第5話 金目鯛の煮付け

コトン


俺は店で作っていたものと同じ金目鯛の煮付けを、2人の目の前に差し出した。多少煮込み時間は少ないが、味付けは一緒である。


「おーこれが金目鯛の煮付けか…。美味そうだが、初めて見たな。王様は食べた事はあるのか!?」


「……いや、僕も食べた事はないですね。煮付けなんて料理は初めて聞きました。」


「だよなあ!王様でも食べた事ないなら、この国のもんは誰も食べた事はないだろうなあ…。どんなもんか楽しみだぜ!」


どうやらこの国には、煮付け料理というものが存在しないらしい。

2人とも、興味深そうに金目鯛の煮付けを眺めている。モフモフの耳と尻尾が左右に揺れていて、なんだか可愛いな……。俺の料理を楽しみにしてくれているのが全身で伝わってくる。

 そして、この国にはどうやらお箸が存在しないらしいので、2人はフォークでパクリと食べた。


ドキドキドキドキドキ


どうだろうか、この世界の人達にも俺の料理は美味しいと思ってもらえるのだろうか…。俺は固唾を飲んで、2人を見守った。



「~~~~~~~う、」


「……う?」


「うめええええええええええええぇぇ!!!!!!!」


「凄いな…。これは絶品だ!!ユウ凄く美味しいよ!!!」


「マジで!?良かった~~~~~。嬉しい!!!!」



もの凄くホッとした。どうやら、この国の獣人達の味覚も俺とそう大差はないらしい。

2人はバクバクとても美味しそうに食べている。うわ~~~やっぱり自分の作った料理を美味そうにたらふく食べている姿を見るのって、めちゃくちゃ嬉しいな~~!料理人冥利に尽きるなあ。

  でも、やっぱ猫って魚好きなんだな~。


「ははっ、可愛いなぁ」


「…ユウ何か言ったか?」


「あ、ごめんアレン。ふふっ、何でもないよ」


まさか猫耳がピコピコで、尻尾もフサフサと動かしながら食べている様子が可愛くてー…なんて、とても言えるはずがなかった。


「美味しすぎて、もう食べきってしまったよ。ユウは本当に料理が上手なんだね。」


アレンは甘く微笑みかけながら、何故だか俺の頭をなでなでしてくる。


ーえ、何これ、この国ではこれが褒める時の仕草なのかー…?


 こんなの、恋人同士でしかやらないぞ。俺は手をどかすのも変なので、されるがまま撫でられていた。なんだか、とても恥ずかしいー…。それにしても、アレンの手って大きくて気持ち良いなあ。ちなみに俺は背は165cmぐらいしかないので、アレンと俺とではかなり体格差がある。

 それにしても撫でる時間長くないか…?俺は恥ずかしくなって、自分でも顔が赤面するのを感じる。


「おや~~~~、もしかして王様、そういう事か~?」


ミューロもいつの間にか完食しており、何故だかニヤけた顔で俺達を見てくる。撫でられて照れている所を見られたのは、素直に恥ずかしい。


「ははっ、流石はミューロだな。…わかったか?」


「そりゃあ王様とは付き合いが長いからね。へー王様って、こういう趣味なのか…。意外だね~」


さっきから2人は何の話をしているのだろうか…?料理人として雇うかどうかの話だろうか…。


「一目惚れしたんだよ。そういう訳で、ユウには手を出さないでくれよ」


そう言うとアレンは俺を引き寄せて、ギュッと抱きしめた。


「ーーーーー…え、えええええええ!!!!!」


俺は24年生きていて、一番の大声を出した。

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