第1部 

1章 新しい居場所、新しい家族

第14話 出逢い 1 落ちてるものを拾うのは気を付けよう

 街道を進む魔動車。

 ランブレットという街へ向かうそれに乗る少女セシリアは最近悩んでいる。


 学校を出て狩人――ハンターとして働き始めて半年、来月で15歳になる。

 家族と親友と共にギルドに勤め、まだ短期間とは言え期待の新人としてそれなりに評価される程度にやってきた。


 その事に不満は無い。しかし本当にこれでいいのか、私のしたい事はこれなのか……と。


 ハンターとして戦う事はなによりも人の為になるだろう重要なもので、命懸けのそれに嫌気が差したわけではない。

 むしろ誇りに思っているほどだ。


 だけど、今までずっと周りに流されてきた。

 父も兄もハンターとして活躍していて憧れはあった。

 1つ上の親友もまた一足先にハンターになっていたし、彼女自身も才能と環境に恵まれた。

 ならばこれが自分に出来る事なのだと、特に他の道を考えようともせずに。


 漠然とした不安を覚えた。

 信念を持って戦う人ばかりを見たからか。自分にはという芯が無いような……


 しかし仮にギルドを辞め何かしてみようにも、何も思いつかない。

 一度感じた不安は消えることなく心の奥で燻っている。




 ギルドとは職業毎に人が集まった組織で、数多く存在する。

 ハンターとはその内の1つ、主に魔物等の外敵と戦い街を護る仕事だ。

 街の外を移動する人達の護衛も担っている、非常に重要な仕事である。


 魔物は倒せば消える……しかし消えてしまう物を元に報酬を払う事は出来ない為、常に一定の給料が支払われる。

 勿論役職や評価で変わるし、仕事内容によっては追加で支払われたりもする。


 殆ど戦わない日も、死にかけるほど苛烈な日も基本的には同じ報酬だ。

 魔物以外と戦う事も多いけれど、何を倒したからと報酬を貰うのはどちらにせよ難しい。


 まさかわざわざ死体をいくつも運ぶわけにもいかないので、証明のしようが無い。

 素材になるモノを切り落とす事はあれど、やはりそれも倒した証明とするには難しい場合が殆どだ。


 ハンターの名前通り獣を狩ったり、価値ある素材を売れば副収入になる場合もある。

 しかし、あくまで街を護るのが仕事だという事は忘れてはならない。


 なんにせよ特別裕福になる程ではないものの、安定したそれなりの収入が確約されるのは魅力的だ。

 命を懸けるという条件さえ覚悟出来るのなら。



 ハンターギルドは多数あるが、セシリアが居るのはランブレットで2番目に有名なギルドだ。規模だけ見れば最も大きい。

 1番有名なギルドは……ある意味特別なので、実質セシリア達のギルドがトップと言ってもいいだろう。


 彼女が隣町のミスラに(隣と言ってもそこそこの距離があるが)ギルドの会合という、近隣の情報交換を建前としたどんちゃん騒ぎに連れていかれたのが昨日の事。


 情報交換などいくらでも手段があるのだが、わざわざ遊びにいってるのは団長同士仲が良いという理由である。


 メンバーは団長のヴィクターと、長く共に戦ってきたフェリクスとダリル。

 そして殆ど無理矢理連れてこられた、フェリクスの娘のセシリアと兄セシル、ダリルの弟子リリーナ。


 トップ3が揃ってお出かけとは、街を護る者がそれで良いのかと言いたくなるが良いらしい。

 大丈夫な様に運営出来ていると考えれば確かに良い事なのかもしれない。

 なにより、息抜きも大事と言う事だろう。



 魔動車の舵を握るのは団長。フェリクスとダリルは寝ている。

 そんな彼らに構わず、セシリアは隣のリリーナと愚痴を言い合っている。家族だから弟子だからと巻き込まれて不満らしい。

 セシルも2人を宥めるだけで大人達を庇ってはいない。


 そうこうしているうちに街までの道程を半分くらい過ぎ、山の麓を通る頃。


「おいお前ら起きろ! 止まるぞ!」


 団長が振り返り声を上げた。

 筋骨隆々で少し長い赤髪を後ろに流して纏めた彼は、良く言えば大らかで頼りになるリーダーだ。


「あー……もう着いたか?」


 もそもそと起きるのはフェリクス。

 団長よりは控えめの筋肉だが逞しい。短めの茶髪をかきあげながら、そんなに長く眠っていたかと疑問に思う。


「ふぁ……早かったな……」


 呑気に欠伸をしているのはダリル。

 エルフの特徴で細身。無造作な黒髪で覇気の無い顔をしている。


「まだですよ……何があったんですか?」


 敵襲ではなさそうだからか呑気な大人達に呆れ、急に止まると言い出した団長に聞くのはセシリア。

 腰まで届くかという長い金髪を揺らしながら、念の為に武器を取りに歩く。


 つられて隣の、セシリアよりは短い青みがかった薄いグレーの髪をしたエルフの少女――リリーナは外を見る。周囲には特に何もない、あるのは正面のようだ。


 セシルも黙って武器を取りつつ歩く。肩にかかるくらいの金髪でキリっとした顔だ。動じていない。


「子供が倒れてる! しかも精霊までいるぞ!」


「なんだと!? 子供って……おいおい一体何が……」


 予想だにしなかった言葉に驚きながらフェリクスが慌てて前を見ると、確かに小さな子供が倒れている。

 横で浮いているのは精霊か……珍しいものを見たが子供が心配だ。


 軽く見回す限り敵は居なさそうだが、どうしたというのだろうか。


「とりあえず降りるぞ!」


 全員が真面目な顔になるまでの数秒で車は止まり、団長が指示を飛ばす。

 武器やタオルや包帯などを持ち外へ降りるとすぐさま走り出す。

 倒れた子供の横、精霊がこちらに気付き叫ぶ。


「助けてっ! 友達がっ……」


 可愛らしい顔を歪ませ涙を流す精霊に、一行は緊張感を持って近づく。

 子供の周囲に血痕などはないが、只事ではなさそうだ。


「その子はどうした? ケガをしているのか?」


 団長が精霊に聞いている間に、フェリクスとセシルは周囲の警戒をする。

 ダリルは倒れているのが幼いエルフの少女……それもとんでもない恰好をしているのを見て、タオルをセシリアとリリーナに渡し診させ警戒に回る。

 幼いとは言え、女性が居るなら任せた方が良さそうという判断だろう。


「ケガ……は、その……少しだけ。酷く弱ってて……えっと……」


 しどろもどろに説明をする精霊は不安そうだ。

 実際はただ設定を思い出しながら喋っているだけだが。


「打撲程度だと思うけど……酷い……」


「こんなにボロボロになって……一体何が……どうして……」


 少女を診ていたセシリアとリリーナは拙いながらも治癒魔法を使い、声を洩らす。


 大したケガをしていない事には安心するが、裸足で下着さえ無くボロきれを纏っているだけの……痩せたあまりに痛ましい姿に疑問と涙を浮かべる。


「えーと……話すと長くなるんだ。さっきあたしが殆ど治したから、安全な所で安静にすれば大丈夫なはずだよ」


「なら車に戻ろう。2人はその子を頼む」


 見た目は酷いがとりあえず無事なら、わざわざ外でのんびりする必要も無い。

 事情は中で聞けばいいと団長は判断した。


 少女は女性2人に任せて、周囲の警戒をしている3人に車へ戻るぞと呼びかける。

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