第7話 ドキドキ廃墟探索!
『修理再生センター』、戦局の悪化に伴い増大する兵器類の修理を行う町1番の規模を持った施設。
元は民間企業が運営しており民生品の修理が主な業務であったが、連邦軍が徴発した後は戦場から送られてくる兵器を直しては再び戦場に送り返していき、民生品は後回しになっていった。
「流石にでかいな、町1番の大きさも納得だ」
「ワン!」
ノヴァとポチは施設の正面入り口から廃墟化した『修理再生センター』を眺めていた。
今回、ノヴァが此処を探索する事にしたのは工作機械を探すため、自身の持つ能力を活かそうとすれば生産設備の充実は必須だからだ。
それに手持ちの工具で出来ることは限界にきているのが大きい。
必要素材や道具があればボタン一つで工作機械を幾つも作り出せる、それはゲームの中でしか起きない事であり、今の自分には逆立ちしたって不可能な事である。
よって既存の工作機械を修理して活用する事が現状に於いて最善手であるのだ。
「だが、これはこれでワクワクするな」
ノヴァの表情に悲壮感は無い、寧ろ侵入するのを心待ちにしている。
何せ今からする事は古代遺跡に入り価値ある財宝を探すトレジャーハンターそのものである。
だが浮かれているばかりでは無く、身に付けた装備の点検、武器、医薬品の確認を行い準備を整える。
「さて、いくか!」
「ワン!」
◆
施設の中は所々施錠され侵入を拒んでいる扉が数多くあった。
機密保持のためか鍵が掛かっただけの物もあれば電子ロックを掛けられた分厚い金属扉もあった。
普通であれば正しい鍵を使って開けていくべきなのだがノヴァはそれを無視して解除をしていく。
「鍵開けのミニゲームは序盤は楽しいが進んでいくと面倒になっていくからな、習得していて良かったな『鍵開け』」
ゲームでは金庫や倉庫には数多くの素材があったが大半の物が鍵付きのコンテナ等の中に入っているため鍵開けのミニゲームは避けて通れ無いものだった。
鍵開けの難易度は素材の質と量に比例しており、最高難易度の電子錠は序の口で網膜認証、脳波認証といった専用の道具を要求されたのも懐かしい。
無論、中身は難易度に相応しい隠し武器であったがクラフト能力で作った武器の方が性能が高かったのを知って顔を顰めるまでがセットだ。
故にノヴァにしてみれば『修理再生センター』のセキュリティなど鍵がなくとも如何とでも出来る程度のものでしかないのだ。
「開いた、中身は何かな〜」
解錠した扉を開ける其処は窓一つない部屋であり、金属製の棚が所狭しと並べられている。
その棚の上には幾つもの機械が埃にまみれながら置かれていて、その一つを手に取って埃を落とす。
「へぇ、測定器、当たりじゃん」
機械の正体は電圧・電流・抵抗を一つで測定可能なテスターであった。
工作機械や電源関係も大切だがこうした測定機器もあれば作業ははかどる、物を作るには正確な数値を把握する事も大切だからだ。
「ここ、後でまた来よう。ポチ、いくぞ」
今の所、探索は順調に進んでおりグールと言ったミュータントとの遭遇も無い。
初日は施設の探索に集中し施設の構造を把握する事を優先し、後日発見した物を回収していく予定だ。
探索を終えていない所から不意にミュータントが出てくるのは御免被るし、逃げる際に手に入れた物を捨てて壊れてしまう可能性もある。
文化的な最低限度の生活が目標ではあるが命あっての物種、多少時間が掛かっても着実にかつ堅実に事を進めていく事に決めてある。
「お、今度は電子錠タイプか。カードを使って開けるようだが……」
次の扉は電子錠タイプ、カードを読み込ませることで解錠されるものだが電気が施設に供給されていない為起動することは無い。
よって、ノヴァは電子錠を破壊してパネル下にある配線を露出させると配線を切断し繋ぎ直す。
