カリンとカレン

@Amami_amai

第1話 カリンとカレンのおやつ

ある暖かな秋の日のこと。

秋の紅葉に囲まれたレンガ造りの家、年季を感じる赤い木の扉を開き

「たっだいま~!」

モミジのようにきれいな赤色の髪をツインテールにまとめた少女「カレン」が無邪気な声でそう言うと。

「か、カレン!?おお、お帰りなさい……」

歯切れの悪い返事をするのは太陽に照らされたイチョウのように煌めく金髪の髪を肩のあたりまで伸ばした少女「カリン」だ。

カレンの帰りを知るや否や颯爽と家の奥から玄関に現れる。

「あっ!お姉ちゃん。テストお疲れ様!」

普段は部活の都合で少し遅めに帰宅するカリンだが、先週からテストのため今日もいつもより早く帰宅することができている。

「お姉ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」

見るとカリンは額に汗を浮かべ呼吸も少し乱れているようだった。

「もしかして具合悪いの?」

「い、いや!むしろ元気だよ!元気すぎて家帰ってからもずっと筋トレしてるくらいには元気!!!」

「そ、そうなんだ……」

何やら必死な姉に驚きながらも、元気ならそれでよいためそのまま自室に荷物をかたずけに行く。


一方

(しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!)

カレンが自室に荷物を置きに行ったの確認し盛大に頭を抱えるカリン。

(カレンの食べたがってたケーキ食べちゃったぁぁぁぁぁぁ!!!)


時は遡り。

「テスト疲れた~。」

今日のテストが終わり帰宅したカレン。

荷物をリビングに放り投げたカレンはテストによって奪われた糖分を補給するべく我が家の冷蔵庫へと向かった。

そこで彼女が目にしたのはとても美味しそうなショートケーキ。

(これは、カレンが昨日買ってもらってたケーキ屋さんの。

さすがの私も人のものを勝手に食べるようなことはしないわよ。)

そう決心したカレンだったが周りを見て気が付く。

「お菓子がない!?」

そう、こんな日に限って我が家の菓子の在庫は底をつきてしまっていたのだ。

(くっ……)

そう分かったとたんに目の前のショートケーキに視点が釘付けになってしまった。

糖分の不足したカレンの思考力はみるみる低下し、ある最悪の結論にたどり着いた。

(そうだ、このケーキを食べて回復した体力で新しいケーキを買ってこればいいんだ!)

そう結論づけたカレンは目の前のショートケーキに飛びつく。

甘酸っぱいイチゴの酸味にクリームとスポンジの甘さがベストマッチしている。

(よし、エネルギーも補給したし新しいショートケーキを……)

そう考えた途端に急な眠気に襲われた。

そしてカリンの意識はカレンのただいまによって覚醒する。


(まずい、まずい、まずい……)

カリンは先ほどまでの自分の行いを思い出しながら必死に打開策を考えていた。

(どうしよう、カレンがこの前から食べたいって言ってようやく手に入ったショートケーキを私が食べたなんてことがばれたら……)

想像したくもない。

カレンの悲しむ姿を想像するだけでこっちが悲しくなってしまう。

どうにかしなければ。

そうして考えているとカレンは一つのアイデアを思い付いた。

(そうだ、こうすれば何とかごまかせるかも……)

そうしてカリンの妹を救う?ためのミッションがスタートするのであった。


自室に荷物を置き終えたカレンは手を洗いケーキの入った冷蔵庫に向かった。

前から食べたいといっていたら母が買ってきてくれたケーキ。

(楽しみだなぁ。)

