第4話 潔癖魔女の夢潰し
臭い。
血生臭い。
もう誰にも触られたくない。
もう誰にも、触れたくない。
3人掛かりで最後の力を振り絞っているのだろうか。ワタシを目掛けてまた寄ってくる。
仕方ない。
この大きなリング上に、無傷で立っているのはワタシしか居ないのだから。
「―――【
現れた氷山が、また真っ赤に染まるように。
疲れ切ったニオイの中に、嗅いだことのない弱いニオイがした。
集中が散っているのだろうか。今はそれより、ゴングが鳴るまでここに立っておくことに注意を向けるべきだ。
幸い、あと少しで目標に達することができる。
(―――うわぁーーーーー!!!!!)
目標、それは―――。
『おおーっと!! 優勝候補の頭上に何やら黒い影がァ!!?』
「「え…―――」」
早瀬和希は飛んでいた。そして誰かの頭上に落ちてった。
ドシャーンという音とともに、ゴングがなる。
『優勝は、飛び入りッ! いえ、飛び落ち参加のコイツッ…!!』
「……え俺?」
『エオレ選手ゥーー!!!』
うわぁ、なんかやばそうなことになってる。マグマから和希を守り切れなかったココロは、遠い空からジト目で状況を伺った。
夢を潰された少女と何も知らない男の対面は、それはそれは気まずいモノだった。
「ウッ…、グスンッ…、エオレさん、おめでとうござい、ゴホッグスッオエッ」
和希は金ぴかのトロフィーとおろしたてのマントで豪華絢爛に飾り付けられていた。
「え、えと、あの、、今からでも出場の意志はなかったって運営に言ってきましょうか…?」
「いえ…、旅は道連れ世は情けです…」
「……ん、ちょっと、どういうことですか」
2人は大会バックヤードの隅の方でやり取りしていた。それを取り囲むようにココロや向こうの関係者らしき数名が腕を組んでいる。
紫髪のミディアムボブを揺らしながら優勝候補は言う。
「――ご迷惑をかけてすみません、エオレさん。」
「あ、俺エオレじゃないです。」
「ウチの者が本当に申し訳ありません、」
礼儀の良い白髪のおじいちゃんが出てきた。
「どうかご容赦ください、エオレ選手。」
「あの、俺エオレ選手じゃないですから。」
「アタシからもお詫びさせてください、」
赤髪の上品なふんわりロングの女性も出てきた。
「どうもごめんなさい、レオーネ先生。」
「誰っすか」
赤髪は紫髪の少女の肩を持ちながら言う。
「
両手で少女を包み込み、言葉を続ける。
「優勝は叶わなかったけど精一杯やってくれて、アタシも夢を見せられたよ。ホントにあとちょっとだったしね♪」
ちらっとこっちに目をやる赤髪と目が合い、ニシシと笑いをかけられる。
この大会を勝ち抜けば、次のさらに大きな大会に招かれるらしい。
和希はキッと目の色を変え少女の目の前に歩を進めた。
「俺、次の大会で優勝を目指すよ。……スーノちゃん、君の夢を俺が継ぐから。」
――だから安心して、と言いたい所だが、優勝できる保証はもちろんない。俺はココロのように強い魔法が使える訳でもない。でもこの時だけは、不思議と勇気が湧いて大口を叩きたくなったのだ。
次の大会、それまでにはなんとか戦える方法を見つけないと。ゲームのイメージを具現化できるアイテム! とかあれば俺は強いと思うんだけど、見つからない間はシンプルに、いやずる賢く戦う道でも見つけようか。
「次の大会までは、今日を除いてあと5日ですよ」
おじいちゃんが衝撃の事実を語った。
「5日……、短すぎる……いやでも俺はいずれ魔王を倒すんだから、これくらいの逆境は立ち向かわないと!」
和希がぼそっと呟いた中で、
和希は覚悟を決める意味でスーノに手を差し出した。握手しようとした。
しかし、少女手を引っ込めたまま出す気配がない。
「あの、ワタシ知らない人に触られるの苦手なんです。ごめんなさい。」
そう言ってクールな姿勢のまま、スーノは去っていった。
スーノたちは自ギルドの拠点に戻っていた。ここで日々暮らしているのである。
スーノは独り反省していた。今日の大会のこと、和希との関わり方のこと、初対面でありながら、触らないで、などとあまり聞き心地の良くない言葉を向けてしまった。
「できることなら、謝りたいです」
そう呟いて、ふとまだ嗅ぎ慣れないニオイが拠点の内にあることに気が付いた。
「あ、スーノさん。こちらのお二人に来ていただきました。」
白髪の老人のもとに行くと、和希とココロが連れ立ってそこに居た。スーノはほんの少しほっとして話しかけようとすると、白髪がその前に補足した。
「スーノさん、この2人としばらく同居することになるのですが、よろしいでしょうか」
え…、スーノはビックリしてその場に固まっていた。
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