第118話 報復する女戦士

 ヤンセンを入れて四人、やっぱり北に向かって移動しているみたい。


 それにしても奴らはどこへ向かうつもりなのよ。この方角は北西の国境にも向かわない。ペラーザの町の北部には港町がある。


 船に乗るつもりなのか。だとしたらさせないわ。


「あれは……馬車!?」


 小さかったけどなんとか姿を捉えた。フードを被った怪しげな奴が、馬に乗って移動している。


 この気配、さっきも感じた。ジェリドって言うヴァンパイアね。後ろの荷台の中には三人の気配、ヤンセンと残り二人のヴァンパイア。


 ここからなら狙える。早速ヤンセンが持っていた小型の槍を取り出した。


「不意打ちとかあまりしたくないんだけど」


 事前にウィンディから拝借して正解。ジェリドの頭上目掛けて、全力で投下してみた。


 だけどこの程度でやられるような連中じゃない。察知したジェリドは即座に振り向いて槍を剣で弾いた。


 やっぱりやるじゃない。まぁこれで奴らの動きを止められればそれでいい。


「き、貴様は!?」


 ジェリドが地面に着地した私をぎょっとするような顔で眺めた。私がもうここまで来るだなんて、予想外だったでしょうね。


「簡単に逃がすと思って? こっちには秘薬の力があるんだから」

「……なるほど、どうやらお前達を見くびっていたようだ」


 ジェリドも武器を手に持って戦闘の構えを見せた。ヤンセンと同じ槍だろうと思ったら小型の手刀、しかもご丁寧に二刀流。


 でも残念だけどこいつは私の敵じゃないわ。さっきも私達の罠にあっさりハマったところを見ると、絶対下っ端。


 むしろ荷台の中に捕まっているウォックの方が気になる。あいつとはいい勝負になりそう。


「さっきと同じようにはいかんぞ。今度こそ、貴様の息の根を止める」

「あらあら、完全に油断して気を抜いていたのはどこのどいつよ?」

「う、うるさい! さっきとは違って、今は貴様一人だけじゃないか」

「別にあんたなんて私一人で十分よ。かかってきたら?」

「なにぃ……いい気になりおって!」


 ムキになり出した。この男、挑発に乗りやすいタイプね。


 馬から降りて私と対峙した。ヴァンパイアとだけあって背だけは高いわね、でも見掛け倒しもいいところ。


「この俺を怒らせるとどうなるか、身をもって思い知れ!」


 踏み込もうとしたその時、ジェリドはいきなり転倒した。


「うおぉお!?」

「あの槍……まさか?」


 ジェリドがわき腹を抑えていた。血が流れ出している。よく見たら、荷台の側面から見覚えのある槍が飛び出していた。


「ジェリド、あんたの相手は私よ!」

「その声、ヤンセン!?」


 荷台の上部を突き破って勢いよく飛び出したのはヤンセンだ。どうやらやっとお目覚めのようね。


「貴様……なぜこんなことを!?」

「あら、よく言うわ。この私を用済みだと言ったのはどこの誰?」

「……起きていたのか」


 さすがはヤンセン。どうやら奴らの計画も察知していたみたいね。


「ナターシャは手を出すな。この男は、私が始末する」

「始末するだと? それは……こっちのセリフだ!」


 ジェリドは即座に立ち上がり、ヤンセンに向かって攻撃を仕掛けた。ヤンセンも荷台から降りてジェリドの攻撃を受ける。


 ヤンセンは槍で応戦している。金属がぶつかり合う音が勢いよく響く、二人の動きを見る限りどうやら互角のようね。


 だけどこれじゃ駄目じゃない。私はヤンセンを救いに来たんだから。このまま何もしないわけにはいかない。


 ヤンセンには悪いけど、私もやらせてもらうわ。


「はぁあああ……」


 気を溜めだした私に二人とも気が付いてこっちを向いた。


「手を出すなと言っただろうが!」

「そんなの知らないわ。あなたが何を言おうと、私は私のやり方でやらせもらうわ」

「うぅ……貴様まさか!?」


 ジェリドはかなりビビってる。いい勘してるわ。


 今から繰り出す奥義、はっきり言って威力は絶大よ。


「ボルケーノシュート!」


 巨大な火球を形成して、ジェリド目掛けて発射した。


 でもあっさり避けられた。


「馬鹿め、狙いが甘すぎるぞ!」

「残念、動きは読めてるわ」

「な、なにぃ!?」


 避けるのも計算の内、昨日のヴァンパイアと同じく、火球を思念で操作して直撃させた。


 これで火だるま。とは、ならなかった。


「くぅ! これしきのことで!」

「あら? まだ耐えてる」


 体に燃え盛っていた炎も、何やら魔法を詠唱して掻き消した。昨日の格下ヴァンパイアとは違うところを見せつける。


「計算が甘かったな。今度はこちらから……」


 ジェリドの動きが止まった。隙を見ていたヤンセンが、背後から心臓辺りを一突きにした。


「……くそっ」


 捨て台詞を吐いて、ジェリドは倒れた。核を破壊されたのね。ヤンセンならこうするだろうとは思っていたけど、あっさりうまくいくとは。


「さすがヤンセンね。あの一瞬でよくやってくれるわ」

「……邪魔をするなと言ったはずだ」

「怒らないでよ。私はあなたを助けに来たの」

「助けに!? 本気で言ってるのか!?」

「そうよ。げんにあなた、今仲間のジェリドを殺したじゃない」


 ヤンセンは倒れたジェリドを見下ろした。


「……それがどうした? 言っておくが、これはお前達のためじゃない。自分のためだ、自分の……」

「仲間の仇、よね」

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