第103話 二刀流は通用しない!
女は笑いながらもう一本小型の槍を手に持った。昨日戦ったアリエスといい、ヴァンパイアは槍が得意武器みたいね。
「私の名前はヤンセン。あなたを地獄へ導く水先案内人よ」
「へぇ、それは随分損な仕事を任されたわね」
「損じゃないわ。現に魔道士はあっさり死んだ、あなただって私の投げ槍にはかなわない」
ヤンセンはさらに目を赤く光らせた。魔力の高まりを嫌でも感じる。直後、とんでもない現象が起きた。
「嘘……槍が!?」
「あはは! これだけの数避けられる?」
ヤンセンの背中から無数の槍が飛び出してきた。とても数えられない。そして一斉に投げられたら、さすがにきつい。
いや、待てよ。私は肝心なことを忘れていた。昨日戦ったアリエスと同じパターンじゃないの。
ヤンセンが持っている槍も同じファントムスピアね。ならばその対策はもう大丈夫。
「ビッグトルネード!」
「なに……貴様!?」
魔法で私の周囲に大竜巻を起こした。いちいち本物の槍を目で追うのは面倒、ならば風魔法で探した方が手っ取り早い。
案の定、ほとんどの槍が風魔法でも微動だにしていないけど、本物の槍はこの竜巻の風圧で吹き飛ばされた。
「はぁあ!」
吹き飛ばされた本物の槍をライトニングバレットで弾き飛ばした。呆気なく3本とも砕け散って地面に落ちた。
それと同時に無数の槍も消えた。ヤンセンは口を開けたまま呆然としている。
「そんな……私の奥義がなぜ?」
「ファントムスピアなんて、もう私に効かないわよ」
「なに? どうしてこの槍のことを!?」
「あらら……私のことをなめすぎじゃないかしら。子供だましもいいところ」
動揺していたけど、気を取り直したのかまたも槍を取り出した。しかも両手に一本ずつ持っている。
「無駄だって言ってるでしょ。懲りない女ね」
「さっきと同じだと思うな」
何を思ったのか、両手に一本ずつ持っていた槍の柄の部分を逆向きにしてくっつけた。するとそのまま一体化して、一つの武器になった。
「ふふふ、これが私の奥の手、ダブルランサーよ」
「それが奥の手? ただ二つの槍をくっつけただけじゃない」
「一本だけならそう言えるかもね」
「なんですって?」
なんとヤンセンはまた二本の槍を取り出した。そのまま彼女の頭上に浮かんだ二本の槍は、さっきと同じように逆向きになってくっついた。
二刀流になった。しかもそれぞれ二本の槍だったから、実質四刀流とも言える。
「どう? これでも強がっていられるかしら?」
「随分手の込んだことするじゃない。いいわ、受けて立とうじゃない」
「その自信もすぐになくしてあげるわ」
凄まじい速度で踏み込んできた。この動き、そして魔力の高さからして、昨日戦ったアリエスと同じくらいの実力かも。
ならば十分勝てる相手よ。
「たぁああああ!!」
早速斬りかかって来たか。予想通りの動きと速さ、二刀流だけど武器の扱い方に洗練さは見られない。
「どこ狙ってるのよ?」
何度も真剣に狙っているようだけど、私にはかすりもしない。これで本気なら、もはや私の敵じゃないわ。
ヤンセンも徐々に苦悶の表情になってきた。あせってるのが嫌でもわかる。しばらく攻撃していたけど、動きを止め私と間合いをとった。
「なぜ……当たらない?」
「簡単よ。あなたは武器の多さに頼っているだけ」
「なんですって?」
「二刀流の戦士にありがちな欠点よ。武器の数を増やせば狙いをつけやすくなると勘違いしている、あなたもそのパターン。肝心なのはいかに相手の動きをしっかりと正確に読むかなの。あなたにはそれができていないわ。ただ単に振り回しているだけ」
「い、言わせておけば……私はヴァンパイアよ。人間と一緒にするな!」
「ちゃんと相手の動きを読んで狙いをつければ、片手で剣一本持ってれば十分よ。なんなら証明してやろうか?」
私は鞘から剣を抜いて右手一本で持って構えた。
「そんな貧弱な剣一本で、私の攻撃を受け止めるつもり?」
「そうよ。いいからかかってきなさい。一瞬で終わらせるから」
「それは……こっちのセリフよ!」
ヤンセンもさすがに頭に来たのか、目を真っ赤に光らせて一瞬で私の目の前まで踏み込んできた。
だけど馬鹿正直に真正面からは攻めてこなかった。
「もらった!」
「残念」
「なに!?」
ヤンセンの動きは完全に読めていた。背後に一瞬で回り込んで斬りかかろうとしていたのを、逃さない。
彼女の両手に持っていたダブルランサーは、私の剣一本で難なく弾き飛ばした。
「ね? 一本だけで十分でしょ」
「そんな……馬鹿な」
「悪いけど、がっかりさせている暇はないの」
「なんだと……うっ!?」
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