第114話 ジュドーのあとを追え!

 その言葉を聞いて私達は全員固まった。恐れていたことが起きた。


「いつ? 数はどのくらい?」

「つい先ほどですよ。数については前回出現した時と同じくらいと言われていますが、詳しい情報についてはまだわかりません」

「現地の国境警備隊がいなくなったから、ジュドーが代わりに偵察に行ったというわけね」


 トーマスが黙って頷いた。


「相手がヴァンパイア、さすがのジュドー隊長も今回ばかりは骨が折れます。あなた方の加勢なしではとても……」

「わかったわ。私達もすぐに向かう。宮殿についてはもう大丈夫なの?」

「幸い先刻の襲撃で新しくけが人は出ませんでした。新手の敵の襲撃もないので、しばらくは大丈夫かと」


 それを聞いたアンジェラが私達に目で合図した。イビル山脈まで行く気のようね。


「でも、奴らはどうするの?」


 ウィンディが倒れていたヴァンパイア達を見て言った。


「ご心配なく。奴らの処置は私達にお任せください」

「ちょっと待って! 仮にも奴らはヴァンパイアよ。あなた達だけじゃ骨が折れると思うわ」

「大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、私達にも強力な魔道士を味方につけていましてね」

「強力な魔道士ですって?」


 トーマスが指を弾いて合図をすると、後ろから紅色のローブを身にまとった魔道士らしき人物がつかつかと寄って来た。彼らの姿、見覚えがある。


「彼らは近衛魔道士です。こんなこともあろうかと、ジュドー隊長がよこしてくれました」

「さすがね。でも……実力はどうなの?」

「ウィンディは知らないかもしれないけど、彼らの実力なら私が保証するわ」


 私が自信ありげに言うと、ウィンディもきょとんとした。ここは珍しく私が知識をひけらかす場面になるわね。


「近衛魔道士の実力は、彼らの首にかかっているペンダントの形状でそれがわかるようになっているの」

「さすがナターシャ殿、よくご存じですね」

「へぇ、それは初耳。じゃあ、彼らの強さはどのくらい?」

「ペンダントが星形になっている。だから五段階中の五、つまり最上位よ」


 ウィンディの彼らを見る目が変わった。これなら少しは安心できそうよね。


「まさかあなたから教えてもらうだなんて思わなかったわ」

「何よ。私だってだてに長年公爵令嬢として……」


 しまった。うっかり自分の正体を晒すところだった。思わず口を閉じて誤魔化した。


「ごほん! えぇと、まぁ宮殿に何度も来たことあるからね。そりゃ当然でしょ!」

「でも彼らがいなくなると、今度は宮殿の警備に支障がこない?」

「その点もご安心ください。彼らなどほんの一部です。宮殿にはまだ何十人もの魔道士がいますから」

「……そう。だったら安心ね」


 今ここにいる近衛魔道士は三人ほど。確かにトーマスの言うように、宮殿には近衛魔道士が五十人以上はいたはず。


 私も公爵令嬢時代には彼らにはよく会った。


 といっても、実際に顔を合わせたことはほぼない。彼らはいつも宮殿の警備や、新魔法の研究などとにかく多忙な生活を送っていたから。


 何人かとは、魔法の実戦訓練に付き合ったこともあるけど、それもたった数回程度。現に今目の前にいる三人は私の顔を見ても知らん顔だ。


「じゃあ、奴らはあなた達に任せるわ。五人もいるから、しっかり頼んだわよ」

「かしこまりました。それではジュドー隊長のこと、何卒よろしくお願いいたします」


 トーマスは敬礼をして、出発する私達を見送った。イビル山脈、シルバニア帝国北西部までかなり距離があるけど、ヴァンパイア軍が再び現れたとなったら急がないと。


「私も忘れてはいけませんよ」

「うわ、ビックリした。ゴア、いつの間に!?」


 雑貨屋の中に入っていたゴアも、私達の背後にいつの間にかいた。ちゃっかり絶理のカーテンを使って透明化していたみたいね。


 今度は軍隊との戦いか。下手したら昨日よりも激戦になるかもしれない。準備は万端にしていかないと。


「イビル山脈までかなりの距離よ。途中休憩は挟むけど、あなた達の移動は……」

「大丈夫です。グスタフ!」

「ガウ!」


 ウィンディの声に応じて、グスタフの元気な声が聞こえた。この子の行動の早さには驚かされるわ。


「そういえばその子がいたわね。じゃあ私とゴアは馬を使って……」

「ちょっと待ってください。その前に寄った方がいい場所があります」

「寄った方がいい場所?」


 ゴアがグスタフに近寄った。そしてグスタフの顔に手を近づけた。


「ぐるるるる……」

「ちょっと、何する気?」

「何もしませんよ。彼の嗅覚の能力を一時的に上げただけです」

「嗅覚ですって? 何のためにそんな?」

「あぁ、そうか! それがいるわね」


 ウィンディも何かに気付いたかのように大声を出した。


「ジュドーの臭いね。そうか、彼の後を追うならそれが必要になる」

「彼は一足先にイビル山脈に向かったはずですから、今の嗅覚だと少し不安です。だから上げたんですよ」

「ありがとう、ゴア。それじゃジュドーの臭いが付着した持ち物を見つけないと」

「ジュドーの持ち物って、それがどこにあるか知ってるの?」


 アンジェラはその問いに笑みを浮かべた。


「警備隊の宿舎よ。そこにいけば山ほどあるから」

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