東京都豊島区の現状 2

「おーい 団長 大丈夫〜?」

少し前に戦闘を終えて、まだ色濃い戦闘の空気を残しつつ先程より雰囲気が弛緩した交差点に能天気な声が響く。

「うるせぇぞかえで 大丈夫に決まってんだろ。」

「ちょっと そんな言い方ないじゃないですか。人が心配してるのに。」

会話の感じからして、超見と呼ばれた人物と正斗は旧知の仲のようだが、その扱いはけっして対等な関係とは伺えない。それもそうだろう、話しかけてきた人物、超見こみかえでは豊島区自衛団きってのムードメーカーであり、その師団長である正斗にとっては腕はいいがトラブルばかり起こす問題児な部下なのだから。

「バカ言うな、お前に心配されるようになったら俺はおしまいだよ。大体今回のヤマだってお前がしくらなきゃ俺が来る必要もなかったんだ。」

確かに正斗のいうように、先程の男の1件は元々スーパーマーケットでテロが起きたという通報が自衛団本部に入って、急いで事態の確認をしようとした所で、急に何も準備しないまま楓が飛び出していってしまったために正斗自身が出てくるまで事態が大きくなってしまった。故に正斗としては楓のせいで自身が出張らなければいけなかなったのだが、それを聞いてさらに膨れ上がった楓の頬を見ればその意見に不満があるのは簡単に見て取れる。

「なんだその顔は? お前が何時ものように何も聞かずに突っ込んだからここまでの事態になってんだぞ?」

「でもでも、楓が早く駆けつけたから人的被害がなかったんだもん。いい事じゃん。」

呆れたように言った正斗の言葉に即座に楓は反撃する。だがそれを聞いた正斗は更にため息をついて言う。

「何が楓が駆けつけたからだ。駆けつけたって能力相性が悪すぎて、手も足も出ずにやられそうになってたのはどこの誰だ?」

「でもでも その間に団長が駆けつけたから結果、被害は最小限だったじゃん。」

この言葉にいい加減腹を立てた正斗は額に青筋が浮かぶがそれに気づかずに楓は続ける。

「大体、いつもだって通報あった時点で楓が駆けつけてるから間に合ってるんだし。情報集めてるの待ってたら間に合わないし。」

早口で捲し立てる楓に前方から声がかかる。

「おい…」

「ヒッ」

正斗の顔を見た瞬間楓は短い悲鳴をあげてしまう。

「おい、楓 自分が駆けつけてるから ってそう言ったのか?今? それは自分が犠牲になってもいいと言ってんのか? そういう意味ならばもうウチにはおけんぞ。いつもいってるはずだ。ウチにいるのは市民の守護者であって自殺志願者はお呼びじゃないってな。」

正斗の本気の怒りを見た楓は一瞬呆気に取られるが、しばらくして顔を半泣きにしてそれでも口を開く。

「でもでも 早く行かなきゃ また 前みたいな犠牲者が出るもん。」

「でもじゃない。大体それを防ぐた…「うるさい、うるさい、団長の馬鹿」

気がつくと楓は涙を流しながら来た道を引き止める間も無く走り去っていってしまった。

「はぁ 結局いつものパターンか。このガキ頼もうかと思ったんだがな。」

「やーい 団長がまた女の子泣かしてる。」

正斗が楓の分からず屋加減にため息をついていると、楓が走り去った方向から入れ違うように揶揄った声が聞こえる。

花嵐げらんか。丁度いい所に来た。こいつを頼む。」

声を掛けてきたのは、こちらも自衛団の一員で正斗の部下であり、先程の活発そうな美人でスタイルもいい超見に比べて対照的な、陰気そうな雰囲気に目の下のクマが目立っている色白で皮肉っぽい表情を浮かべた長身な男だった。名を花嵐ゲランオウと言い、かなり変わった名前をしているが自衛団の中でもかなり優秀な人間のうちの一人だ。正斗は声を掛けられるとこれ幸いと巻き込まれた少女を花嵐に差し出すが、花嵐はどこか不満そうだ。

「団長 少しは俺にも構ってよ。」

どうやら 揶揄った言葉を無視されたのが不満らしい。

「お前まで馬鹿言うな。楓のアレは構ってんじゃなくてしかってんだ。それともお前も怒られたいか?」

「それは遠慮しとくよ。」

花嵐の言葉に正斗はニッコリと答えるがその笑みの余りの怖さに花嵐は目を晒して、ただ差し出された少女を受け取る。


帰り道、少女を親元に返したいがどこから攫われたか分からなかったため一旦本部に持ち帰る事にした二人は道中を無言で歩いていた。少しして不意に花嵐が静寂を破る。

「団長、ここんとここんな騒動が多すぎない?いくらウチが元々他と比べて被害が大きい方とはいえ流石に増えすぎでしょ。」

確かに花嵐のいう通りだった。つい二年前に施行された法律によって移民が増加した事でこの地区は東京都でも最も治安の悪い地域と化していた事もあり、ここの天賦を使った犯罪所謂 天犯 と市民内で出来上がりつつある自衛体制内では呼ばれているものの件数は元々東京内でもトップクラスだったがそれにしてもここ最近の増加量は半端じゃ無い。

「あぁ そうだな。 ここ最近の増加は尋常じゃ無い。まぁ原因は明らかなんだが。」

「えっ 原因分かってんの? 何が原因? なんで皆んなに言わないの?」

正斗の答えにあまりの衝撃を受けたらしい花嵐は上擦った声で半ば責めるように正斗にきく。

「あ〜 原因 原因な。… まぁ、お前ならいいか。ちょっと耳貸せ。」

正斗は少し迷った後、花嵐を近寄らせて、周囲を見回したあとヒソヒソと話し始める。

「いいか、これは一部の上の人間にしか現時点では伝えられてねぇ情報だがな。政府はひた隠したるが都内の刑務所のうちのいくつかが天賦者によって破られたらしい。そして厄介な事にそのグループのうち幾つかがこの周辺に住み着きやがったんだそうだ。んでな,そいつらが来た瞬間から天犯が急にふえた、流石にこっちも色々と警戒して調査をしたんだがその結果なんでもそれらがここ最近の天犯のうちいくつかの裏にいるっぽいことが分かったって訳だ。」

この正斗の衝撃発言にたまらず花嵐は大きな声が出そうになり口を抑えた。落ち着いた後再度問う。

「ハァハァ… じゃぁ何? 最近の事件は全部?」

「流石に全部ってこたぁないだろうが、とにかくその討伐作戦を今立ててるんで情報漏洩を防ぐために最低限の人間にしかこのことは知らされてないってわけよ。」

この説明に花嵐は深い納得感を覚えた。確かに最近は時間だけでなく自分たちの上の動きも不自然だと思っていたがそういう理由だったらしい。

「俺たちは、その作戦には参加しなくていいんすか?」

花嵐は情報を求めて更に問う。だが正斗は眉根を寄せて困ったような表情を浮かべた。

「さぁな そこまでは俺も知らんな。まぁ俺たちが必要ならその時は何か言ってくるだろう。」

それだけ言うと会話が終わる。だが2人の脳裏には道中ずっと色濃い不安が燻り続けていた。

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