第99話 生き残りの証言
「よくお越しいただきました、皆様」
「紹介します。親衛隊隊長のスコット・アンダーソンです」
王宮に着いた私達を迎えてくれたのは、多数の兵士達だ。彼らは王宮に仕える親衛隊、国王陛下直属のエリート部隊だ。
公爵令嬢時代によく来た記憶もあるから覚えている。だけどそうなると厄介なことが起きる、私は事前にある対策をした。
「スコット・アンダーソンです。ギルドマスターのアンジェラ殿ですね、あなたのご活躍はよく耳にしております」
「こちらこそよろしく」
スコットは深くお礼をしながら、アンジェラと握手を交わした。騎士団長とはいっても、周りにいる兵士達と身長は同じくらいだ。
だけど気品に満ち溢れた態度と、背筋を張った堂々とした態度、強面な顔で年齢的には30代後半と言った感じ。
この男も何度も公爵令嬢時代に会ったことがある。金色の短髪という髪型はその頃から変わってないわ。早速私の方を向いた。
「そちらの方々は……」
「冒険者のナターシャ・ロドリゲス殿、そしてエルフの弓使いのウィンディ・ベローナ、それから……」
「アンジェラの古き友人、魔道士のゴアと申します」
「ど、どうも……」
なんとゴアまで着いて来た。さすがにその見た目だったら、王宮でも嫌でも目立つわ。スコットや兵士達も動揺してるじゃないの。
「彼らの実力は私が保証します。早速彼らも連れて例の件を……」
「わかりました。ではこちらへどうぞ」
スコットが案内役として先導しながら歩き出した。
「騎士団長と言っても、意外と普通の男よね」
「そりゃそうよ。あのスコット、全然変わってないんだから」
歩きながらウィンディと小声で駄弁った。
「にしても、なんでそんなお面被っているのよ」
「こうでもしないと、正体がバレるのよ。公爵令嬢時代、何度もここに来てたから」
「でもジョージがいたらさすがにバレるでしょ?」
「大丈夫です。まだ自室で監禁されているはずですよ」
「あなた達、何コソコソ喋ってるの?」
アンジェラが私達の会話を気になったようだ。
「なんでもありませんよ。ところでアンジェラ殿、あの受付嬢のことですが……」
「地下の牢獄に監禁して。あとでじっくり会って話したいから」
気絶していたミシェルもなんだかんだで馬車に乗せてきた。
本当ならミシェルの脳から探った情報をゴアから聞き出さないといけないのに、それどころじゃなくなった。
でももしかしたら、彼女は今回の事件について何らかの情報を知っているかもしれない。
「国境警備隊が全滅したなんてね。未だに信じられないわ」
「部隊の隊長も殉死、キドランの町に辿り着いた生存者はごく数名でした。現地の部隊がかろうじて保護して、なんとか王宮まで連れてきたのです」
「全滅だなんて……一体何があったというんです!?」
「仔細については、彼らから直接聞いてください。着きましたよ」
スコットが扉の前で止まった。ここは医療室だったはず。
扉を開けると、確かに中には数名の兵士達と宮廷魔道士がいた。でも彼らの表情は硬く張りつめていた。
室内の雰囲気も重苦しかった。原因はすぐにわかった。部屋中のベッドの大半を負傷した兵士達が寝ていた。包帯でぐるぐる巻きにされた兵士が数名、重度の火傷を負った兵士もいた。
部屋の床には空になった薬品の瓶が大量に散乱していた。何人もの宮廷魔道士がいても、彼らの傷を回復できないでいるみたい。
「こっちです」
スコットが部屋の左隅に向かって歩き始めた。スコットがベッドに腰かけていた一人の兵士の前に立った。この兵士だけ、ほかの兵士に比べほぼ無傷だ。
「彼が地獄の有様を詳細に語ってくれました。おい、大丈夫か?」
腰かけていた兵士はしばらく目を瞑ったまま項垂れていた。スコットが声を掛けても無言のまま反応がない。
「あまり無理させないほうがいいんじゃ……」
「……大丈夫です、話せます」
兵士の男はゆっくり顔を上げた。生気を失ったような顔だ。話すまでもなく間違いなく地獄を味わった感じが伝わってくるわ。
「単刀直入に聞くわ。あなた達、何と戦ったの?」
まずはアンジェラが質問を投げかけた。聞かれた兵士は、しばらくして目を瞑って頭を振った。
「……デビルサーペント、トリケラベアー、グランドサウルス、ヒュージスライム、バンダースナッチ」
「ちょ、ちょっと待て! 全部Sランクの魔物じゃないか! いくらなんでもそこまでの数は」
「本当ですよ。信じてください、しかも一度に同一種が複数体も出現したんです」
「北西の国境付近って、そんなに危ない場所なの!?」
ジュドーはすぐにかぶりを振って否定した。
「稀に出現することはあっても、そこまでの大量発生は起きません。そもそも北西の国境付近は魔物の出現数も少ないはずです」
「いや、大事なことを忘れているわ。Sランクの魔物なら、簡単に召喚できる」
「Sランクの魔物を召喚!? いくらなんでもそれは不可能かと……」
「……メリッサね」
「なんですって?」
「ジュドーは知らないでしょうけど、昨日私達が戦ったヴァンパイアの中に、デビルサーペントを召喚した奴がいて……」
「あぁ、そういえば!」
兵士は何かを思い出したかのように目を見開いた。
「女が……髪の長い変な女がいた。フードを被って顔を隠していたけど、あれは……女だ」
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