第106話 奇跡の復活!?

 襲撃された医療室は現在も騒然としていた。急遽応援を呼んだスコットは、室内にいる負傷兵を全て避難させることに専念していた。


「くそ、もっと人手がいれば」

「あと何人くらいいます?」

「十人くらいか。それにしても、本当にあの女性一人で行かせて大丈夫なのか?」

「彼女なら大丈夫です。精鋭部隊百人で挑むよりよっぽど強力です」


 ジュドーの言葉はにわかには信じがたいものがあった。しかし同じ医療室には平然と残っていた彼女の仲間が二人もいた。


「なるほど……相当信頼されているんだな。だけどあの女性、どこかで会ったような……」

「それは……気のせいでしょう」


 しかしウィンディとアンジェラが残った理由はほかにもある。襲撃したヴァンパイアの数は正確にはわからない。いくらナターシャとはいえ、一人で多数のヴァンパイアを相手にするのは困難だ。


 別の仲間はまたここを襲撃する可能性もある。負傷兵も大勢いる以上、迂闊にここを離れるわけにはいかない。それがアンジェラの下した決断だ。


「アンジェラさん、ありがとうございます。あなたの冷静な判断がなければ私速攻で彼女のもとへ行っていました」

「いいのよ。それよりも油断しないで。敵はどこから襲ってくるかわからないから。気を集中して!」

「はい」


 アンジェラに言われなくても十分わかっていた。ウィンディは飛んで来る虫の動きすら逃さないほど気を集中し、弓を構えた。


 彼女には自責の念があった。自分がもっと気配の探知を怠っていなければ、こうはならなかった。現にナターシャは事前に何かを感じていた。


 その後悔が再び彼女の集中を阻害する。それを察知したかのように、アンジェラが肩を叩いた。


「過ぎたことを気にしてもしょうがないわ」

「アンジェラさん?」

「私だって同じ気持ちよ。だけどくよくよ後悔しては駄目、大事なのは同じ過ちを繰り返さないこと。そして……」

「……ごほっ……」


 背後から誰かが咳きこむのを聞いて、咄嗟に振り向いた。あり得ないことが起きて二人とも呆然とした。


「嘘……ゴアが!?」

「生きてるの!?」

「……うぅ……ごふぅ……」

「ゴア!」


 咄嗟に倒れていたゴアのそばに駆け寄り、彼の体を触る。間違いなく体は動いていた。


「生きてる……信じられない! ゴア!」

「いやぁ……皆様。ご心配をおかけしました」

「まさか……心臓を直撃したはずなのに、どうして?」

「気にしても仕方ありません。とにかく急いで治療をするから、喋っちゃ駄目よ!」

「その必要はありません。これくらい、自己治癒できます」

「何言ってんの!? 出血がひどすぎるから、これ以上無茶しないで! とにかくまずはこの槍を……」


 バタン!


 突然部屋の入口のドアが開く音が聞こえた。そこに髪の長く仮面を被った背の高い女性が、色白の肌をした不気味な女性の腕を掴んで立っていた。


「ナターシャ殿か。驚かさないでくださいよ」

「遅くなってごめんなさい。ちょっとアクシデントがあってね、でも大事な参考人は連れてきたわ」



 治療室の中は緊張感で高まっていた。まだ負傷した兵士は残っていたけど、どうやら全員無事みたいね。


 いや、全員じゃなかった。ウィンディとアンジェラが倒れていたゴアの隣に立っていた。やっぱり彼は。


「……あれ? もしかして」


 もしかして。いや、そんなはずは。淡い期待を抱いて、そっと近づいた。


「ゴア……あなたもしかして?」

「お帰りなさい、ナターシャ殿。待ってましたよ」


 嘘みたい。信じられないけど、確かにゴアが喋っている。槍は突き刺さったままで出血もひどいけど、元気に手も動かしているじゃない。


「なんとか息を吹き返したの。でも……見ての通り瀕死であることに変わりはないから」

「今すぐ治療をするわ。ナターシャ、悪いけどその女の事情聴取は後回しよ」

「馬鹿な……あり得ない!」


 隣にいたヤンセンも驚きの反応を隠せない。槍で突き刺した張本人なだけに、手ごたえは間違いなくあるはず。


「なぜ生きている!? お前は……一体!?」

「こうでもしないと、あなたの呪いは解けませんよ」

「なんだと? 一体何が言いたいんだ?」

「もう! 喋っちゃ駄目って言ってるでしょ! お願いだから、じっとしてて!」

「大丈夫よ。彼を信じて」

「アンジェラさんまで何を言ってるんですか!?」

「私にはわかる。今はっきりと察した。多分彼の狙いは……」

「その通り、さすがはギルドマスターですね」

「わかるように言ってよ。一体ゴアは何がしたいの?」

「そのヴァンパイアにもアレがあるんでしょ?」

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