第4話 にゃんにゃん王国の料理人
料理人ー…?
「……猫の料理人を俺が…?」
「猫ではなく、モフモフ猫族だ。俺はユウの作った料理を食べてみたい。料理人になってはくれないだろうか」
「…え、いや、でも……今やっている料理人がいるんじゃ…?」
そうだ、俺みたいなどこの骨とも分からない人間が急に来たら、煙たがれるに決まっている。
「そんな事はないよ。ここの料理人は今3人しかいなくて、丁度追加しようと思っていた所なんだよ。それに料理人達は、皆とても良い奴らだよ」
「…そうなんだ…」
俺はまた料理を出来るかもしれないと一瞬喜んだが、ふと思う。このにゃんにゃん王国で扱う食材や、また美味しいと思う味覚は果たして俺と同じなのだろうか…?もし違うのだとしたら、俺はここでは料理人をする事はできない。だって、自分が美味いと思ったものが、この国の人にとっては不味いものだとしたら……。
ごくり
料理人の俺にとって、それはあまりにも怖い事だった。
「……厨房と冷蔵庫の中身を見せてもらっても良いかな?それから答えを出したいんだ」
「勿論、構わないよ!」
* * * * * *
俺は冷蔵庫に入っている食材を見て、愕然とした。みた事のない食材ばかりだ。
虹色に輝く魚、オーロラのように発光する魚、全長3メートルはあるだろう魚…,ってか魚ばっかりだな!!さすがは猫…じゃなかったモフモフ猫族!!やはり好物は魚なのだろう…。それにしても、全くもって味の想像すらつかない。
けれど、やはりと言うべきか何というか…。幸い塩や醤油、砂糖といった調味料はあるものの、こんなにも食材が違うのでは、王国の料理人としてやっていける自信はなかった。
「……せめて金目鯛があればな……」
「あるぜ~~金目鯛!丁度旬で脂がのったのがよ~!」
「ミューロ!いたのか!」
「王様、あんたこそお忙しいだろうに、厨房にやって来るなんてどうしたんですか?」
ミューロと呼ばれた男は肩まである黒色の髪の毛を無造作に一つで束ねており、良い感じに髭が少し生えている。尻尾と耳はワサワサといった感じに生えており、タバコも咥えているので、野良猫を感じさせる。この世界にもタバコってあったんだな…。
それにしても、何というか…イケオジって感じだ。妙な色気がある。
「ユウに厨房を見せていたんだ。許可も取らずに勝手に見せてしまって、申し訳ないね」
「いや…それは別に構わないが…」
ミューロは、まじまじと俺の方を見る。
「……おめえ、新入りの料理人だな?」
「!!…………いや、料理人じゃないよ。ただ厨房を見せて貰っているだけだよ」
バクバクバク
どうして、俺が料理人だと分かったのだろう。俺もアレンもそんな事は一つも言ってない筈なのに…。
「嘘は言っちゃいけないな~~~。おめえの手は包丁の傷だらけじゃないか、それに指の皮だって厚い。一朝一夕でそうはならない。沢山包丁を使って訓練しないと、そうはならないぜ」
「!!!」
凄い、一瞬にしてそんな事を見極めれるなんて!…この人はきっと優秀な料理人に違いない。
「おめえさんの様な手の持ち主の作った料理には、興味があるな。なんか美味えもん、作ってくれよ」
「でも…………」
そりゃあ作りたい。しかし、味覚が違うかもしれない種族に、堂々と料理を作れる自信は今の俺にはなかった。
「ー…料理人なんだろ?」
ミューロは俺を挑発するような目付きで、こちらをじっと見る。さすがはモフモフ猫族、眼光が鋭い。
「……ー分かりました。金目鯛は何処にありますか?」
俺は腹を括り、一かバチかの賭けに出た。
俺の得意料理、一番練習を重ねた料理、客からも評判が良かった料理、…俺の思いが詰まった料理。
唯一知っている魚が俺の得意料理なのは、こうなる運命だったのかもしれない……。
「金目鯛の煮付けを作ります」
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