第3話 プロローグ 3
謎の物体は、歩いて降りるには時間がかかりそうな山を一気に転がり、勢いのまま平野を進み続けた。
意識を失ってしまえば障壁は消えてしまうので、必死になんとか耐えているようだ。
自然に止まってからようやく障壁を解除したものの、なかなか深刻なダメージだ。
潰れた蛙のような恰好で動かない。見た目の幼さで誤魔化せない……あまりにみっともない姿で倒れている。
拷問のように転がり続け、とにかく大変なことになっているらしい。
「う゛え゛ぇ゛っ……!」
嘔吐く。
「……っ……ぅぷ……おぼろろろぉっ……!」
耐えられなかった。
「お゛ぇ゛っ……げぼろろろろ……!」
もう一回。
「……ぅ……っ……ぉぇっ……」
お腹のものは無くなった。未だ世界が回っている。
貧弱な彼女にしてみれば大変なんてものじゃないかもしれない。
「……っ……はぁ……はぁ……はぁぁああ……」
とりあえず出したモノで汚れないように、ゴロンとまた少し転がり落ち着こうとする。
「おーい、大丈夫ー!?」
一息付いた頃にルナが飛んで来る。
便利なことに随分な速さで飛んで追いかけてきた彼女は、シアと違って疲れた様子も無い。
シアはとりあえず大丈夫ではあることを伝える為、倒れたまま力なく手を振る。
心身共にぐちゃぐちゃで、八つ当たりしようにもそれどころじゃないらしい。
「大丈夫なら良かった、気兼ねなく笑えるや!」
ふざけた事を言いながら……いや既に笑いながら近づいていく。
「あはははははっ! シアったらほんと……ふふっ、あはははっ……おぇ゛、くっさっ」
笑うどころかブツの臭いに若干嘔吐きながら蔑む。
「酷い……」
「ふふふっ……大丈夫なら運ぶよ。降りてくる時に魔動車が見えたんだ。街道はすぐそこだしね」
幸か不幸か、目指した街道まであっという間だった。
しかもタイミングよく人が通りがかってくれるとは。
「じゃあお願い……今なら本当に弱ってるから、演技要らないし……」
逞しいやらなんやら、この状況を精一杯利用するらしい。
しかし確かに、これだけ弱った姿なら演技無しでどうにでもなりそうだ。
「ほいほーい」
小さい体で頑張ってシアの細い腰を持ち、魔法を併用して運んでいく。
スムーズとは言えないが急がなきゃならない。
ただし、痛みやらなんやらで酷い状態なのを軽減してやろうと魔法で癒しながらだ。
なんだかんだ気遣ってあげているらしい。
そうして街道に出れば、ぺいっと投げ出し、べちゃっと落とす。
気遣っていると思えばこれだ。
「う゛っ……」
落とされたシアから鈍い音と呻き声が聞こえたが、ルナは気にしない。
彼女にとっては多少の怪我など魔法で癒せるからか、中々に酷い扱いである。
そのまま、街道の隅に放り出したシアの傍で心配してる風を装い魔動車を待つ。
「ほんっと、シアと居ると楽しい事ばかりだなぁ」
ただ街道へ降りていくだけでこれだ。普通こうはならないだろう。
お互いが共に居る事を楽しいと感じ、大切な存在であると思っている。
やり取りはこんなでも、何年も2人だけで生きてきた絆は確固たるもの。
それが彼女達の関係だ。
車が止まり、慌てたように人が降りてくる。
悪い人達ではなさそう……というかどう見ても善人の集団だ。
武器を持ち周囲の警戒に回ったり、タオルや包帯なんかを持って近づいてくる。
良かった、申し訳ないけど騙されてもらおう。
でもシアがこんなんじゃあたしが説明しなきゃならないな……どんな設定だったっけ。
考えたのはあたしじゃありません、コイツです。
と、噓泣きの為にわざわざ魔法で涙を作って、親切な人達に向きながら叫んだ。
「助けてっ! 友達がっ……」
生まれ変わった少女と、小さな精霊。
楽しい事、面白い事が大好きで、好奇心のまま動く人騒がせなおバカ達。
幸せを求める彼女達の物語は、ここから大きく進んでいく。
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