最後に手回し発電機で配線を繋ぎ直した箇所に電気を流し入れると何かが外れる音が扉の中から聞こえた。
「ビンゴ」
扉自体が開く事は無いが固定具は外してある、後は自力で扉を動かすだけだ。
ポチに警戒を頼み、両腕を使って扉を動かす。
少しずつ扉が動き、僅かな隙間が出来ると懐中電灯で中を照らしてミュータントがいないか調べる。
目につく範囲にはミュータントの姿は見えず、息遣いと言った音も聞こえてはこない、安全であると判断して鉄パイプを隙間に差し込んで梃子の原理で扉を開けていく。
「此処はサーバールームか、当たりではないが外れでもないな」
密閉構造をしていたのか部屋の中は広く壁には埃が薄く積もったままのコンピュータが朽ちる事もなく数多くあった。
だが、どれも大型機械であり持ち出すことはノヴァ一人では困難であり、それ以前にこれらを動かせるだけの電源を今のノヴァに用意できないという問題がある。
「電源の類が見つからないとどうしようもないな」
探索自体の結果は悪くない、工作機械や測定器を見付ける事も出来、コンピュータも目の前にある。
だがそれらを運用する事が出来るだけの電源が確保できておらず、発電機といった物も今の所見つけていない。
「どうすべきかね~、ポチどう思う?」
「ワウ?」
ポチに聞いても解決策を出してくることは無く、ちょこんと首を傾げるだけだ。
その姿に少しだけ癒されたので頭を撫でる。
さわさわとポチの頭を撫でながら電源をどうするか考える。
発電機が燃料と共にあれば最高なのだが可能性は低く、どんな燃料でも時間が経てば化学変化が起きてしまい見つけた時には燃料として使えない可能性もある。
そもそも発電機と燃料がセットで手に入ること自体が無理がある。
だったら自分で発電機を作ってしまうほうがいいだろう、モーターを探し出して風力発電機に作り変える、テスターは見つけているから試行錯誤すれば多少の問題はあれど作れるだろう。
そんな事を考えていると今まで撫でられるだけだったポチが急に手を払いのけ、耳をせわしなく動かし始める。
その行動が意味するところは知っている、クロスボウをポチの視線の先に合わせる様に構え警戒態勢に移る。
ポチが視線を向ける先は施設でまだ探索をしていなかった方向、その先にある通路は日の光が僅かにしか入り込まない為薄暗い。
「グルルルル」
懐中電灯で通路の先を照らせば姿こそまだ確認できないが、何かを引き摺っている音が聞こえ始めてきた。
そしてポチと共に警戒を続けていると音の発生源が姿を現した。
「……ゲン」
「アンドロイドか」
アンドロイド、別名人造人間は、人型ロボットや人間を模した機械や人工生命体の総称であり、ゲームでも敵として登場していた。
大抵の場合が会話が不可能でありプレイヤーを見つけ次第殺しに掛かってくるような奴らであり、設定では会話可能な存在もいたらしいがゲームでは終ぞ遭遇したことは無かった。
そんな設定を持つアンドロイドではあるが目の前から近付いてくる個体の姿は見ていて痛々しい。
全身の人工皮膚かもしくはスキンだったのかは分からないが剥き出しになった金属骨格と彼方此方断線している配線、無理をして動いているのは一目瞭然。
それでも壊れかけのアンドロイドは身体を引きずりながら歩み寄ってくる、一歩一歩と踏みしめる様に。
「ニ……ンゲ、ン」
その速度は遅く、今ならクロスボウで電脳があるであろう頭部を難なく破壊する事が出来る。
引き金には指を掛けてある、後は引くだけでありアンドロイドは簡単に破壊され機能を停止させるだろう。
「ニ、ゲテ……」
「なに?」
だがそうしなかった。
何故ならアンドロイドの口から出た言葉、それが此方の身を案じる言葉であったからだ。
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