第4話 夢中になっていた事
男の目の前には分解したクロスボウがある。
突貫作業で作った代物である為品質は最低、それでも遠距離攻撃が出来るという点で鉄パイプよりも優れた武器である。
だが男はこのままの状態で使い続けるつもりはない。
廃屋で見付けた大きな作業机の上には分解したクロスボウの部品以外にも様々な物が載っている。
壊れた扇風機があれば、プラスチック製のおもちゃ、壊れたラジオ、その他にも多くのガラクタが──素材があった。
「……よし!」
男は気合を入れるとドライバーを片手に作業に取り掛かる。
かつてゲームのプレイヤーであった男はミュータントと戦う事も好きだったが戦う事よりも男が夢中になったのがクラフト関連だった。
今や大抵のゲームで搭載されているクラフト機能であるが男がプレイしていた年代では珍しく、その幅広さからストーリーを無視してのめり込んでいた。
自作の銃をカスタマイズし、建物を建て、ロボットを作った、現実では出来なかった事、やりたかった事を画面の向こうで大いに楽しんだ。
それはこの世界に迷い込んで命の危機にさらされようとも変わらない。
ガラクタを分解し、使える部分と使えない部分を分け、必要があれば穴をあけ、変形させる。
ゲームでは全自動かつ一瞬で終わった作業、だが実際に手足を動かして行う作業は力と繊細さに加え体力が必要であった。
いつの間にか額には汗が浮かび、息が上がっている。
それでも作業机に注がれる視線は衰えることなく、寧ろ強くなっている。
頭の中に浮かぶ知識と作業手順、最初は持て余していたソレが実際の作業を通す事で確固とした経験となり男に還元されていく。
経験が蓄積されることで作業スピードは上昇し加工精度は上がっていく。
無論、男が今持っている工作道具は町の工務店らしき店に残されていたドライバーやペンチ等の小物しかなく、それで可能な工作には限界があった。
だが、その限られた範囲において男は今持つ能力の全てを注ぎ込む。
クロスボウの板バネを強化して射程を延伸、ストックを大型化して安定性の向上、照準器を付けて射撃精度の向上、機関部を改良してリロード速度の上昇、ボルトの連続発射機能の追加、頭の中に浮かんでくる改良案を一つ一つ試し、クロスボウに組み込んでいく。
現状での最適な形はなにか、今後の活動を考慮して優先して向上させる機能はなにか、頭と体が融け合ったかのような奇妙な感覚が全身を満たしていき、歯止めを失くしたかのように手先は動き続け──
「ワンッ!」
傍に座り込んでいたポチの一声によって現実に引き戻された。
「!?ポチどうした……て、もう日が暮れているじゃん!」
すわ、敵襲かと身構えれば拠点から覗く景色は夕焼けに染まりきっていた。
男の記憶が間違いでなければ作業を始めてからかなりの時間がが経過している。
その間ポチは迷惑をかけることなく傍で待ち続けていたが空腹が限界に来てしまった。
「すまんなポチ、直ぐに飯の用意をするよ」
そう言ってポチの夕食の準備に取り掛かる。そして作業机から離れると無意識で無視していた空腹と疲労感が襲ってきた。
幸いにも作業もひと段落しており、これ以上作業する体力は残っていない男は食べた後はそのまま寝るつもりでいる。
そして男が離れた作業机の上には突貫作業で作ったクロスボウはもう無い、大型化して多くの付属品を取り付けたクロスボウの姿は兵器としての格が上がっていた。
◆
クロスボウ改造の翌日、試射と廃品回収の為に男とポチは町を探索している。
改造したクロスボウは威力と射程の大幅な向上を果たし、再び遭遇したグールの頭蓋を一撃で貫通した。
この前の緊張は何だったのかと拍子抜けするが相手はミュータント界の最弱クラス、寧ろ一撃で仕留められる武器がないとこの世界を生き抜いていけないと思い出す。
その後、もう一匹位いないかな~、とグールを求めて廃墟で探索を続けるが、結局見つける事が出来なかった。
グール探しを切り上げた後は最近の日課と化した町での廃品回収をすることにした。
元々かなり時間が経っているせいか、見つける物はガラクタばかりではあるが何かしらの役に立つと考えて小まめに集めていく。
そして回収作業中に男とポチは奇妙な現場に遭遇した。
「ポチ、あれなんだか分かるか?」
「?」
男の問いかけにポチは首を傾げるだけで答えてはくれない。
だがその姿が可愛かったので視線は現場に向けたままポチの頭を撫でる。
「さてさて、どうするべきかね…」
視線の先に居るのは大きな動物、どちらかと言えば四つ足のミュータントに見えるが背中には何やらいろいろな物が載っている。
そしてミュータントの傍には外套を着た人間が一人、その前後には銃を構えた人間が二人いる。
もしゲーム通りであれば行商人とその護衛、もしくは略奪者に襲われている行商人にも見える。
だからこそどう対応するのが正解か分からない。
下手に近寄れば撃たれる可能性もあるが、無視する事は出来ればしたくは無い。
ここは偶然を装って近づくべきか、それとも──
「ワンッ!」
「……そうだな、格好つけるにしてもまだ三日しかたってないしな」
この世界に来てからまだ三日しかたっていない、平和な世界から迷い込んだ自分がこの世界の人間を演じるのは無理があり、元々演技に関しての才能があるわけでもない。
下手な演技は怪しまれるだけであり、そうであれば自然体で臨むの方が仲良くなれる可能性が上がるだろう。
「さて、お散歩に行きましょうか」
「ワン!」
見た目は行商人らしき人物達の元へ向けて男と犬は歩き出した。
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