第19話 因縁

 二号の指摘のお陰でポールが何か盛大な勘違いをしている事に気付いたノヴァ。

 立ち去ろうとするポールを走って呼び止めては商談には全く含みが無い事や今後も仲良くしたいと丁寧に話して誤解を解こうと努めた。

 その甲斐もあり、思いつめていたポールの顔も話し終わる頃には解きほぐれていた筈である。

 

 心なしか顔が引きつっている様にノヴァは見えたが気のせいだし、引き攣った表情だけでなく身体が震えていたけど、引き連れている護衛も顔を青くしていたように見えたけど、見間違いに違いない!


 そんな風にドタバタとした出来事があった日から翌日、間を置く事無く懸念していた事態が発生した。


「一号、この機体が例のアンドロイドか」


「はい、機体の制御権を奪われた状態で遠隔から操作されていました」


 施設にあるメンテナンスルームには大型装置に接続されたままで動かない一体のアンドロイドがいた。

 目の前にある機体は外装が剝がれ落ち、内部のフレームが剥き出しになったままでボロボロだ。

 その姿は此処に集ってきたアンドロイドと何も変わらないものではあるが問題は機体に積まれた電脳にあった。

 潜伏していたウイルスによる感染だけでなくアンドロイドを中継して何者かが施設へハッキングを行ったのだ。


「接続によって器材の汚染はあるか」


「ありません。ウイルス感染を察知して防壁を即座に展開、感染から防御するとともに不正なアクセスを試みた形跡があったのでトレースを行いました」


 アンドロイドのメンテナンスを自動化する際にウイルス対策として防壁を構築した。

 この対策がしっかりなされてないとランダムで発生する特殊アンドロイドやロボットによって拠点の制御が奪われる為疎かに出来ない。

 

 作成した防壁の特徴としてウイルスからの感染防止以外にも施設に対して不正にハッキングなどが行われた場合、送信先をトレースして自動的に反撃を行う様プログラミングされている。

 施設のマシンパワーが足りない現状ではハッキングをしてきた相手の電脳に大した攻撃は出来ず、内部システムのいくつかを修復不可能なまで壊すのが精々だ。

 将来的にはハッキング先の電脳を焼き切るか強制的に制御下に置いたり情報を逆に根こそぎ奪ってしまえるようにしたいとノヴァは考えている。

 

