第9話 ネタも時には有用になる
アンドロイド(四肢欠損)をゲットだぜ!
と頭の中で懐かしいナレーションが流れるも大変なのは此処からだ。
アンドロイドの電脳の中を覗く為の端末、ウイルスの強さが不明であるが駆除の為に可能な限りの追加演算装置を用意する、ウイルスが操作端末に感染するのを防止する為の身代わりのルーターも念の為に用意して、最後にこれらを動かす事が可能な電源を用意する。
「早まったかな……」
今の手持ちの装備では困難以前に出来ない事であり、現在探索中のこの施設で必要な物を揃える事が出来たら可能な事という希望的観測を元にした行動である。
それでも中断するつもりはない、ここでスクラップにして部品取りをする事は簡単だがこの先似たようなアンドロイドに出会えるとも限らない。
つまり今のノヴァにとって適度に弱体化しつつ会話が可能(?)なアンドロイドという存在は調査対象として非常に都合がいいのだ。
「さて、探索を再開するぞポチ」
「ワン!」
アンドロイドの電脳が入った頭部だけを回収して胴体は置いて行く。
まだ施設を探索し尽くしておらず、其処に目的の物があると期待をしながら薄暗い通路の先に足を踏み入れていく。
◆
「いや、やっぱ早まったわ」
『修理再生センター』を探索し続ける事一週間、施設を隈なく調べる事で欲しい物は入手できた──全部ぶっ壊れていたけどな!
端末は電子部品が腐食し、ルーターは電子回路が破損し、電源類は劣化で崩壊、使えるモンが一つもねぇ!
確かに甘い見通しだったけどさぁ、せめて一つくらいは無事な物があってもいいじゃん! あってもいいじゃん!!
だが現実は甘くなかった、ポストアポカリプスとは辛く厳しい物であると身をもって分からされた。
そこから先は修理の日々、見つけた機械を解体して使える部品を抽出、無事な部品を取り集めた共食い整備で端末、ルーターを再生する。
拠点の片隅には解体の際に出た不良品が山のように積み上がり、解体した機械が百を超えた辺りで腕は腱鞘炎になりかけ、繰り返される精密作業で眼精疲労になり、電源に関しては全滅していたから一から蓄電池を作る羽目になった。
え、入手したアンドロイドの電源を流用したらいいじゃん? 腐食と経年劣化で何時使用中に吹き飛ぶかわかんない物を使えるか! 俺は時間が掛かっても安全な電源を用意するぞ! と意気込んで壊れたバッテリーを集めては中身をほじくり出して自作の蓄電池を作ることにした。
その全てが終わり漸くアンドロイドに接続する──前に作った機械を動かす電力を用意しなければならない。
だが探索で発電機なんて物を見付ける事は出来なかった、それならば自然エネルギーを……、と当てにしても太陽光パネルも風力発電機も施設には何もなかった。
それでも諦めきれずに探した結果見つけたのは何とか運び出す事が出来た使用可能なデカいモーターが一つだけ。
これに羽根を付ければ風力発電機になるかもしれないが、羽根を作る素材と工作機械がない。
一応手作業で羽根は作れるが強度が全く足らず回転中にバラバラにはじけ飛ぶ始末、だがこれ以外に使用可能なモーターは見つからない。
どうやってモーターを動かし発電するか、今までの人生とゲームの記憶を掘り返し探し続けた結果、一つの案が浮かんだ。
ほら、其処に居るじゃろ、燃料としてタンパク質と水を与えれば熱エネルギーを運動エネルギーに変換できて割と何でもこなせる器用な生物が。
「いやさ、ネタでしかなかった自転車発電を自分でやるとは思わないでしょう……」
町を探索して壊れた自転車を探し出してモーターと繋げる、それで人力発電機は完成した。
ゲームではネタ枠クラフト物だったはずでNPCに漕がせる事で発電できる──発電量は控えめだが。
だがこれで端末、ルーター、電源、電力、全てが揃った。
施設の探索に一週間、設備の構築に二週間、計三週間もの時間が掛かった。
