予備も含めて部隊に行き渡るには最低でも1ヶ月は掛かるかな」


 素材と工作機械が限られているため大規模な量産は出来ない。

 また複雑な機関部など部品点数の多さも量産化の障害になっている。


「……ボルトアクション式ライフルの方がいいな、アサルトライフルよりも先ずは単発銃でもいいから部隊に銃器を行き渡らせる事を優先すべきと考えるが」


「アサルトライフルはまだ早いか?」


「早すぎたな、現状は質より数を優先すべきだ。何より連発銃を採用した場合使用弾薬量が桁違いに増えて生産量を超過するぞ」


「そうだ!弾薬の生産量を全く考慮してなかった」


 警備部隊用に現状で作れる高性能な銃器をと考えていたが、当たり前の様にアサルトライフル、連発銃を採用するのであれば銃弾の消費量は跳ね上がる。

 現状の銃弾はアンドロイドが一発一発手作りで作成しており、量産化が出来ていない。

 何より無煙火薬等の化学物質の生産はついこの前に始まったばかりで生産量も質も低い。

 つまり現状は連発銃が運用可能な程の生産基盤が出来ていないのだ。


「ならM1とA1は採用は凍結、大口径ライフルの設計開発に切り替えよう」


「その方がいいな。計画として生産設備等が整ってから順次小銃に切り替えていく事にすべきだな」


 流石に趣味に走りすぎた事を反省しなければならない。

 ジョンの言った事は正論であり何より拠点の安全を確保するためには警備部隊といった自衛戦力が欠かせない。

 その自衛戦力が使い物にならない銃で機能不全になれば被害は大きな物になり再建にどれ程の時間と労力が必要になるか。

 それを考えれば使えない高性能な銃よりも使える銃を揃える事の方を最優先すべきだ。


「試作品が出来たら一通りのテストを頼む」


「了解した、所でこの試作品の小銃はどうする?」


「……当分出番無いから倉庫に放り込んどいて、それと銃以外で希望の武装とかある?」


「近接武器が欲しい、ナイフが一本あるだけでも出来る事の幅が増える」


「近接武器ね、何種類か設計するからそれの評価もお願いね」


 ノヴァは射撃場から出て行き作業場に向かう。

 その後ろには二号が付き添っているが、もう慣れたため気になることは無い。

 

 ジョンに頼まれた近接武器といえば二号に渡した高周波マチェットがある。

 だがあれはハンドメイドの一点物であった為警備部隊に行き渡らせる数を用意する事は出来ない。

 高周波発生装置を外した純粋な刃物としてなら部隊に行き渡らせる量を作ることは可能だ。

 それにマチェット以外にもナイフや手斧を作ってみるのも悪くはない、何より刃物だけであるのなら製作工程は少なく簡単に作れる。


「因みに二号は近接武器で何か欲しいとかある」


「……メイスですね」


「えっ、メイスって殴る方のメイス」


「それで合ってますよ、銃弾が尽きても身体が動くのであれば雑に扱っても威力が出そうなメイスなどの打撃武装がいいと考えました」


「そうか……、殴るのか」


 メイスを持って返り血を浴びたアンドロイド、絵面はどう見てもホラーだが言っている内容自体は間違ってはいない。

 ミュータントと言えども生物である、頭を潰せば死ぬし、脚を潰せば動く事は出来なくなる。

 そう考えれば質量に任せた打撃は馬鹿には出来ない、大抵の敵には通用するだろう。


「打撃武器がありだったら盾にも需要があるかもな」


 銃弾を防ぐだけじゃなく目くらましに強烈なフラッシュを浴びせる機構を取り入れるのもありかもしれない、若しくは盾の裏に銃のラックや弾倉を付けたりする。

 ゲームでは登場しない武装だが現状の設備で作れないことは無く、何より作ってみたい創作欲が湧き出てしまった。


「取り敢えず設計だけにして、実際の制作は相談してからだな」


 流石に小銃と同じ失敗は繰り返したくない。 

 それでもノヴァの頭の中には様々な設計図が浮かんでは出力されるのを待っていた。

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