第101話 忍び寄る侵入者の魔の手
私の言葉を聞いて全員固まった。
「その飛び立った奴って、頭に角とか生えてなかった?」
「角? いや、さすがに距離があり過ぎたからそこまでは」
「ダークエルフの王みずから出撃したってこと? でも一体何のために?」
「わからないことだらけですね。撤退したのも妙ですが、その後に魔空庭園からゼイオスらしき奴が飛び立ったっていうのもしっくりこない」
「俺が報告できるのはここまでです。あとはさっき話した通りです」
「ちょっと待って!」
アンジェラが突然何かに気付いたかのように声を出した。
「召喚した女ヴァンパイアが出現したのは、その後で間違いないのよね?」
「そうですけど……何かわかったんですか?」
アンジェラの目つきがさらに険しさを増した。
「なによ? 何かに気付いたみたいな顔してさ」
「急いで魔空庭園に向かった方がいいかもしれない」
「はぁ? 何言い出すのよ!?」
アンジェラの言葉を聞いて、みんな唖然とした。
「あそこはダークエルフの住処ですよ。ヴァンパイアと戦うなら、コルガン峡谷を超えた先にある奴らの国に行かないと……」
「突然撤退をしたヴァンパイアの軍、そして魔空庭園から飛び立ったゼイオスらしき男、この二つの事象がもし偶然じゃなかったら」
「何が言いたいの?」
「……まさか!?」
今度はウィンディが声を上げた。
「メリッサは人間達を襲うためにあそこに現れたんじゃないの」
「どういうことですか、それは!?」
「陽動ということですね」
ゴアが発言した。
「陽動……そうか、そういうことだったのか!」
「ってことは、撤退をしたのは……」
「多分、ゼイオスをあそこから離すためよ。もしヴァンパイアが魔空庭園を制圧するとしたら」
「ゼイオスがいない時を狙う。奴らは最初からそれが狙いよ」
「そんな、ゼイオスだってダークエルフの王じゃない。自分の居城を留守にするだなんて、そんな馬鹿なことしないでしょ」
「そうとも限りませんよ」
またゴアが発言した。私達全員ゴアの方を向いた。
「そういえば忘れてたわね。あなただけが知っている情報があるってことを」
「はい。ようやく発言の機会が回ってきましたね」
ゴアはつかつかと前に歩み出した。
「馬車の中で話していたことは本当なんですか?」
「本当よ。彼はボルトネア島の魔道士、彼の能力でミシェルの脳内は探れた」
「はい。大丈夫です、これから包みなくお話しますよ」
いよいよ彼だけが知っている事実が明るみに出される。
一体どんな内容かしら。緊張が高まったその時だ。
私はふと後ろを見た。窓の外、向こう側に高い尖塔が見えた。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもないわ」
とんでもない殺気を一瞬だけ感じた気がする。気のせいならいいんだけど。
*
ナターシャ達がいる王宮の医療室から、南に約二百メートルほど離れた場所に尖塔がある。
その尖塔の見張りの兵士を眠らせ、一回の北側の部屋に侵入した二人の男女がいた。彼らはペラーザの町で馬車に乗ったナターシャ達を尾行していた。
「……全くヒヤヒヤさせないでよ」
「すまねぇ。久しぶりに高いところに上ったからな。足元がふらついてた」
男がうっかり本棚を倒しそうになったところを、すんでのところで手で抑えた。
男の手のひらがすっかり汗で濡れていた。緊張を隠しきれていない様子を見て、女はため息をはいた。
「そんなザマだと、この先不安ね」
「おい、だからと言って俺を置いてくなよ」
「わかってるわよ。それより、しっかり気配を殺して」
「あぁ……それにしてもまさか王宮まで着くとはな」
「ここからはっきり見えるわ。奴ら全員あの部屋の中にいるみたい」
女と一緒に男も窓の外を見た。【遠視】のスキルで、遥か前方に小さいが確かに背の高い女性と仮面を被った魔道士の姿、エルフ、ギルドマスター、警備隊の隊長の姿を確認した。
「……屋根に出るわ」
「しくじるなよ、ヤンセン」
「言われなくても。あなたこそミシェルのこと、頼んだわよ」
男が頷いたのを見てヤンセンは部屋を出た。
階段を上り最上階の部屋に入ると、そのまま天井付近にあった窓のそばへジャンプした。窓を開け、尖った屋根の中央付近まで移動し、懐にしまっていた槍を出した。
鋭く尖った槍の矛先を見つめる。今まで仕留められなかった獲物はいない。彼女は深呼吸し狙いを定めた。
「わざわざ狙いやすい場所に立ってくれるとはね。感謝するわ、魔道士さん」
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