第11話閑話 光の子
ロマリカには重い枷がはめられている。
帰る国を持たず旅を続ける事は苦難の連続だ。
『理不尽と思うこと無かれ』
幼い頃から聞かされ続けてきた言葉です。
神の言いつけで探し物をしているロマリカの民にとって苦難は禊である。
先代の巫女様の話では神代の時代から続いていると聞いた。
だとしたら神話の時代から探しているのにまだ見つからないって事だよね?
疑問に思った私は訊ねた。
「探し物ってなに?」
子供ながらの素朴な疑問。
もちろん族長の娘としての疑問でもある。
でも教えて貰った話はちょっぴり素敵な話で悲しい話だった。
まだ世界が九つに分かれていた時代。
神話に記された世界の話だ。
北の泉で生まれた神が一人の少女に出会って恋に落ちた。
当時は戦乱の世の中で少女は敵対する相手の姫君だったそうだ。
許されない、でもどうしようもなく燃え上がる恋。
誰もがこう言った。
「彼女は憎き巨人の娘だ、恋が実ることは無いだろう」
けれど、その情熱は誰にも止めることは出来なかったのだ。
三日三晩かけて口説き落とした神は、とうとう少女の愛を得ることに成功し二人は結ばれた。
「私は光を見つけたのよ」
反対された少女の言葉。
ふふふ、なんて素晴らしい情熱だろうと、当時少しだけ憧れた事を思い出して口元が綻む。
だって女の子なら誰でもそう思うでしょ?
全身全霊で愛をささやいてくれるなんて。
でも悲しいことに囚われた神を助けるため、最後に少女は自分の命を投げ出してしまう。
神は嘆き悲しみ、わが身を贄に冥界から少女の魂を呼んだのだ。
そして眷属に命じた。
「探せ」と、どこかに必ず生まれ変わる少女を見つけて、連れてくるように頼んだのだ。
その眷属の末裔がロマリカの民で、少女の生まれ変わりを探している。
代々伝わる話。
けれどわが身を贄にした神の願いは、何時しか形を変え呪いとなってロマリカの民を縛り付けた。
国を捨て全てを投げ打っても見つからない。
それはそうだ。
名前も容姿も分らず、どこで生まれ変わるかさえも見当がつかないのだから。
これで探せというのも無理があると言うものだ。
やがて絶望は諦めになり、苦難を受ける事だけが目的と化す。
そして許されて安住の地を求めるだけになってしまった。
何に許されると言うのだろうか?
今では大部分のロマリカの民は流浪するだけだ。
生まれ変わりを探しているのは一体どれだけいるのだろうか。
そんな苦難のなか、冬が来る前に何時ものように南へ向かっていた。
そして何時ものように姉たちに囲まれ歩く。
姉たちは私を守るために身体を張る。
世間では私たちのことを春を売ると揶揄する。でもそれは、私を守るためだ。
時にはあからさまに罵られ、つぶてで追い払われたこともあった。酔った男たちに力で迫られる事も多い。
そのすべてから姉たちは守ってくれるのだ。
すべては私のために。
岩山を登る途中で不思議な男の子を見つけた。
精霊を連れた男の子だ。
男の子は光に包まれ輝いていた。
どうやら行き先は同じのようでとても気になったけれど、声をかける事は恥かしかったから眺めるだけにした。
だってどう見てもみすぼらしい私では身分違いだから。
でも誰の助けを借りることも出来ない私達にとっては信じられない出来事が起きたのだ。
息を切らして岩山の街道を登る。尾根へ出れば一息つけると思いながら。
水袋はとっくに空で、小石を口に含んで頑張ることにした。
頂上から少しだけ下がると水場がある。やっとたどり着いた私たちは息を整える間もなく働く。
「水を汲ませておくれよ」
お姉さんが頼んでもニヤニヤと笑うだけだ。
嫌がらせなのは分っている。
でも小さな子供もいるのだ。
「お願いだよ、少しでも良いからさ」
彼らはサーム教徒だ。
蔑まされ嫌われているロマリカの民だが、水を分けてもらえなかった事は無い。
ああ神よ! どこまで私たちに苦難を与えるというのだ。
絶望に染まる。
だって身体の弱い者や子供にとって、水を得られないと言う事がどれだけ辛いのか。
力なき私たちは非しみに暮れた。
でも、そんな私たちにも光が届いたのだ。
『アレス・ローズウッド』
精霊を従いし光に包まれた男の子。
見とれてしまった。
だって・・・・・・。
いまなら神に愛された少女の気持ちが良くわかる。
「私は光を見つけたのよ」と言った少女。
そう私も光を見つける事が出来たから。
ああ神よ感謝します。
そして安住の地を与え下さった光の子にも。
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