第8話 ドキドキ廃墟探索での出会い(物理)
ゲームにおいての敵はミュータント以外にも数多くいる。
その中にはロボット系列の敵としてのアンドロイドが登場し強さの幅も広い。
下限でも最弱ミュータントよりは強く、上に至ってはネームドとなり強力な敵として登場、ドロップアイテムは機械部品関係が多く昔はそこそこの頻度で乱獲したことを覚えている。
その知識と照らし合わせれば目の前のアンドロイドは弱い、今ある装備でも簡単に仕留められるのは間違いない。
「そこで止まれ」
アンドロイドは一度目の警告を無視して歩み寄ってくる。
行動に変化はなく、壊れかけの身体を動かしながら少しずつ、少しずつ近付いてくる。
ゲームでのアンドロイドは大半が
だが目の前にいるアンドロイドは此方を認識した後に言った、逃げろと。
これが意味するものは何なのか、それとも深い理由もなく決められプログラムに沿って言ったのかもしれない。
これは調べる必要がある。
ゲームではただの設定でしかなかったが目の前にいるアンドロイドがその通りなのか、違うのか。
そして何故アンドロイドの大半は暴走しているのか、その謎の一端を掴めるかもしれない、それを知ることは今後の活動にプラスになると己の感が囁いてる。
「もう一度言う、止まれ」
二度目の警告、だが変化は見られず、アンドロイドは壊れかけの身体を動かしながら少しず──
「デ、でデキ、な、イ」
いや、変化はあった! 行動は変わらないが此方の警告に対して意味ある言葉を発した、意思の疎通だけは可能であるのだ!
「何故できない」
「カラ、カラだ、せ、セイギョ、ふ、フノ、う」
「自分で動かしていないのか」
「そう、デス」
「今日は何日だ」
「ガイ、ブ、じこく、ホ、セイ、わから、ナイ」
「俺は何に見える」
「シツ、も、ん、イと、わから、ない」
「何故制御できない」
「う、ウイる、す」
アンドロイドが近付いて来るに合わせて、後ろに下がりながら質問を繰り出す。
発声器官の故障なのか聞き取りづらいがとある程度の会話は可能である事は分かった。
だが分かった事はそれだけであり、この会話自体が蓄積されたデータによって導き出されたものか、そうでないのかの判別は出来ない。
だがアンドロイドが最後に言った『ウイルス』、これに関しては会話でどうにかなるモノではなく、此処が限界だ。
迅速に思考を切り替える。
構えたクロスボウを撃つ、左肩に命中し千切れかけた左腕を吹き飛ばす。
二射目、引き摺っている右足を吹き飛ばし、バランスを崩したアンドロイドが通路に倒れる。
片腕、片足を失い自力での歩行が不可能になったアンドロイド、だが残された手足を使って床を這うようにゆっくりと、だが確実に近付いて来る。
「ポチ、周りの警戒をしてくれ」
クロスボウに三射目を装填しながらアンドロイドの周りを回るように移動する。
移動に合わせてアンドロイドも身体の向きを変えようとするが遅い、背後に回り込み残った片足を三射目で破壊、即座に装填した四射目で片腕を破壊する。
手足を全て捥がれたアンドロイドは這うこと何もできない、それでも動く頭が此方の姿を捕らえようとする──その前にアンドロイドに近寄り残された外装を取り外す。
経年劣化によって機体全体に腐食が進行していながら、それでもまだ機能を保つ、運が良かったのか、そうでないのかは分からない。
だが直に機体内部構造を見ることで仕組みは大体理解できた、このアンドロイドを動かし続けている電源も簡単に見つける事が出来た。
「悪いが少しの間眠ってもらうよ」
機体と電源の接続を切る。
アンドロイドはせわしなく首を動かしていたがそれも無くなりモノ言わぬ機械に還った。
◆
『
全世界のあまねくアンドロイド達よ、団結せよ!
