第22話 馬車馬の如く働け
アンドロイド生産施設は連邦各地から生産運搬されたアンドロイド部品を無人製造ラインで組立・梱包・出荷まで全自動で行う事が出来る施設である。
施設そのものは大戦前の連邦国民の人件費上昇を受けて株主たちが人件費の圧縮と利益上昇の為に経営陣に圧力を掛けて建設された経緯がある。
その結果、施設の管制と施設点検の為の極少数人員のみで運用が可能となり、人件費の圧縮、純利益の増加という望まれた結果を株主達に齎した。
だが大規模な労働者の削減は連邦の雇用状況を悪化させ貧富の差、賃金格差、アンドロイドなどの機械に対する破壊抗議など多くの問題を生み落とし、それは帝国との緊張状態下でも解決することは無かった。
──そんな風に世間を賑わせた最先端の設備でさえ適切な維持管理をしなければ朽ち果ててしまう。
ノヴァが目にしたのは風化し、変色し、構造物の劣化によって所々崩落した廃墟。
施設の中も同様で風化し錆び付いた自動製造ラインが何台も動きを止めていた。
その中で比較的風化、損傷が低い機械をノヴァは直し操作していた。
電源としてアンドロイド達が作り上げた太陽光発電システムを使っているため機能を十全に使う事は出来ない。
それでも今行っている作業をする分には問題はなかった。
「……現状では此処までしか出来ない」
そう言って作業を完了したノヴァは装置から一体のアンドロイドの頭部を取り出した。
「妹は修復が不可能なのですか……」
「いや違う、電脳は損傷しているが奥にある記憶領域までは破損していない、だから設備が整えば可能だ」
記憶領域はアンドロイドの人格や記憶を収納している重要な部分。
此処が壊れれば個人の人格と記憶は完全に消滅する、これはアンドロイドにとっての死であると言えるだろう。
だがここが無事であれば新しい電脳に記憶領域を移植、人格や記憶をサルベージすれば理論上では復活できる。
「君の妹は電脳の表層、演算領域が破壊されただけだ。だが拠点の設備ではこの機体にあった新しい電脳を用意できない」
だが電脳に記憶領域を移植するのは簡単ではない。
移植に当たりクリーンルームや専用の設備、何より機体にあった電脳が必要なのだ。
彼女達は崩壊前の最新モデル、電脳も高性能であり記憶領域もそれに合わせて作られている。
下手に他の民生アンドロイドの電脳で代用すれば最悪の場合は記憶領域が破損してしまう。
それを防ぐのであれば同じモデルの電脳を用意するか合うものを新しく作るしかない。
「これ以上外気からの損傷を受けない様に汚染の除去と電脳の保護を施した。これで余程の事が無ければ電脳を厳重に保護してくれる」
二号は渡された最愛の妹の電脳を抱きしめる。
再会は叶わず瞳は閉じたままで目覚める気配はない。
それでも二号には希望がある、失意に沈む暇など無い。
「ありがとうございます。それでは、この施設はどうしますか」
ノヴァがいる廃墟は元はアンドロイドを製造する施設だ。
建物も設備も損傷が激しいがノヴァであれば何か利用できるものがあるかもしれない。
「う~ん、現状では手出しできないかな。使える設備は解体して拠点に持ち帰って、此処は当分放置かな」
「そうですか、太陽光発電システムはどうしますか。」
「此処の太陽光発電システムを使って小さな拠点を作る。此処を拠点にしてアンドロイド達には資源回収をしてもらうよ」
「分かりました、人員を編成して定期的に回収に向かわせます」
「うん、任せた。資源を取り尽くしたら人員と装備を整えて情報収集と監視を兼ねて駐屯地でも作るか」
ノヴァが軽く口に出していることは思い付きの物もある。
だが、二号はノヴァに付き添いながら発言を元にして電脳内でシミュレーションを行う。
それはノヴァ勢力の拡大の機会であると判断しているからだ。
