第111話 奇襲攻撃!

 ドンドンドン!


 突然ドアをノックする音が聞こえ、二人が振り返る。


「誰だ!?」

「ヴェクタ・ウォンゾ・ヒッチレクセ・ビアヌサ」


 ドアから聞こえたのは、ヴァンパイアにしか理解できない古代の言葉。仲間同士で定めた合言葉だ。ルードがすぐにドアを開けると、息を切らした仲間のヴァンパイアがいた。


「ジェリドか。一体どうしたんだ?」

「はぁ、はぁ……緊急事態だ」


ジェリドが動揺を隠せない顔で言った。そして自分が目撃した内容について、一部始終を話した。


「……まさか王都の宮殿まで行っていたとは」

「クーラが変異したということは、我々のことを喋ったな。くそ! だから格下のヴァンパイアは嫌なんだよ!」

「それで……ヤンセンとミシェルはどうなった?」


 ジェリドは黙ったまま手だけを動かし、自分について来るよう促した。


 三人とも雑貨屋の裏口のドアから外に出た。そこにはすでにヤンセンとミシェルが眠ったまま縛られていた。


「クーラだけはどうしようもなかった。救えたのはこの二人だけだ」

「よくやった。だがこの二人をこのままこの町にいさせるのはまずいな。すでに人間どもに知られた」

「……メリッサ様へ合わせる顔がないぞ」

「失敗したのは我々のせいではない。ウォック、メリッサ様かギスカ様へ報告する準備を」

「いや、待て! その前にするべきことがある」

「するべきことだと?」

「……お前は偽物だ!」


 突如ウォックは小型の槍を懐から取り出し、そのままジェリドの胴体を斬り裂いた。


「おい、ウォック! 何を馬鹿なことを!?」

「馬鹿なのはお前の方だ、ルード! よく見ろ!」

「え!? あ、これは!?」


 斬り裂かれたジェリドの体を見下ろすと、そこにはジェリドは影も形もない。あるのはただの木製人形だ。


「ふ、複製人形だと!? ……ってことは、まさか」

「すでに俺達のアジトを知っていた。これは罠だ!」


 ウォックはそれだけ言ってすぐさま屋根の上にまでジャンプした。ルードも敵の気配に気づき、すぐにジャンプしようとした。


 しかし一歩遅かった。


「うぐぅ!?」

「ルードぉおおおお!」


 ルードは背後から迫っていた何者かに剣で腹部を刺された。


 事前に気配を察知していたウォックだけは、難を逃れた。だが彼の前に、最も凶悪な敵が登場した。


「お、お前は……!?」

「あれ、私のことを知ってるの?」

「知ってるも何も……昨日死んだビリーの仇だ」

「昨日私と戦ったヴァンパイアね。彼を殺したのはアリエスっていうヴァンパイアよ、私じゃないわ」

「そんなことは関係ない! お前さえ現れなければ……弟は!」



 いきなり因縁つけられたみたいね。まさか昨日コルガン峡谷で戦った格下のヴァンパイアの兄弟と会うだなんて。


「ここで貴様の息の根を止めてやる。言っておくが俺はビリーとは格が違うぞ」

「随分と自信があるみたいね。いいわ、かかってきなさい!」


 強気な口調で槍を持って右手で構えた。確かにこの男から感じる気の量、並々ならない。


 恐らくはヤンセン以上のやり手、だったらやり甲斐がありそう。


 あ、でも駄目だった。この男は罠にかけて捕縛しないといけない。となれば、もっと時間稼がないと。


「ねぇ、あなたにも黒紋の呪いがあるんでしょ?」

「それがどうした? 言っておくが、ヴァンパイアだけじゃない。人間どもにもこの呪いはかけられるぞ、貴様も同じ目に遭わせてやる!」

「……無駄なんだよねぇ、私にはさ。だってその黒紋、すでに解呪できちゃうもん」

「解呪……だと!?」


 ウォックが嫌でも興味を示した。よしよし、うまくいったわ。


「下で捕えていたヤンセンっていうヴァンパイアがいたでしょ? 彼女の黒紋は私達が解いたのよ」

「ヤンセンの黒紋を!? 馬鹿げたことを言うな! あの呪いは人間どもに解けたりしない」

「解けちゃうのよ。だってさ、この言葉で……」


 事前にゴアから言われた詠唱の言葉を思い出した。


「アーメスト・フォッテルラ・ルルガンディ・オソーデパールザ……」

「な、なに!?」

「ゼネ・コーケンセン・ルルガンディ……どうよ?」


 駄目だ、これ以上は思い出せない。でもウォックの顔は動揺を隠せていない。


「馬鹿な! なぜお前ごときが、古代の詠唱の言葉を!?」

「今の言葉、ある魔道士から教わったのよ。その魔道士の力を借りれば、黒紋の呪いも解けるわけ。さぁ、どうする?」

「……ふふ、ならばなおのこと貴様を倒して、その魔道士の居場所を吐かせるまでだ」


 やばい、逆効果だったかも。いや、でも遠くにいたウィンディが目で合図した。準備万端よ。


「そう、残念ね。ならもう好きにしなさい」

「ふふ、観念したようだな。では遠慮なく行かせてもらう」

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