第115話 宿舎で告げられた衝撃の事実

 警備隊の宿舎か。今いる私達の場所はペラーザの町の南西部、アンジェラが言うにはここからまた中心部に戻って、そこから北へ五キロほど離れた場所にあるという。


 意外と距離があるわね。私とウィンディは詳細な場所を教えてもらい、グスタフに乗って一足先に宿舎へ向かうことにした。


「ちょっと待って。狼に乗っているところを町の人に見られたら騒ぎになるわ。グスタフ!」

「うわわ! ちょっとなにしてんの!?」


 突然グスタフがジャンプして民家の屋根の上に上った。でもこれじゃ余計に目立つと思う。


「大丈夫よ。後はこれで姿を隠せばいいから」

「あぁ、絶理のカーテン。それってミシェルからもらった」

「今日の朝にアンジェラから返してもらったのよ。じゃあグスタフ、宿舎までお願いね」


 グスタフはぴょんぴょんと無駄のない動きで、民家の屋根の上を平気で飛んで移動した。巨体な狼だけど、身のこなしだけは目を見張るものがあるわね。


 あっという間に雑貨屋が見えなくなった。アンジェラとゴアはちゃんと移動を始めたかしら。


「さっきの近衛魔道士達さ、初対面なのにあの態度は何なのよ」


 ウィンディが愚痴をもらした。確かに彼女の言う通り、彼らは挨拶もしなかったわね。


「まぁあまり気にしないことよ。近衛魔道士ってね、あぁいう連中が多いから」

「そうは言っても、自己紹介くらいはしてほしいわね」


 ウィンディはかなり不機嫌のようだ。礼儀やマナーを意外と気にするタイプなのね。


「それにしてもジュドーはいつの間に私達がここにいるってわかったのかしら?」

「あれ? あなたかアンジェラが教えたんじゃないの?」


 ウィンディの疑問に私は聞き返してみたけど、即座にかぶりを振った。


「……教えたとしたらゴアかも? でもゴアも教えていなかったとしたら……」

「襲撃されたあの医療室、ジュドーは負傷兵を避難させるのに手を焼いていて、私達が宮殿をあとにする際も、その作業に追われていたはずよ。その状態でどうやって……」


 ウィンディの話を聞くと、私も疑念が深くなった。確かにおかしいわ。


 なんだか嫌な予感がしてきたけど、突然グスタフが止まった。


「あれ? もう着いたの?」

「そうよ。あの旗が宿舎の目印」


 民家とは思えない広大な屋敷が真下に見えた。盾と交差された剣の模様が描かれた旗が、屋根の上に飾ってある。


 グスタフの移動の速さはさすがね。いや、よく考えたらゆっくりしている暇はない。すぐさま降りて、私は宿舎の庭の上に飛び降りた。


「止まれ! 何者だ!」


 背後から声が聞こえた。どうやら警備をしていた兵士に見つかったみたい。


「ごめんなさい、怪しい者じゃないわ。ナターシャ・ロドリゲスよ。訳あって、ジュドーの私物を借りに来たの。いれてもらえるかしら?」


 険しかった兵士の顔も徐々に緩んできた。


「ナターシャ殿でしたか! 大変失礼しました! 隊長から宮殿に行ったとお伺いしておりましたが」

「……ん? ジュドーから聞いてなかったの? イビル山脈に行くから、応援を要請したんでしょ?」

「え? 隊長がイビル山脈へ行くというんですか!?」

「そうよ。ヴァンパイア軍が再び現れたって聞いたから。なんなら、ジュドーはもう向かってると思うけど、違うの?」

「…………」


 困惑した顔のまま黙り込んだ。なんだか兵士と会話がかみ合わない。もしかして彼はずっとここにいたのかしら。それなら知らないのも無理はないけど。


「ナターシャ殿!」


 今度は聞き覚えのある男の声が聞こえた。でもそんなはずはない。だってここにいないはずじゃ。


「やっぱりナターシャ殿ですか! 一体どうしてここに!?」

「じゅ、ジュドー……?」


 なんでここにいるのよ。イビル山脈に行ったんじゃないの。


「あなた、どうしてここにいるわけ!?」

「おや、ウィンディ殿も一緒でしたか? ご心配なく、宮殿の方はなんとか事態は収まりましたよ。スコット隊長と近衛魔道士達でなんとか対処できそうなので、私は先ほど引き上げたところです」

「そうじゃなくて、もっと大変なことが起きたでしょ!?」

「えぇと……なんの話で?」

「隊長、実は……」


 見張りをしていた兵士がジュドーに近づいて、さっき私が言ったことを伝えた。ジュドーは、まるで信じられないような表情に切り替わった。


「そんな……ヴァンパイア軍が再び現れた!?」

「あなた……もしかして初耳?」


 ジュドーは即座に頷いた。嘘をついているようにも見えない。一体どういうことなの。


「因みにさっきの情報は副隊長のトーマスから聞いたのよ」

「え!? トーマスが!?」


 ジュドーはまた信じられないような顔をした。だけど今度のはさらに目を大きく見開いている。


「トーマスがあなた達のもとまで来たというんですか? いつどこで?」

「ついさっきよ。実はヴァンパイア達の隠れ家を見つけて。帰ろうかとした時にちょうど一個隊を率いてやってきて……」

「そんな馬鹿な! あり得ませんよ!」


 ジュドーが大声で否定した。


「トーマスは今休暇中です。そして国外に旅行に行っているはず……」


 その一言でさっき生まれた疑念が確信に変わった。はめられたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る