第102話 襲撃者と遭遇

 目を開けると、目の前には信じたくもない光景が広がっていた。でも今は悲しむ暇などない。


「ゴア、返事をして!」

「これは……なんという……」

「敵襲だ! 全員隠れていろ!」

「ここは負傷兵だらけだ。大至急応援を呼べ!」


 一瞬の出来事だった。ミシェルの脳内を探って得られた内容を話そうとした矢先、ゴアは一瞬で壁に叩きつけられた。


 ウィンディがゴアに駆け付けて揺さぶっても返事をしない。突き刺さった位置から考えて、心臓を一突きだ。ウィンディは首を振った。


「……そんな……こんなことって……」


 彼を壁に叩きつけ串さしにしたのは長い槍だ。見たことある槍、間違いなく昨日私がコルガン峡谷で戦ったあのマリエスが持っていたのと同型だ。


 となれば、敵の正体はもう奴らしかいない。


「あそこの尖塔よ!」

「ナターシャ!」


 刺さった槍の角度からして、敵の位置の見当はついた。背後にある割れた窓から遠くを眺めたら、さっきも見た尖塔があった。


「あそこは見張り塔だ。なんてことだ、すでに敵が侵入していたなんて……」

「今は悔やんでいる暇はないわ。とにかく奴らを……」


 アンジェラの声を最後まで聞く前に、私は咄嗟に窓から飛び出していた。


 さっき一瞬だけど尖塔から人影が降り立ったのを見た。間違いなくあそこに闖入者がいるわ。


 それにしても本来警備が厳重な王宮内部にまで侵入されるだなんて。警備をしていた兵士にはあとできつく言っておかないと。


 などと考えながら走ってたらすぐに尖塔の前まで来た。案の定、入口には気絶していた兵士達が横たわっていた。


 本当ならすぐに起こしてあげたいけど、今はそんな暇はないの。ごめんなさい。


「……やっぱり間違いない。ここにいた」


 すぐに異変に気付いた。奴ら、気配は押し殺していたみたいだけど、肝心な対策だけはできなかったようね。


 倒れていた兵士達から独特な香水の臭いがする。今まで嗅いだこともない香水ね。


 この香水からして、犯人は女のヴァンパイア。私は頭の中で名前が浮かんだ。


「メリッサがここに!?」


 そうだ。よく考えたらミシェルをここまで連れてきたんだ。彼女はメリッサの妹だから救出に来たってわけね。


 そう考えれば納得がいく。でもわざわざそっちから忍び込んでくるだなんて、探す手間が省けたわ。


「……どこにいる?」


 闇雲に探しても見つからない。敵は気配を押し殺して隠れているに違いない。


 さっきゴアが襲撃される前に一瞬だけ感じたあの殺気、ほんの僅かだけどそれと全く同じ気を探る。


「気配探知!」


 目を閉じて気を集中させた。私の気配探知スキルは、どんな僅かな気だって逃しはしない。たとえネズミ一匹だろうとね。


「……いた!」


 10時の方向に約50メートル、さっきと同じ気配を感じる。屋外にある長い廊下を一直線に進んでいるみたい。


 今度こそ逃さない。一度気配を捉えてしまえばこっちのものよ。すぐさま宮殿内に入って追いかけないと。


「いや……もっといい方法があるじゃない」


 よく考えたら馬鹿正直に追いかけることないじゃない。宮殿に入るのをやめて、屋根に上ることにした。


 長い廊下が続いている建物の屋根、これなら敵に気付かれない。


 でも油断しちゃ駄目、敵だって慎重に気配を探っているはず。急ぎたいけどそれだと気づかれるわ。


 焦らず、でも急いで慎重に。幸い屋根の起伏も少ないから移動しやすいわ。


 敵の移動の向きが変わった。よく見たら、廊下が突き当りに差し掛かった。敵はそこを左に動いた。


「……この方角はやっぱり」


 敵の狙いがわかった。突き当りを左に行けば、ミシェルが監禁されている地下牢に辿り着ける。


 やっぱり彼女の救出が狙いね。でもさせないわ。


 地下への階段がある場所まで、なんとか先回しないと。少しだけ速度を上げて移動した。


 だけどそうはいかなかった。


「これは!?」


 左後方から小型の槍が高速で飛んできた。難なく手で掴んだのはいいけど、私としたことが完全に前の奴に気を取られていた。


 敵は二体いたのか。別の奴は遠くから私を狙っていたのね。


「今のを捉えるだなんて、さすがね」

「誰なの? 出てきなさい!」

「ふふ、久しぶりに骨のある人間に出会えた」


 笑いながら屋根の上に出てきたのは髪の長い女、肌は色白い、そして耳も尖っている。瞳の色も気持ちの悪い薄赤色だ。


 間違いなくヴァンパイアね。でも昨日会ったメリッサとは違う。


「ゴアを殺したのもあなたね!?」

「その通りよ。それがわかっているなら、私がどれだけ恐ろしい女かもわかるでしょ?」

「別にあなたなんか恐くないわ。それより話してもらおうじゃない、ここに来た目的を」

「あはは。私が正直に話すと思う?」

「話す気がないなら、力づくでもそうさせるわ」

「随分と自信があるようね」

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