第10話おばちゃんという存在
「さて、これからどうしましょう?」
「む、そうだな」
ローザの問いに珍しく真面目モードのギレアスという組み合わせ。何の話題かと言うとロマリカの民をどうするか話し合っているのだ。
「ちょっと聞くけど、どこに向かってるの?」
「はい、アレス様。冬が来る前には、いつも南に向かいます」
驚いたことに集団を率いるのは十一歳の少女で名前をラトリーと言った。
ロマリカの民はばらばらに大陸中に散らばっているけど、彼女は族長に当たる。
身にまとっているのは粗末なローブだけど、確かにどことなく気品にあふれた美少女だ。
エキゾチックでどこか東方の血も感じられる美少女か・・・・・・。うん、ちょっと良いかもしれない。
「本当ならいまごろは、エスタの近くまで着いているはずなのですが、出遅れてしまって」
言葉に元気が無いのは、体調を崩した者が出てしまって予定より時期が遅れているようだ。
「それは難儀じゃの、冬越しは大変だろうに」
イネスはロマリカのお姉さんと子供たちにかまわれ過ぎて若干お疲れの様子。それでも機嫌が良いのはしっぽの艶に現れていた。
「それについてなんだけど、良かったら僕らのローズウッドで冬を過ごすのはどうかな?」
「おお! それが良い! 豊かな森と水に囲まれたところじゃ。アレスに任せればロマリカの民の事は心配なかろう」
勢いで決まったロマリカの民の保護についてローザに聞いてみたところ、まったく問題ないそうで密かに胸を撫で下ろした。
五十人程度なら問題なく住む場所もあるだろうし、最悪館で保護する手も有る。
そのあたりは何とでも出来るだけの甲斐性はあるのだ。
「まあ! なんというありがたいお言葉。私たちに安らぎの止まり木をお与えくださるのですね」
ラトリーが目を見開いて喜んだ。
住む国を持たない彼女たちにとって、安全に過ごせる場所というのはとても素晴らしい事らしい。
寒さに震えながら身を寄せ合うのは、教えに従い流浪しているロマリカの民に取っても辛い事なのだろう。
「はい、ローズウッドの名に掛けて」
だが問題はそこでは無かった。
僕達はスヴェアに向かっている。
「流石に馬車も無しで連れて行くとすると時間が掛かりすぎるか」
ギレアスが言うようにヨールの祭事までに王都に入らなければならない僕達に取っては、徒歩の集団を抱えて行動するとなると時間が掛かってしまう。
「手紙を持たせてロマリカの民を村に送るという手もあるが」
「却下ですわね」
ローザが言うまでも無い事だが、旅なれた連中とはいっても女子供でローズウッドに行かせるのは無理があった。
かといって、ギレアスかローザが同行するのも後の事を考えれば困る。
決めかねているとギレアスが思案の後切り出した。
「ククリ族の里に預けてはどうだ。帰りも寄る事になるが大した手間でもない」
街道からは離れるがククリ族の里が近くにあるらしい。
宿は無いが「多少の金を払えば面倒を見てくれるだろう」と、ギレアスの一言で僕たちの行き先はククリ族の里に決まったのだ。
※
「次に機会があったらローズウッドに寄らせて貰うぞ」
「ええ、何も無い村ですが、来てくれると嬉しいです」
そう、特産品も何も無い村でも、行商人に足を運んでもらえれば助かる。
売り物もそうだけれど、商人は話題や情報をもたらしてくれるのだ。
ここまで旅に同行してくれた商人たちに別れを告げて、総勢五十名ほどに膨れ上がった僕たちは西に進路を取った。
商人さんはそのまま街道沿いにハーフブルグという地方都市に向かった。相場しだいでは王都に行かずに荷を売り払うとの事で、そこで臨時の商隊は解散するとの事だ。
体調のすぐれない老人と足の遅い子供に馬車を譲って僕も歩く。
いつのまにか僕の周りはロマリカの民に囲まれていて賑やかな集団と化している。
その中でも年頃のお姉さんたちは、気になるのかチラチラと僕を遠巻きに見ていたのだが、この連中ときたら。
「ねえねえ? 聞いても良い?」
「はい、何ですか」
恰幅の良い優しそうなおばさん、けれど曲者だ。
「いやあ、若いのに大したもんだと思ってさ」
「えっ、なにがですか?」
「うふふ、ボクは、こんな理由も無い理不尽を見逃す気はナイのでー」
「ちょ! ちょっとお姉さん!」
もちろんボクは『おばさん』などと呼ぶ勇気は無い。
「あらん? もう! この子ったら、やだよお姉さんなんて、でも格好良かったじゃない? ちょっとジュンって濡れちゃった」
「あははそうだね。『ローズウッド』の名に誓ってロマリカの民を保護しますよー! って聞いた時はアタシも思わず昔を思い出したものさ」
思いっきりからかわれています。
まるで『大阪のおばちゃん』状態だ。
そのうち「あめちゃん食べる?」と言われても不思議と思わないだろう。
でも、濡れるってアレだよね?
貫禄のある腰まわりを眺めながらため息を吐いた。
どれくらい昔か気になるけど・・・・・・。この手の連中に付き合っていたらトンでもない事になりそうだ。
「それよりさ」
ローブの胸元をだらしなく開けたお姉さんが寄ってきた。
この人は踊り子さんで、吟遊詩人の歌に合わせて踊る。ちょっと色気のある人で意外に世話好きだった。
昨日の夜も仲間の間を走り回って、あれやこれやと動いていたし、イネスの餌付けに生きがいを感じたのか食事の世話を焼いていた。
小声になってボクの耳元で囁く。
「ねえ? ラトリーはどう思う?」
「ら、ラトリーさんですか」
「あらあらあら! 『ラトリーさん』なんて他人行儀なのね!」
おばさんモードは続く。
「知ってる?」
ん?なんだろう。
「あの子・・・・・・まだ男を知らないのよ」
「ちょっ!!!」
「年回りもピッタリだし、うんうん。良かったら貰っちゃいなよ」
「ななななな!!! なにをですか!」
「いやん。もう! とぼけちゃって、ほら? アレス様も興味があるんだろう?」
開けっぴろげというか、この強さがロマリカの民かと思いながら・・・・・・正直、疲れました。
そして、ある事ないこと吹き込まれては笑われて、賑やかな一行は街道を離れること半日、道が意外に整備されている事に驚きながら集落に着いた。
「集落っていうより、これは・・・・・・砦」
道が立派なはずだ。ここにはスヴェア王家代々の墓所があり、墓所を守るククリ族が暮らす砦なのだから。
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