第113話 警備隊の副隊長
逆に質問された。正確にはゴアがヤンセンの脳内を探って得た情報だから、聞いたとは違うけどまぁだいたい同じよね。
「そうだけど、何が言いたいのよ?」
「はは。簡単なことだ、我々が素直に本当の情報をヤンセンに教えると思うか?」
「なんですって!? ヤンセンはあなた達の仲間でしょうが!」
「仲間か……我々ヴァンパイアには序列というのがあってな。たとえ同胞でも、格下となっては平等の扱いなどまず受けられん」
「序列……ですって?」
「つまり、こういうことですか。ヤンセンはヴァンパイアの中でも下級戦士、下級戦士はいつ人間達に捕まって尋問されるかわからない」
「その通りだよ。だからこそ、本当の情報など教えられないのだ」
なんてこと。こいつらの用心深さをあなどっていた。ヤンセンにも偽りの情報を流していたなんて。
「……してやられましたね。でもあなた方から情報を聞き出せばいいだけのこと」
「おいおい、さっきの話を聞いてなかったのか? 我々ヴァンパイアには序列がある。お前達がどんな情報を聞きたいのか知らないが、真の情報を知るには、俺達のような下っ端を捕まえても意味がない」
「だから、あなたからラーニングするんですよ」
「なに……ラーニング?」
「眠ってもらいましょうか」
ジェリドが眠りに落ちた。やっぱりヤンセンと同じことをするみたいね。
「さすがに彼なら残りの仲間の情報は知ってるでしょ」
「あぁ、結局あまり進展得られなかったわね。また同じことの繰り返しじゃない」
「いや、そうとも限らないわ」
アンジェラがそう言うと、右手を前に差し出した。その右手には青く輝く宝石がのっていた。
「それって……魔宝石!?」
「奴らの仲間も昨日コルガン峡谷で同じものを集めていた。念のため家の中を物色したら、案の定あったわ」
「魔宝石があったなんて。一体彼らの狙いはなに?」
「それについても、やはり彼から情報を抜き出すのが確実ですね」
「……ん? ナターシャ、どうしたの?」
「え? いやぁ、その……」
魔宝石。さっき宮殿でジョージが私に渡してくれた魔剣にも、宝石が埋め込まれていた。ジョージの話を思い出した。
魔王の復活が近づいている。ヴァンパイアの真の狙いはまさか。
「静かに!」
突然アンジェラが口に指をあてて呼びかけた。私も感じた。
「……誰か来るわ」
「そうみたいね。しかも……かなりの数」
「この気配はヴァンパイアじゃない。人間よ」
「私達が様子を見てくる。ゴアは念のため隠れてて」
ゴアを雑貨屋の中に入れさせて、私達は今いる中庭から忍び足で玄関の近くまで来た。
壁にあいた小さな穴から外を覗いた。すると案の定、大勢の人がいる。でも彼らの身なり、誰かに似てる。
「あれは……警備隊?」
「私は警備隊の副隊長のトーマスと申します! アンジェラ殿、ナターシャ殿! 聞こえたら返事をしてください!」
大声で呼びかけたのは若い男性の声、警備隊だけどジュドーじゃない。
「そういえば思い出したわ。ジュドーの右腕のトーマスね、彼がここに来たってことは……」
「アンジェラ殿、ナターシャ殿! 聞こえていますか!? 聞こえたら返事を……」
「聞こえてるわ! 今そっちに行くから、待ってて!」
玄関前に繋がるドアを開けると、そこには背が高い金髪の青年が立っていた。見た目は若いのにジュドーより背が高いせいか、嫌でも凛々しく見える。
警備隊にこんな男がいたなんて知らなかった。いや、そういえばジュドーが言っていた。
いつも隊長と副隊長は別行動を取る。自分が留守の時、あるいは非番の時はトーマスが代理で体調を務めると。
でもジュドーは宮殿にいたから非番ってわけじゃない。どうしてトーマスがここに来たの。
「突然の来訪失礼します。ナターシャ殿とウィンディ殿は初めてでしたね。警備隊副隊長のトーマス・アフレックと申します。以後お見知りおきを」
「トーマス、どうして私達がここにいるってわかったの?」
「そのことですが、実は先ほどジュドー隊長より伝言がありましてね」
「ジュドーから伝言ですって!?」
「はい。あなた方の所在地も隊長より伺いました。ジュドー隊長は緊急の用事ができてしまい、宮殿をあとにしました」
「宮殿をあとにした!? 襲撃があったのに?」
「それほどの非常事態が起きてしまったのです」
トーマスの顔が一気に険しくなった。
「……イビル山脈、ヴァンパイア軍が再び現れたとの報告がございましてね」
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