第3話 兄妹の関係じゃなくなる可能性
「いや、正直に答えてくれるのは良いことなんだけどね、そんなにマンキンで受け止められてもちょっと困るかも……」
和希は困り眉で足元を見つめた。どうしても、ココロの幼少期が思い出せないのだ。
「俺たち5歳は歳離れてるよね。」
「うん」
「確か、俺のお母さんは俺を産んですぐに死んだらしいんだよ。」
「そうらしいね」
「――……あと、なんで魔法が使えるの?」
「えっと……――」
「いや、違うな。……なんで俺は妹が魔法を使える状況を異常と思ってなかったんだろうね。」
ココロの首筋に汗が垂れる。ココロは黙ってしまった。
「――魔王とか異世界とか、特に説明した訳じゃないのに状況に適応してたじゃん。なんか雑じゃない?
「『騙す』……、うん。そうかも。」
ココロは和希の目を見て言い張った。
「だからかな、今回がいちばん気がつくのが早かった」
「……今回…。」
和希は思い出した。ココロの正体を。
「わたしは“心の神”、今は天の使いとしてきみの近くに居る。」
「神…、天の使い……。
「ん? なにが」
和希の急激な盛り上がり方に、ココロは疑問を浮かべる。
「俺、妹のことは天使だと思ってるんだ。だって、もし居たら絶対かわいいじゃん!」
ココロは目を丸くして和希を見つめた後、ため息混じりに言う。
「ブレないね、きみは。まあ
「ねえココロ、その
「うぇっ、くると思った」
苦い汁を吐き出すようにココロは唱えた。
「……お、…おにー…、ちゃん……?」
ココロはふいっと横を向き真っ赤になった耳を塞いで屈む。
「はい。これからは本当の妹ということで。お兄ちゃん頑張るから一緒に生涯を添い遂げようね」
「きもい。ロリコン。へんたい。ばーか。」
「わ、いつもの辛辣なココロに戻った」
冗談じゃないですか、と下手に出る和希に、ココロはこんなことを思っていた。
天使が近くに居るということはそれほど
でも違うのかもしれない。わざと呑気に振る舞って、私を元気づけているのかも。だってきみは不器用なのにそんなことをしようとしてしまうだから。笑顔で人の助けになるヒーローが、きみの憧れであり初恋の人だから、と。
――また、助けられてる。
ココロは数分前の空気とはあたたかさが全く異なっていることに気が付いた。
「さて、おっけー。もう気が済んだ。」
和希はココロの目線まで下がっていう。
「……また記憶消すんでしょ? 1ヶ月前に俺んちに来てからもう5回目くらいになるかな?」
和希は蘇った記憶の断片を基に推測する。それは5回妹じゃない存在に気付き、その度ごとに記憶の操作から逃れる結果にはなっていないということだ。
「……わたしはこの力を
「……じゃあ、次はお嫁さんになってるかもしれないってコト!?」
「は?」
「あ、でもごめんね。彼女候補に心当たりがあるから、恋愛はNGなの」
「…ばーか。」
なるわけないじゃん、と言い残しココロは洗脳の構えに入る。
ところで、とココロは和希の頬に手を当てながら問うた。
「さっき和希が言ってた、『妹は天使』…だっけ?」
「ああ、うん。なんか恥ずくなってきたわ、ごめん。」
「……わたしの目的って、和希に妹って思わせることじゃん。」
「うん」
「わたしって天使じゃん。」
「うん…」
「妹って天使じゃん。」
「……うん」
「ねえわたしって、きみにとっての
「……お、おぉん。……かもね…。」
「ふふっ。じゃあ、洗脳完了――。」
俺に添えた手で魔法を使うわけでも無く、ココロは悪戯っぽく和希の頭を撫でた。
「はは……、
「残念。
したり顔の心を見て安心し、和希は少し汗ばんだ。
というか、どんどん汗が濃くなってきている。
暑い。
「んん? ココロの色香に当てられた可能性はあるけど、それにしても暑い。」
ロリコンジョークを織り交ぜつつ視線を送るとココロもどうやら汗をにじませているようで、胸元にひらひらと空気を送っている。えっ○い。
そんなことを考えている矢先に、大噴火が起きた。
大噴火と言うと、何かの比喩などではなく、そう、魔王の部屋の岩盤に亀裂が入り、マグマが噴き出したのだ。
俺たちは灼熱のマグマに飲み込まれた。
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