閑話
第23話 一号のお話
ノヴァが拠点としている施設、修理再生センターは空前の建設ラッシュの最中にあり非常に騒がしい。
町の中での廃品回収、廃墟を解体して更地にする、更地に新しい建物を建築する、施設の防衛と治安維持、設備の製造等多くのアンドロイドが様々な仕事に従事している。
そして労働の対価として電力供給とメンテナンスに加え安全な居住空間がアンドロイド達に提供されている。
その一連の活動を指揮采配するのはノヴァが最初に出会ったアンドロイドであり、ノヴァが拠点としている修理再生センター専属の運用アンドロイドであった一号だ。
大戦時には施設の明かりが消えることなく24時間稼働して数多くの兵器や軍用機械を修理、再生を施し再び第一線に送っていた施設だ。
軍に徴用される以前でも度重なる物価上昇と金属資源の価格上昇によって修理・再生の需要は連邦中にありその波に乗った会社は大きな利益を上げていた。
そんな施設において立ち上げからの古参の運用アンドロイドの一体が1号であった。
だが今や嘗ての修理再生センターの面影は僅かしか残っていない。
施設の修繕は勿論の事、周りにあった廃墟は解体撤去され新たな建物が建造されては修理再生センターに接続されていく。
ゴミ焼却を兼ねた火力発電所施設に始まり、下水処理施設、アンドロイド整備工場、生産設備等の大型施設。
それらを動かす人員の為の居住区や治安維持の為の警備所などの建設は留まることが無く、元の町を丸ごと作り変えるような勢いで進んでいる。
環境アセスメントと言った法律や住民感情による建設反対運動などは皆無である、それによって凄まじい速度で開発計画は進んでいる。
その開発計画の管理進行を任されたのが1号であり、その能力を存分に活かして仕事をこなしている。
だが順調に進んでいる開発計画とは別に1号には大きな悩みがあった。
それは施設運用や建設管理などの大きなものではない。
「ちかれた……」
そう言って大型モニターを備えた机に突っ伏すノヴァの健康維持である。
「ノヴァ様、無理はなさらないでください。計画は順調に進んでいますから急ぎ取り組む必要はありません」
「そうだけどさ~、流石に応急処置で誤魔化せない損傷は長く放置できないよ」
そう言って振り向いたノヴァは眼の下にクマを作っている。
高過ぎる集中力のために体に負担が掛かる長時間の作業を無意識に行ってしまう、これはノヴァの悪癖の一つであり、1号が頭を悩ませていることである。
「取り敢えず汎用機体Ⅱ型は設計が完了したから、生産設備を一通り揃えて生産を開始しないと」
ノヴァが1号の持つ端末にデータを送る。
1号の端末に表示されているのはアンドロイドの身体、それも現在の建設予定の設備で作成可能なものである。
限られた資材と設備で作られる機体は崩壊前の水準で言えば控えめな性能ではある。
だが故障を抱えたアンドロイドからすれば経年劣化の無い新品の機体は欲しくてたまらない物に違いない。
「もう少し設備と素材が整えばⅢ型に出来たんだけどな~、あ~、設備も素材も何もかも足らんのじゃ!」
徹夜によるハイテンションで荒ぶるノヴァ、その姿を見た1号はノヴァのバイタルサインからこれ以上の作業は体調悪化の可能性が高いと判断。
直ぐにでも寝る事でノヴァの酷使した身体を休ませる必要がある。
「落ち着いて下さい。残りの作業は私が行いますからベッドでお休み下さい。二号いますか」
「はい、此処に」
「ノヴァ様を寝室にお連れして下さい。これから最低でも7時間は眠ってもらいます。その間の身辺警護も命じます」
「分かりました、食事は目覚めた時にお持ちします」
「ええ、頼みました」
「いや~、一人でも寝室に戻れ……、ヤバい、足と頭が凄いフラフラする」
「……危ないので抱えますね」
そう言って二号はノヴァを軽々と抱える、身体を痛めない様に肩と膝下に手を入れたお姫様抱っこでノヴァが寝室に運ばれていった。
そして作業部屋から出ていったノヴァ達と入れ違いに今度は一体のアンドロイドが部屋に入って来た。
「ファースト、定期報告に来たが今大丈夫か」
「問題ありません。それで進捗状況はどうなってますか、ジョシュ」
「全行程の73%、問題なく進んで後200時間後だ」
予定通りに建造は進んでいるようである。
一連の建設が終われば拠点の生産力などは間違いなく上昇、これまでノヴァが出来なかった武器の量産化やアンドロイドの機体の開発が出来るようになる。
「だからこそ、体調管理に気を付けてほしいのですが……」