そんなことを考えて冷蔵庫を開けようとしたその時。

「待ってカレン‼」

そういうとカリンが自分の前に立ちはだかった。

「お姉ちゃんどうしたの!?」

何やら必死そうな姉の言葉に思わずびっくりしてしまった。

「カリン、今からケーキ食べるのよね?」

「うん、そうだけど?」

「実は私も今、すっごくケーキが食べたいの!それはもう、ケーキを食べないと死んでしまいそうなくらいには!」

「う、うん……」

「そんな私の前でおいしそうにカレンがケーキを食べていたら私はどうなってしまうと思う?」

「……」

「だから頼みがあるの。カレン、私と一緒にケーキ屋さんにケーキを買いに行きましょう!」

「!?」

「そうすれば二人で一緒にケーキも食べれて一石二鳥じゃないかしら?」

「た、確かに……」

「決まりね!早速ケーキを買いに行きましょう‼」

そうして半ば強制的にケーキ屋の買い物に付き合うことになってしまうのであった。


ケーキ屋を目指していると。

「わぁ!」

ふいにカレンがあるものに駆け寄った。

「カレン?そのモミジの樹がどうかしたの?」

カリンが不思議に思っていると。

「お姉ちゃん見て!私の髪色とおそろいでしょ!」

そう言って自分の髪の毛とモミジの葉を比べて見せてくる。

「カレンは本当にきれいな髪色をしてるわよね。」

「へへっ!」

そういうとカレンは飛び切りの笑顔で笑っていた。

(この笑顔を守らねば……)

などとカレンが考えていると。

「!?」

急に何を思ったのかカレンが別方向へ走っていく。

「カレン!どうしたの!」

不思議に思いながらあとをつけていく。

するとカレンが走ってこちらに向かってくるのが見えた。

「カレン?」

カリンのすぐそばまで来たカレンはふいにポケットから黄色いイチョウの葉を取り出し、彼女の髪と重ねて。

「これで!お姉ちゃんもお揃いだね!」

そう言って満面の笑みで微笑むカレン。

「ぷっ、はははは!!」

「お姉ちゃんどうしたの?」

「いやっ、やっぱりカレンは笑顔が一番だね。」

「お姉ちゃんも笑顔になってくれてよかった!」

「えっ?」

「だって、家を出る前からお姉ちゃんずっと暗そうな顔ばかりしてたから

私心配になっちゃって。でも、今こうやってお姉ちゃんも笑顔になってくれてよかったなって!」

「……!」

(私としたことが、妹に気を遣わせちゃうなんてね……)

自身の不甲斐なさを思うと同時に妹の成長を素直に喜ぶ自分がいた。


その後無事にケーキ屋にでケーキを購入した帰り道。

「お姉ちゃん、どうしてケーキを二つも買ったの?」

ケーキ屋に一緒に入った以上二つのケーキを隠すことはできなかった。

(……さすがにここまでか。)

覚悟を決めてカレンに向かい合う。

「カレンごめんね!実はケーキは私が食べちゃってそのことをごまかすためにケーキを買いにつれてきたの!」

「えっ……」

「本当にごめんね!もし許せないなら私の分のケーキも上げるから!」

「……」

(これはさすがに許してもらえないかな……)

先ほどまであんなに楽しそうだったカレンにこのようなことを言わなければならないのはすごく心苦しいが自ら招いてしまったことには向き合わなければならない。

カレンにどんなことを言われるのか、嫌われてしまったらどうしよう。

そんな不安が胸にこみあげてくる。

すると。

「お姉ちゃん、私そんなこと全然気にしてないから!頭を上げて。」

「え?」

意外な返答に間の抜けた声が出てしまった。

「確かに、お姉ちゃんが私のケーキを食べちゃったことはいけないことだけど。

私は今日久しぶりにお姉ちゃんとお出かけできたことのほうが嬉しかったの!」

「!?」

「お姉ちゃん、最近部活動が忙しくてあんまり一緒にいられる時間が少なかったでしょ。私、お姉ちゃんとお話しするの大好きだからずっと待ってたの。だから謝らないで、始まりがどうであれ私は楽しい時間を過ごせたから満足だよ!」

我が妹ながらなんと心の広いことかと感心してしまった。

思い返してみるとテスト期間中も次の日の予習やらなんやらでロクに相手をしてあげれていなかった。

「ごめんよカレン、また休日とかに時間があったらこうして出かけたりしようか。」

「うん!約束!」

そうして夕日に照らされながら姉妹は仲良く家でケーキを堪能した。


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