第122話 グスタフの意外な真実
ヤンセンが髪を触りながら言った。彼女もわかってたのね。
あまりに高いところから落下したせいで、私とヤンセンの長い髪も完全に逆立ってしまった。これじゃしばらく人前に出られない。
幸い陽が沈んですっかり夜になってたから、その心配はなかった。
「仕方ない、水魔法で濡らすわ。ちょっと待っててね」
「ゆっくりしてる時間はないぞ。それに水魔法って、簡単に言うがどんな魔法だ」
「スコールシャワー!」
「な……これは?」
ヤンセンも唖然として空を見上げた。突然雨が降ってきたらそうなるか。
「随分器用だな」
「ふふ、私だって魔法の修行何年もやってるんだから」
「……大したものだ」
ほんの二、三分だったけど大粒の雨のおかげで髪が濡れて、ほぼ元通りになってくれた。
「さぁて、行くわよ。ウィンディとアンジェラはこの近くにいるはず……」
さっきジャンプしていた間は二人の気配は感じなかった。今なら地面に降りたから、二人の気配はわずかに感じるはず。
そのはずだった。
「……あれ? そんな……」
「どうした? もしかして……」
なんということ。ウィンディとアンジェラの気配をまるで感じない。一体二人ともどこ。
「確かに誰の気配も感じない。この近くで間違いないはずだが」
「いや、待って! いるわ」
「なに? 誰だ!?」
「人じゃない。これは……」
「ガウ!」
聞き覚えのある元気な狼の声だ。巨体はゆっくりと物陰から姿を現した。
「グスタフ! よかった、あなたはいたのね」
「こ、この大きな狼は……」
「ウィンディのお気に入りのペットよ。大丈夫、怖がらなくても……」
「ガルルルルル……」
早速ヤンセンに向けて警戒心を強めた。やっぱり初対面の、しかも相手がヴァンパイアじゃね。
「グスタフ、大丈夫だって。この女の人は味方よ」
優しくおでこを撫でてると、だんだんとグスタフも落ち着いてきた。理解が早くて助かるわ。
「こんな恐ろしい魔物を手なづけるとは、あのエルフもなかなかだな」
「魔物じゃないわよ、失礼ね!」
「ガルルルルル……」
「ほら、変なこと言うからまた怒り出したわ」
「あぁ、全く。すまなかったな。それよりご主人様はどこに行ったんだ?」
「そうね……グスタフがここにいるってことは、ウィンディとアンジェラは間違いなく近くにいるはず。どこに行ったか案内して」
私が聞いてもグスタフはすぐに動こうとしない。それどころか申し訳なさそうな顔をしたまま私の目を見ている。
「どうしたの? なんか……言いたげね」
「全く、こういう時に言葉が喋れれば問題ないんだけどね。だから下等な生き物って言うのは……」
「少し口を慎め、ヴァンパイアの女よ」
「あぁ、悪かったわね……え!?」
私もヤンセンも思わず耳を疑った。私とヤンセンとグスタフ以外に誰もいないのに人の声が聞こえ。今間違いなく喋った気がする。
「あなた……まさか?」
「黙ってて悪かった。私は喋れる、この通り」
なんてこと。間違いなくグスタフが口を開けて喋っている、それもかなり流ちょうに。
「……いつから喋れるように?」
「最初に会った時からだ。私もかなり長寿の身、エルフの種族との生活が長かったのでな、嫌でも言葉は覚えたさ」
「いや、単に長く一緒にいただけで喋れるようになるとは……」
「ふふ、これはエルフによる入れ知恵さ」
「なんですって?」
「エルフというのは、魔物を無理に狩ろうとしない。それどころか少しでも知能や良心の欠片があると見込んだ魔物には、精霊の力を借りて知能を高めようとする習わしがある」
「その通り、よく知っているな」
なるほど。ウィンディも味な真似をしてくれるわね。
「でも、どうして黙ってたのよ?」
「ウィンディから頼まれた。自分の身に危機が迫った時に、最も頼れる人物にしか言葉を喋ってはいけないと」
「ってことは、まさか!?」
グスタフが頷いた。ウィンディの身が危ない。
「ウィンディはどこに行ったの? 気配は感じないけど、あなたなら臭いを探れるでしょ!?」
「……残念だけどそれも無理だ」
「はぁ!? そんなに遠くまで行ったの!?」
「違うな。恐らく彼らは消えたんだろう」
ヤンセンの言葉を聞いてグスタフも頷いた。
「消えたって……そんな……何言い出すのよ?」
「私もよくわからない。だけどあの建物内を捜索すると言い出して一時間も経ったが、一向に二人が戻ってこない。私も念入りに探したんだが……」
「あの建物って……」
「ついて来てくれ」
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