途中で挫けそうになり、機械を窓から投げ捨てたい誘惑に耐え抜き作り上げた設備はこの日漸く稼働する。
「端末起動、電圧電流異常なし、OS立ち上げ問題なし、身代わり装置正常に作動、電脳・ルーター間の接続問題なし、ルーター・端末間の接続問題なし、電脳との接続・認証クリア、電脳との接続問題なし、設備使用可能時間は蓄電量から計算して240分」
設備を立ち上げ、アンドロイドの電脳との接続に問題はない。
残る問題は電脳に巣くって居るウイルスの強さ、現状用意できる最善の環境は構築したがコレで太刀打ちできるかどうかは全く分からない。
だが電脳から出て来たウイルスからの感染にも大丈夫なように端末には身代わりルーターを間に挟んでいる、だから過度の緊張は不要、適度な緊張を残してパフォーマンスを向上させる。
「さて、この世界で初めてのハッキングと行きましょうか!」
端末を介してアンドロイドの電脳に侵入、そしてウイルスで崩壊しかけている一つの世界を見た。
基底プログラムは無事ではあるものの、その他のプログラムは破損し、改竄され、機能不全を起こしている。
このままでは遠からずアンドロイドの電脳は狂い、破壊されるだろう。
急ぎ治療を行えば破損したデータもある程度復元でき、元の機能を取り戻す事が出来るはずだ。
だがウイルスが野放しになっている状態で治療しても意味は無い、直ぐに電脳内のデータを検索してウイルスを探し出し──見つけた。
「これがアンドロイドの電脳に巣くって居るウイルスか。製作者は趣味が悪いな」
一見して無害なデータに見えるが詳しく調べれば何重にも欺瞞と隠蔽が施され、中身にはアンドロイドを狂わせる猛毒がたっぷりと仕込まれている。
その偏執的とも呼べるウイルスの構造は見事な物であり製作者の高い技術が窺える。
だが端末に表示されているのは駆除するべき存在、すぐさま端末を操作してウイルスの駆除を開始する。
「だが簡単に駆除されてくれないんだよな」
今迄眠り続けていたウイルスが起動、駆除プログラムに対して悪性データを大量放出して対抗を始め同時に自己複製を行い勢力拡大を図る。
「させるかッ! さっさとくたばれ!」
多方向からのプログラムの送信、同時に自己複製を妨害するコードを送信、その中に自滅コードも忍び込ませるが増殖した分を身代わりにして本体は逃走を開始する。
それを妨害する防壁を電脳内に多重に展開し、ウイルスの処理能力の飽和を図る。
アンドロイドの電脳を舞台としてウイルスとノヴァが電子戦を繰り広げる。
それは一進一退の攻防であり、このままでは時間制限のあるノヴァが不利であり──切り札としての追加演算装置を起動、データ攻撃量を強引に引き上げる。
拮抗していた戦いはあっけなく崩れた、ウイルスは押し寄せるデータ量に拮抗する事が出来ず飲まれ一ビットも残すことなく解体消滅させられた。
「これでウイルス駆除は完了、後は荒れ果てた電脳の再建だな」
長年ウイルスによって荒らされたアンドロイドの電脳はボロボロだった。
データの多くが破損、欠損、改竄されており、このまま起動させても機能不全を起こして最悪クラッシュしてしまう。
それでは此処迄頑張ってきた努力が報われないだけでなく貴重な情報収集の機会を逃してしまう。
「これが最後の仕事、終わったら一日中寝てやる」
背伸びをして固まった身体を解して再度端末に向かい合う。
その端末から伸びたケーブル先には眠ったままの手足の無いアンドロイドがいる。
長い間ウイルスに侵され覚める事ない悪夢を見せ続けられてきた機体、それが再び目覚めた時に長い悪夢から解放された事を喜ぶのか、それとも目覚めさせられた事に怒りを露わにするのか反応が予測できない。
それでも目が覚めた時は友好的であってほしいと端末を操作しながらノヴァは願った。
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