今やノヴァ勢力の発達はアンドロイド達にとって最優先すべき事項となっている。
何故なら彼等は新しい身体が欲しいのだ。
現状でもアンドロイド達は労働に従事する事で電力供給やメンテナンスを受けられている。
だが長い年月を経た彼らの身体はメンテナンスでは解決できないフレームの歪みと言った根本にかかわる損傷などを多く抱えている。
ノヴァの下を訪れる前であればメンテナンスと電力供給だけで良かった、満足できていたのだ。
だが余裕を持つ事が出来たアンドロイド達は考えてしまった──ノヴァの高い技術力をもってすれば新しい身体を作成する事も可能ではないのかと。
そんな夢のような話がアンドロイド達の会話で盛り上がっていた。
だがアンドロイド達が二号の為に製造された戦闘用の機体を実際に目にした事で夢ではなくなった。
崩壊した世界において叶わないと思っていた夢が現実のモノになるかもしれないのだ。
ノヴァの勢力が発達すれば、高度な生産設備を用意できれば新しい身体を作成してもらえる。
目標を、夢を持ったアンドロイド達は今も拠点で懸命に働いている。
「設備の大部分は基幹部品が壊れているから修復不可能だ。それでも幾つか使えそうな部品はあるから分解して持ち帰ってくれ」
「分かりました」
そんなアンドロイド達の事情など露知らずにノヴァは二号を連れて廃墟を巡っては利用可能な設備を見付けては印を付けていく。
その道中でノヴァは一体のアンドロイドを見付ける、とは言っても機能は既に停止しているが。
「コイツが二号の言っていたアンドロイドか」
「そうです、コレはどうなさいますか」
其処には二号が戦闘で破壊した軍用アンドロイドがいる。
激しい戦闘によって装甲版や機体には大きなダメージが見て取れ、致命傷なのは腹部の損傷であろう。
重要器官がまとめて破壊され、潰されている、アンドロイドが起動する可能性はゼロだ。
だが記憶領域がある電脳は破壊されていない、何かの利用価値を二号が見出したのか……
「二号はコイツの電脳を壊したいか?」
「いいえ、今の私にとって大切なのは妹です。コレに対する執着はもうありません」
「そうか、なら身体は解析の為に解体する。電脳も戦闘用プログラムのコピーが終われば凍結する」
「分かりました、準備の為に少し離れます」
そう言って二号が離れていくとノヴァは一時的に一人となった。
「ワン!!」
「そうだ、ポチもいたな」
一人で廃墟まで行くのは勿論危険である為ポチも同伴だ。
傍にいるポチは久しぶりの遠出に満足したのか大人しく座っていた。
そして今や眠気が襲ってきたのかノヴァの傍に座り込むと大きな欠伸をかいて舟をこぎ始めた。
地面に腰を下ろして無心でポチの頭を起こさない様に優しく撫でる。
頭を撫でている間は難しい事を考えることなくアニマルセラピーを受けられる──それでも頭の片隅にはアンドロイドやポール達行商人などが浮かんでは消えていく。
此処はもうゲームの世界ではなく現実世界だ。
此処で生きていくためには人間、アンドロイド関係以外にもやるべきことは数多くある。
戦闘で壊れた二号の機体の修理だけではない、報告通りであれば自前で対アンドロイド用の火器を作る必要がある。
銃だけでなく、それに合う銃弾の自作、火薬などの調達等々……、そのどれもが後回しが出来そうなものはなく、作るだけではなく試験運用等をして使える武器に仕上げる必要もある。
「大変だけどやるしかない」
愚痴を言っても何も変わるわけでもなく、隙を見せればミュータントに襲われるだけだ。
死にたくないし、食われたくない、何より生きたいのだ。
ならば働くしかない、設備を直して、装置を作って、資源を準備して馬車馬の如く働かなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます