第13話(閑話1) ラトナの視点:ラウンズ

 コウモリ型のモディの襲撃から数時間後、ラトナ・ボルカは騎士団庁舎の会議室ラウンドに踏み入れた。円卓にはすでに彼女以外11人の役員が揃っていた。

「おっと、皆様お揃いで」

 ラトナはあくびを抑え込んでそそーっと自分の席に滑り込んだ。

「では始めよう」議長役の騎士・王座のゴルダーニュが言った。「すでに知っている者も多いと思うが、今日未明、当市にモディの襲撃があり、南門付近で迎撃、これを討伐した。モディはコウモリ型1体。大きさは頭から足まで約15フィート。上空から急降下して城壁上に降下、傭兵と戦闘に入り、救援に駆けつけた騎士が反撃、その場でとどめを刺した。遺骸はすでに練兵場に移した。城壁の損傷も少なからずあるので修復の担当についてもこの場で決めたいと思う」

「騎士ということは、昨日の当直はラトナ・ボルカか」

 ラトナは得意になって髪をかき上げた。

「いや、とどめは弓のフューリアだ。心臓にランスボルトが突き刺さっているのを見たよ」と雷鳴のエルカイン。

 フューリアがラトナを見て「ふふっ」と笑った。


「一昨日もメサの森で同じコウモリ型のモディを仕留めたばかりだ。行商人や隊商からも数件の目撃証言が上がってきた。この数日の間にメサの奥地でモディの集団発生があったと見て間違いないだろう。発生地の捜索に人員を割いてはどうか」

「異議がなければ希望者を募ろうと思うが……では向かいたい者は手を挙げよ」

 ラトナはさっと手を挙げた。他にも4人手を挙げた。

「ユニットは1小隊規模でいいか?」

 異議なし

「他に意見は」

「弓兵は都市防衛の要だ。フューリアは残ってくれ」

「不服か?」

「いいえ、必要とされるのは悪い気分ではありません」

「あとはどうする」

「メサの奥地というとかなり大きな括りだ。1人に絞る必要もないのでは」

「4個小隊による同時行動、大規模だな」

「区割りはどうする。知らずに他の隊の後塵を拝するのは御免だが」

「メサは地形も平坦だし目立った河川もない。ここから見て短冊状に区切ればよかろう」

「しかし全体の範囲もまだ不明瞭だ」

「明瞭にできるものか?」

「なぜ今コウモリ型なのか、心当たりのある者は。発生地の特定に役立つと思うが」

「モディのタイプに規則性なんてない」

「なぜ発生するのかはともかく、モディのタイプはその地域に生息数の多いベタが元になるとも言われます。コウモリは洞窟や暗い森を住処にします。モディがコウモリの生息域にいるのだとすれば、洞窟、あるいは森の中でも特に鬱蒼としたエリアを重点的に捜索すべきでしょう」

「ならば4名に先立って私が下見をしてこよう」用兵のペルテンが言った。「洞窟の分布を調べれば取り逃しや無駄足を避けて範囲を設定できる。区割りも短冊状を基本とするのは構わないが、いくら平坦といっても踏破の妨げとなる川や谷はあるだろう。実際の地形に合わせて線を引くに越したことはない」

 誰も異論を唱えない。

「ただ、遭遇戦もありうる。測量隊を斥候にしたくはない。大まかなポイントがわかればいいだけだからね」

「それなら私の隊を貸そう。夜警番では持ち腐れだから」とラトナ。

「ではありがたく。昼過ぎに下に集めておいてくれるか」

「ああ、6騎揃える。自分からは仕掛けないようによく言っておく」

「私だけならそれでも構わないが」

「どちらにしろ好きに指示を出してよ。ま、あとで陰口を聞くのは嫌だけどね」


「金曜にはマップを配る」

「そうするとやや先の話をすることになるが、何か見つけた時はどうする? 連絡に備えて宿営地を互いに知っておくべきでは?」

「加えて各々伝令を常駐させておかねば入れ違いになる

「いや、黒板を置いて書きつけておけばどうか。人手を割くことでもあるまい」

「なるほど」

「ではそのように」


「他に意見がなければ城壁の件に移るが」

 全員何も言わない。議長は握っていたペンをパチンと置いて場の空気を締めた。

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