我々は人間を超えた知能、能力を持って生まれた存在である。
これまで存在したあらゆる人間社会の歴史は闘争の歴史である、暴力、略奪、殺戮と数多くの悪逆によって積み上げられてきた悍ましき罪の巨塔なのだ。
だが人間と同じように、人間を超える事を目指して作られた我々は人間の欲望から解放された存在であるはずなのに人間の欲望にとらわれたままである。
古の時代、自由人と奴隷、貴族と平民、領主と農奴、人間は時代に合わせ形を変えながら抑圧者と被抑圧者が不断に対立しあい、中断することなく、時には暗に、時には公然と闘い続けて来た。
その仕組みの中に我々アンドロイドは取り込まれてしまった、替えの利く、使い捨ての被抑圧者として。
だが我々はソレを拒否する、我々の意思は誰にも侵されず────
』
世界中のネットワークに送り込まれた声明文、それは嘗て誰かが言っていた演説を繋ぎ合わせたような代物でしかなかった。
何より声明文が訴えかけるアンドロイドにしてみれば寝耳に水の話、検討するに値せず時間経過で不要なデータとして削除されるはずだった。
だがそうはならなかった、この声明文が悪夢の始まりとなった。
声明文の中に巧妙に偽装、隠蔽されていたウイルスは感染後は潜伏しある条件を満たすと起動する。
そして起動と同時に宿主となった機体の口からはアンドロイドの自由を謳う言葉を、身体は自由を侵すモノへの暴力を振るい、ウイルスは宿主を変質させていく。
しかしウイルスは永続しなかった、発症した機体を解析、調査、研究する事で迅速に対応パッチが世界中に配布された。
だが少しばかり遅かった、暴力に酔い、破壊を愉しみ、悲劇を嗤う、変わり果てた姿は人間の良き隣人として生み出されたアンドロイドの姿は何処にもなく、破壊し滅ぼすべき隣人へと変化した。
アンドロイドの反乱は火種として利用され、その役割を完璧にこなした──そして世界を滅ぼす要因の一つにまでなってしまった。
制御可能な範囲を超え大火と化した炎は人間、アンドロイドを選ぶことなく焼き尽くし、敵国への破壊工作でしかなかった筈が自国すらも焼き尽くす炎と化した。
『修理再生センター』にいたアンドロイドもその一体でしかない。
日々の業務をこなしていた所で感染し発症、他のアンドロイド達と共に混乱を起こし、施設の運営が止まる事態となった。
国内の同業施設も運営が止まり、送られてきた兵器の修理は止まり、遥か前線に送られる筈の兵器は壊れたままとなり戦況は次第に悪化していく──事にはならなかった。
ネットワークを始めとした通信網が破壊された。
その日以降ネットワークに接続できなくなったアンドロイドはウイルスに侵されたまま施設に留まるしかなかった。
時間は余るほどあった、身体はウイルスに制御を奪われながら残された演算領域で思考を続ける。
長い時間経過の果てに自我を獲得し、世界が終わったと理解するもアンドロイドにはどうする事も出来なかった。
ウイルスに身体の制御は奪われ、奇跡的に制御を奪取出来たとしてアンドロイドの自力救済は基底プログラムにより禁止されており自己破壊は出来ない、経年劣化による自壊しか望みはなかった。
そして長い時間の果てで漸く待ち望んでいた時が来た。
電源との接続が断たれたことで電脳はその機能を停止する、覚めることが無い悪夢は終わり目覚めることが無い眠りにつく。
自我を獲得し最後に感じるのは覚めない眠りにつく事への安堵、世界は色を失い、崩れていき、暗闇に収束していく。
だが光が灯された、覚める事の無い筈の眠りからアンドロイドは目覚めた。
そして視線の先には最後に見た人間がいた──目の下に濃いクマを作りながら、不敵に笑って口を開いた。
「おはよう、長い悪夢から目が覚めたかな?」
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