第104話 尋問開始

 呆気にとられていたのを逃さず、私は即座に彼女の両腕を掴んだ。


「何のつもりだ貴様?」

「これから尋問タイムよ。私が出す質問に正直に答えなさい。答えないとこの両腕がどうなるか……わかる?」


 ヤンセンの両腕はびくともしない。私が掴んだ両手の怪力の凄さを少しは感じたのか、表情がこわばった。


「……ふふ、その程度で私を拷問するつもりか? 笑わせるな。ヴァンパイアの再生能力をなめるんじゃない」

「あらそう。なんなら、何本でも骨を折っていいのよね?」

「な、なに?」

「じゃあ手始めに一本目」


 力を加え、ゴキッという鈍い音を鳴らせた。


「ぐぅうう!?」

「痛い? でもヴァンパイアなら平気でしょ?」

「く……そうだ、これくらいなら……平気だ」


 嘘を言っている。恐らく相当痛いはずよ、汗がにじみ出ているじゃない。


「これ以上折られたくないなら、ちゃんと質問に正直に答えなさい。まず聞きたいのは……」


 でも邪魔が入ったみたい。右後方から飛んできた小型の矢、即座に私の右足で蹴とばした。


「ヤンセン! くそ、俺の矢が……」

「やっぱりもう一人が狙ってたのね。お見通しよ」


 さっき私が尾行していたもう一人のヴァンパイアだ。ミシェルの救出は諦めたのか、屋根の上に出て完全に私を狙いに定めている。


 だけどあの男の気配はバレバレだ。ヤンセンと違って、恐らく格下のヴァンパイアね。


「クーラ! ミシェルを救えと言っただろ! 私のことなどかまうな!」

「かまうなと言われてもな、どう見ても苦戦しているじゃないか」

「苦戦などしていない。とにかく私のことはいいから、早くミシェルを」


 いいこと思いついた。この女は気が強い。あと忠誠心も高そう、そう簡単に答えるとは思えない。ならば。


「ぐがぁあああああ!!」

「ヤンセン! 貴様、何をした!?」

「何をしたと思う!?」


 私はいびつに折れ曲がった彼女の両腕を男に見せびらかした。


「ぐ……これ以上はやめろ! 貴様を殺すぞ!」

「随分強気ね。さっきあっさり弾かれたくせに」


 私は弾き飛ばした矢を見下ろしながら言った。男は動揺を隠せない。


「……お前の強さは十分わかった。ヤンセンをこれ以上傷つけるな」

「わかってるなら、私がこれから出す質問に答えなさい」


 男は黙って頷いた。


「……クーラ。この女の言うことなど……聞くな!」

「うるさいわね」

「ぐがぁあ!」


 今度は右脚の強烈な蹴りを彼女の左脚のふくろはぎに叩きつけた。


「脚の骨も折られたくないでしょ?」


 今の一撃がかなり効いたのか、ヤンセンはぐったりと項垂れた。


 並の人間ならとっくに気絶してもおかしくない。でもヤンセンはゴアを殺した。これくらいの報復は当然よ。


「やめろ! 喋るから、それ以上はやめてくれ!」

「それじゃ聞くけど、あなた達以外に仲間は?」


 クーラと呼ばれた男は即座にかぶりを振った。


「いない。俺とヤンセンだけだ、これだけは確かだ」

「この宮殿に来たのはあなた達だけでしょうけど、ペラーザの町に潜伏しているヴァンパイアは何人くらい?」

「そ、それは……」

「答えないなら……」


 再び彼女の両腕を持ち上げた。


「やめろ! 俺達以外で町に潜伏しているのは、ざっと十人くらいだ」

「十人くらいって、随分大雑把な答え方ね」

「正確な数はわからない。俺は正直下っ端だからな。だが十人以上はいる、これだけは確かだ」


 まぁそのくらいの数がわかればいいか。とりあえず一歩前進。


 ゴアがいない以上、こいつらから情報を絞り出すしかないけどあまり時間もかけられない。聞く内容は精査しないと。


「じゃあ次の質問。ゼイオス・ラグランジュが今どこにいるのか教えて」


 その言葉を聞いて、クーラはぎょっとした。やはりこの男も知ってるわね。


「……今なんて?」

「ゼイオス・ラグランジュよ。言わずと知れたダークエルフの王、あなた達ヴァンパイアだって知ってるでしょ?」

「……そいつが一体どうしたというんだ?」

「簡単よ、ゼイオスが今どこにいるのか知りたいの。あなた達ヴァンパイアが知らないわけないでしょ」

「……魔空庭園だ」

「嘘!」


 私はきっぱり言い切った。


「私達も知ってるのよ。襲撃された国境警備隊の生き残りが証言したの。魔空庭園から巨大な魔力の放出とともに、何かが飛び立ったってね」

「……そいつがゼイオスだと言いたいのか?」

「えぇ、そうよ。あなた達ヴァンパイアは彼を魔空庭園から引き離した。そうじゃなくて?」


 クーラはすっかり黙り込んだ。何も言い返せない様子を見ると、どうやら図星みたいね。


「つまり今ゼイオスは魔空庭園にはいない。奴はどこに行ったの? そして何でそんなことをしたのか、本当の狙いは何?」

「それは……」


 もう一回ヤンセンの両腕を持ち上げて見せつけた。


「やめろ! というかそんなことは俺達でも知らない」

「まだそんなこと言うの? こいつの両腕どうなってもいいってわけ?」

「そうじゃない! 俺は下っ端だから大まかな情報しか知らないんだ。詳細な情報については、別の仲間に聞くしかない」

「じゃあ、その仲間の居所と名前を教えなさい。今すぐに!」

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