「またノヴァ様が徹夜をしたのか?本来であれば止めるべきなんだろうが出来ないのが歯痒いな」
ノヴァが徹夜をするのは設備の設計を完成させるためだ。
新しいアンドロイドの機体だけではない、発電設備に、メンテナンス器材、武器すらも設計を行っている。
その中でも増加の一途を辿るアンドロイドに対応するための発電設備やメンテナンス器材の開発は最優先事項であった。
本来であれば設計専用のアンドロイドや人工知能を使うべきなのだが現状はいない為設計可能なノヴァが行うしかない。
加えて資材と設備が限られた状況での新規設計になるためノヴァにしか出来ない、それによって連日の徹夜が大きな負担となっている
だが建設がひと段落すれば急ぎの仕事は無くなるのでノヴァを休ませる事が出来る。
その為にも1号は建設を予定通りに進め、遅延になるような問題が起こらない様にしている。
「そうですか、資源回収班と探索班は」
「資源回収班は今の所問題はない、探索班については目的地に到着して現地の調査中だ」
「埋蔵量の詳細な情報が早くほしいですね」
「急ぐ必要はない、油田は逃げも隠れもしないからな」
町の北東には小規模であるが油田がある。
当時であれば採掘には大規模な施設が必要になり環境破壊を訴えた住民の抵抗により工事の許可が下りず、またその後の詳細な試算によって採算が取れない事が判明したので長年放置されていた。
ノヴァの今後の開発では石油化学製品が必要になってくると考えた1号が石油の採掘を計画に組み込んだのだ。
今回はその第一陣で埋蔵量と採掘が可能かどうかの調査を目的としている。
「そうですね、他には何か問題になっている事は」
「ない、だが警備部隊が武装の充実を求めている」
警備部隊は施設の防衛と治安維持を担う部隊である。
比較的経年劣化や損傷が少ないアンドロイドで構成されており、ミュータント襲来時には第一線で働く。
その為現状の施設で制作した数少ない火器を装備しているが部隊に対して火器が不足しているのが現状だ。
「それに関しては待ってもらうしかありません。今の生産設備では生産量に限界がありますから」
「分かっている、せめて銃弾は不足ない様に供給してくれ」
1号とアンドロイド『ジョシュ』が定時連絡で互いの頭を悩ませていると、また別のアンドロイドが部屋に入って来た。
「ファースト、また別の集団が保護を求めてきた。数は30」
「仮設住居を解放、応急処置と電脳のメンテナンスを行います。対応は任せます」
「分かった」
マニュアルに従った対応を1号は指示、それを受け取ったアンドロイドは引き返すように部屋から出ていった。
「大変だな、もう何体か運用人員を増やしたらどうだ」
「満足に動かない機体では難しいですね、最低でも電脳のフルメンテナンスを行った機体でなければ任せられません」
「そうだな」
1号の多忙さを知っているジョシュは軽口を叩きながらも作業を中断することは無い。
数少ない貴重な端末を操作して進捗状況を報告する──だが1号の持つ端末の画面の隅に表示されていた設計図が目に留まった。
「それが例のノヴァ様設計の新しい機体か、どんなものか見せてくれよ」
「名称は汎用機体Ⅱ型、此処に居るアンドロイド達全機に互換性がある機体です」
「それは、凄いな……」
「現状用意できる素材のみで作られるもので、簡略化はされていますが機能に不足はなし。それどころか整備性と拡張性に優れています」
アンドロイドの製造会社によってはある程度の互換性はあるものの、残りは自社製品で固めている部分は多くある。
中には自社製品でしか起動を保証しないものもあり、高価なモデルになっていくと互換性は皆無となり独自仕様になる事が多い。
その為アンドロイドによっては見つけたパーツが使えない事もあるのだ。
そんな中で多くのアンドロイドに互換性がある機体は大きな損傷を負った者にとっては待ち望んでいたものである。
「作業用アンドロイドとしては早く乗り換えたいものだ」
「そうですね。ですがノヴァ様はこれ以上の機体をすでに設計しています」
「ホントかよ、ノヴァ様はいったい何者なんだ」
「私にも分かりません。連邦政府が秘かに製造した人造人間だと言う噂もありますが……」
確かに言えることは崩壊する前の世界であれば引く手数多の技術者であっただろう。
特にアンドロイド分野では会社を興せば瞬く間に市場を支配したはずだ。
それ程の人物であるのだが1号の考えは違う。
「頼もしくも目が離せない働き過ぎなご主人様ですよ」
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