第4話
そして翌日。
「うぃ~す!」
教室にやってきた大河は元気いっぱい挨拶をするが、返事をする者はいなかった。
めげずにもう一度。
「うぃ~す!」
数名の女子がビクッとして申し訳なさそうな顔をするが、やはり返事はない。
それで大河は察しがついた。
知らない所で女子達が結託し、大河をハブる事に決めたのだろう。
「……そんな、いくら俺が男だからって、こんなのあんまりだろ! う、うぅぅぅ……」
大河はショックを受けた顔をすると、涙声で顔を覆った。
「嘘、泣いちゃったじゃん!」
「ど、どうするの?」
「し、知らないよ! あたしが言い出したんじゃないし!」
「だから私はやめた方がいいって言ったんだよ……」
「いいんちょー、どーすんのさ!」
女子達は囁くと、困った顔で小町を見た。
小町は青ざめた顔で茫然としていた。
そして不意にハッとすると、大慌てで大河の所に飛んでくる。
「わ、悪かったわよ! あんたが女子に手を出さないように、あたし以外は口を利かないようにしようって決めたの! 取り消すから、泣かないでよ……」
「そんな事だろうと思ったぜ」
「きゃあ!?」
ケロッとして告げる大河に、小町が驚いて悲鳴をあげる。
「あ、あんた、泣いてたんじゃないの?」
「大の男があの程度の事で泣くかっての。お前らの反応で誰の差し金か分かるか試したんだ。予想以上にチョロかったな」
大河の発言に、小町は口をパクパクさせた。
「だ、騙したわね!?」
「おう。で、シカトは取り消してくれるんだったな?」
ニヤリとして大河が言うと。
「取り消しは取り消しよ! やっぱりあんたは危険人物! あたし以外の女子とは会話禁止よ! 言っておくけど、これはみんなで決めたことで、先生にも許可を得てるんだから!」
「とか言って、本当は貴重な男子を独占したいだけなんじゃねぇの?」
「なっ!?」
小町はたじろぐと、ハッとして後ろを振り向いた。
そちらでは女子達が「マジ?」「それはズルい!」「抜け駆け禁止!」と疑いの眼差しを向けている。
「ち、違うわよ!? 誰がこんな奴! あたしは委員長として、みんなの事を守りたいだけ!」
「本当かなぁ……」
「確かに佐原君はちょっと危ない感じだけど、それはそれで興味あるっていうか……」
「てーか、別に吉野、まだ委員長じゃなくね?」
どうやら女子も一枚岩ではないらしく、ぽつりぽつりと不平の声が聞こえてくる。
「あ、あたしは九年間クラス委員やってたの! 実績だってあるんだから! どうせ誰もやらないんだし、あたしが委員長で問題ないでしょ!?」
「へいへい。気持ちは嬉しいが、俺の為に争うなよ」
ここぞとばかりに、大河は一生に一度言ってみたかった台詞を口にした。
(うひょ~! 超良い気分!)
