第112話 風魔法のトラップ!

 ウォックが踏み込んできた。でも即座に動きを止めた。何かに気付いたかのように、周りをキョロキョロ見回している。

 

「どうしたの? かかってこないの?」

「……貴様、何をした?」

「何のこと言ってるのかわからないわ。いいから、かかってきたらどうなの?」


 やっぱりこの男、かなりできるようね。下にいた時も私達の罠にいち早く気づいた。


 実はこの男の周囲には、ウィンディがあらかじめ風魔法の罠を仕掛けていた。多分僅かな空気の乱れを感じたのね。


 でももう遅いわ。


「ぐわぁあ!!」


 ウォックの体が宙を舞いだした。体の周囲を風が自由自在に舞って、ウォックを捕縛しているのが見える。うまく行ったみたいね。


「大気よ集いし、縄と化し捕縛せしめん。パラライズ!」

「ぐおおおおおお!!」


 ウォックの体が真っ白に光る縄で縛られた。それにしてもなんて強力な魔法。


 やっぱりウィンディもただならぬ風魔法の使い手、恐らく普通に戦ったら強敵になりそうなヴァンパイアも、いとも簡単に捕縛するだなんて。


「あぁ、でも。私の出る幕なかったわね」

「たまには私にも活躍させて。ここなら風の精霊の力も集まりやすいから」

「うまく行ったみたいですね」


 ゴアの声がしたから振り向くと、ゴアと一緒にアンジェラもいた。さっき下で串さしにしたもう一人のヴァンパイアの仲間も連れている。


「これで二人、いや三人……捕縛しました」


 ゴアの用意した複製人形で複製されていたジェリドという名前のヴァンパイアも捕縛していた。


 私達が今いる場所、ここはクーラが情報を漏らした雑貨屋、ペラーザの町のヴァンパイアの隠れ拠点となっている。事前に外をうろついていたジェリドというヴァンパイアの外見も、ゴアが把握していた。


 複製人形を使いジェリドに化けさせ、残り二人のヴァンパイアも罠にはめた。作戦通りね。


「さて、あと残った仲間は……」

「残りは八人ほどいるようです。でも今は別の場所にいるみたいですね」

「八人も!? 全く、これだけの数隠れていて、今まで気づかなかったなんてね」

「ヴァンパイアは隠密行動については、人間より長けていますよ」

「なるほど……じゃあ残り八人の居場所は」

「この三人の誰かから聞くしかないわね。ゴア、頼める?」

「お任せください」


 本当は今すぐにでも事情聴取したいところだけど、まずは彼らの呪いを解いてあげないとね。


 気絶していたジェリドの胸部に向けて、ゴアは杖の脚部の尖った先端を突き刺した。


 見るからに痛そうだけど、こうでもしないと黒紋に直接魔法の効果が作用しないという。またさっきと同じ意味不明な詠唱の言葉を唱え始めた。


 ジェリドの胸から黒い翼の模様が消え始めた。同時に目を覚ました。


「うっ!? ここは……はっ! お前らは?」

「いいタイミングでお目覚めね。あなたには聞きたいことが山ほどあるわ」

「お前はギルドマスターのアンジェラ!? それにエルフまで……どうして?」

「あなた方の隠れ家の居場所は、すでに彼女達から聞いたんですよ」


 ゴアが眠っていたヤンセンを杖で差しながら言った。


「……裏切者め! だが……なぜ変異していない!?」

「疑問に思うのも仕方ないけれど、もうあなた達の黒紋の呪いは解けるのよ。ゴアのおかげで」

「なんだと……貴様、何者だ!?」

「あなた方ヴァンパイアが恐れる存在、とでも言っておきましょうか」


 ゴアも随分大きく出たわね。だけどジェリドは動揺していない。


「……なるほど、そういうことか」

「あら、何がおかしいのよ?」

「いや……我々の情報収集能力も侮らないことだ」


 よくわからないことをほざき出した。一体何考えてるの。


「まぁいいわ。あなたには聞きたいことがたくさんあるの。まずはペラーザの町に潜伏している残りの仲間の居場所を教えなさい」


 アンジェラが怖い顔で見下ろしながら尋問を始める。ジェリドだって彼女の強さをわかるはず、なのになぜか余裕の表情のままだ。


「残りの仲間? なんのことを言ってるのやら……」

「とぼけても無駄よ。ヤンセンの脳内から、このペラーザの町にはあなた達を含め11人のヴァンパイアがいることがわかった」

「だから残り8人の居場所を知りたいの。今すぐ教えなさい」

「……ふふ、それはヤンセンから聞いたのか?」

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