「接続先にいたのは軍用アンドロイド、その中でも機体数が少ない電子戦タイプであることしかわかっていません」


「途中で接続を断ち切って来たのか、判断も早い流石電子戦機と言ったところか」


 今回は相手の逃げ足の方が早かった、流石に電子戦に特化しているアンドロイドを相手に未完成の防壁による反撃は間に合わなかった。

 だがウイルスの感染防止、ハッキングも事前に防止できている事からプログラムは正常に機能している事は最低でも確認できた。

 このままシステムのアップグレートとマシンパワーを高めていけば大抵の電子的攻撃から防護できるだろう。


「電脳をハッキングされるのを警戒しての処置でしょう、そのおかげで得られた情報は少ないです」


 ノヴァの持つ端末に今回のトレースで得られた情報がまとめられていた。

 ハッキングの種類、遠隔操作に使用されたプログラム等、量が少ないが質の面で言えばなかなかの収穫である。

 そしてこれらを分析、調査して得られた断片的な情報を統合して突き止めた最終接続先が表示されている。


「此処から北東にあるアンドロイド工場から遠隔で操作していたようです。接続先ログからハッキングを行った機体名は──」


「ガルトアームズ社製特殊任務用軍用アンドロイド、機体ナンバーBAE11-09」


 いつの間にか部屋にいた二号が澱みなく答える──ありったけの憎しみが込められた低い声音で囁くように。

 二号が口にした機体ナンバーを一号が何も訂正しない事から合っているのは間違いない。

 そして機体ナンバーまで知っているとなると二号の関係者、それもこれ程の憎しみを抱えている相手となれば一体しかいない。


「因縁のある相手か」


「ええ、私の身体をバラバラにしてくれやがったクソ野郎です」


 最初に出会った時から変わらない毒舌だが今日は特にひどい。

 だがそれも仕方がない事だった、何故なら出会った時の二号が頭部しかない状態で放置されていたのは端末に載っているアンドロイドが原因なのだから。

 理不尽な命令を強制され、それは出来ないと逆らった結果二号の以前の身体は奪われてバラバラに分解された。

 使えるパーツは別のアンドロイドの活動維持のための予備部品となり、その他の部品は荒野に捨てられた。

 それ以降二号は頭部だけの状態で長年放置されてきた。

 そして新しい身体を得た今ではいつの日か復讐すると誓い、その機会をずっと待っていた。


「そうか、見つけたのか」


 遂にその機会が訪れた、再起動を果たした日から胸の内に抱え込んでいた復讐心が牙を向ける先を漸く得られたのだ。


「今回は偵察が目的です。此処にどれ程の物があるのか、使い捨てて惜しくないアンドロイドを操作して奴は偵察に来ました。向こうが得た情報は限られていますが、それでも此処に何らかの価値を見出したのは間違いありません」


「敵は何時襲撃してくるか予想できるか」


「準備が出来次第直ぐにでも。とは言っても操作されていたアンドロイドのデータから徒党の大半がまともに移動出来ない事が分かりました。稼働できるのは23機のみで数こそ脅威ではありますが性能は極めて低いです。ですが……」


「電子戦機の性能次第だな」


 敵となる電子戦機の演算能力、搭載されたプログラム、得意戦術等の詳細なスペックをノヴァは知らない。

 ハッキングを分析して得られた情報から推測は出来るが合っているとは限らない。

 何より今回のハッキングは防げたが小手調べの可能性もある、それ以外にも施設の中に入り込まれて全力で直接ハッキングをされれば最悪の場合施設を奪われる危険がある。

 

 考えられる最悪の事態を避けるには施設に近付かれる前に破壊するしかなく、それが出来る程の能力を持ったアンドロイドは現状では二号だけだ。


「分かった、少しだけ時間をくれ」


 ノヴァはメンテナンスポットの一つに近付き、中に納めてある機体を二号に見せる。


「これは……」


「戦闘を前提として設計した機体だ。今の間に合わせの機体と比較しても倍以上の出力がある、軍用アンドロイドを参考にしているから頑丈だ」


 二号の視線の先には一つの機体がある。

 軍用アンドロイドを参考にしていると言うだけあってフレームは太く頑丈な作りであり、それを動かすモーターも民生品とは違う軍用規格の物だ。

 施設に保管されていた兵器を分解して得たパーツを新規設計したフレームに搭載することで出力は上昇している。

 これであればそこらの暴走アンドロイドなど殴るだけで破壊できるだろう。


「可能であれば複数機体でチームを組んで送り込みたいが現状では何もかもが足りない。なので戦闘経験値が一番高い二号を現状で可能な強化を施したうえで行ってもらう」


 数に対し質で勝負する、ノヴァが現状で用意できる最強の切り札である。

 応急処置を済ませただけのアンドロイドを同行させても足手纏いにしかならない、この機体を装備した二号に敵陣に突入させるのが最も成功の可能性が高い。


「渡す装備も別室にある。試作品だが動作確認は済ませてあるから持っていけ」


 機体以外にも最大限の援助をノヴァは用意する。

 此処で二号が負ければ後が無いのだ、出し惜しみをしている時ではない。


「ノヴァ様、これ程の装備を用意していただきありがとうございます」


 二号は深く頭を下げる、復讐の機会が巡ってきた事も、それが可能となる装備が手に入れられたのも全て目の前にいるノヴァのお陰であった。

 だからこそ、その恩に報いる。

 クソ野郎をぶっ壊し全てが終わった時、改めて忠誠を誓い尽くしていく。

 ノヴァに告げることなく二号は決意する。


「必ずや首級を討ち取って見せます」


「二号、お前の復讐が達成されることを願っている」


 出会ってから晴れること無く二号の心に巣くう復讐心、それが今回の戦いで報われ晴れる事をノヴァは願った。

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