「誰のせいだと思ってんのよ!?」
すかさず小町は噛みつくが。
「だから、俺のせいだろ? 全く、モテる男はツラいぜ……。だっはっは!」
「あぁもう! 口を開けば屁理屈ばっかり! いいからさっさと席について!」
「へいへい」
肩をすくめて窓側の一番後ろに向かうのだが。
「あ? なんで小町が隣に座るんだよ」
どういう訳か、隣の席に小町が座った。
昨日までは、大人しそうな美少女の席だったのだが。
「言ったでしょ。みんなはあたしが守るって。この席の子も怖がってたし、監視役としてあたしが隣に座る事にしたの」
「……小町お前、俺の事好きすぎだろ」
「違うっての!?」
そんなわけで、小町に監視される事になったのだが。
「授業中によそ見しない!」
「いいだろ、よそ見くらい」
「エッチな目で女子見てたでしょ!」
「だって可愛い子ちゃんが俺の事見てたんだぜ? 無視できるかよ」
「手を振らないで! そこのあなたも! バカが調子乗るからこっち見ないで!」
授業中は小言を言われ。
休み時間になれば。
「ちょっと、どこ行くつもり?」
「便所」
「あたしも行くわ」
「はぁ?」
「あたしの見てない所でナンパするかもしれないでしょ!」
「……まぁ、しないとは言い切れねぇけど。まさか、中まで入って来るんじゃねぇだろうな?」
「なわけないでしょ!? 外で見張るだけよ!」
「それならいいけど。お前ん時はどうすんだよ」
「え?」
「小町もするだろ。うんk――」
「ワーワーワー!?」
大河の台詞を大声で掻き消すと、小町は恥じらうようにコホンと咳ばらいをし。
「あたしがお花を摘む時はあんたがついてくるのよ」
「えー。めんどくせぇー」
「いいから来るの!」
「まぁいいけど。小町が花に肥料やってる間にナンパするかもしれないぜ?」
ニヤニヤしながら大河が言えば。
「その時はこれで手摺に繋いでおくわ」
アイマスク、耳栓、手錠の三点セットを取り出して見せる。
「ペットプレイとか高度すぎんだろ……」
「人聞きの悪い事言わないでよ!? これはあんたの為に買ったんだから! 勘違いしないで!」
「いやまぁ冗談なんだが……。お嬢様でもペットプレイは分かるんだな」
「……………忘れなさい!?」
涙目でポカポカ叩かれる。
昼休みだって似たような物で。
「キョロキョロしないで! あんたはあたしだけ見てればいいのよ!」
とか言って、わざわざ正面に机を移動させて弁当を食べ始める。
「いや、自分を犠牲にして他の女子を守りたいって気持ちは立派だと思うが……」
「……なによ。文句あるの?」
「文句ってーか、今の台詞はなんか愛の告白みたいじゃね?」
チラリと視線を周りに向けると、他の女子達も遠巻きにこちらを見ながら赤い顔をしてキャーキャー言っている。
「ブフッ!? ち、違うわよ!?」
「だぁ!? 汚ねぇ!? 弁当噴くなよ!?」
「あんたが変な事言うからでしょ!? み、みんなも! 今のはそういう意味じゃないから! 誤解しないで! 誰がこんな下品な奴! ていうか、あたしは男なんか興味ないから!」
「お、つまり女が好きと?」
「あんたも話をややこしくしないで!?」
「隠す事ないだろ? BLTがどうたらって、最近はそういうの普通らしいぞ?」
「LGBTよ! あんたのそれはハンバーガーでしょ!?」
「あん?」
「あぁもう、このバカはぁあああ!?」
あははははは! と教室に爆笑の渦が巻き起こる。
やっと帰り時間になったと思えば。
「帰りもついてくんのかよ!」
「あたしだって嫌よ!? でも、そうでもしないとあんた、なにしでかすかわからないでしょ!?」
「それは否定しないが。俺は別に嫌じゃないぞ?」
「え?」
「放課後に美少女と二人で帰れるんだぜ? 嬉しくない男子なんかいないだろ?」
「ま、またそうやって人の事からかって! ナンパ禁止だって言ってるでしょ!?」
「ナンパじゃねぇよ。本当の事言ってるだけだろうが」
「うるさいうるさい! みんなと比べたらあたしなんか全然可愛くないし! そんなお世辞に騙される程バカじゃないんだから!」
「わかってねぇなぁ小町は。みんな違ってみんないい。女はどいつも世界に一つだけの花なんだぜ?」
格好つけて下手くそなウィンクを決めると、はたで見ていた女子達がキャーキャーと黄色い悲鳴をあげる。
小町もこれには言葉を失い、真っ赤になって「あぅ、ぁ、ぁう、ぁう……」と呻いている。
「そんで俺の夢は、この両手をデカい花束でいっぱいにする事ってな! だーっはっはっは!」
その言葉にガクッと肩でコケ。
「やっぱりあんたは女の敵よ!」
フルスイングで大河の尻を蹴りつけるのだった。
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