第98話 悪い知らせ

 その時、突然ゴアの両目が光り出した。真っ黒な丸い瞳が、神々しく輝き出す。


「な、何が起きてるの?」

「ミシェルの脳内の情報が、今ゴアの頭の中に同期されているの」

「こぉおおおおお……」

 

 奇妙なうめき声を出したまま、ゴアは頭を下げる。そしてそのままの姿勢で固まった。


 動きを止め、五分くらい経過してから、ゴアの目の光がおさまった。


「終わったみたいね。どうだった?」

「なんとかくまなく探れましたよ。衝撃的な事実もわかりました」


 本当にうまくいったみたいね。未だに信じられないけど、私達はどうやらとんでもない味方を加えたようね。


「ではお話しますね。まずこの町に潜伏しているヴァンパイア達ですが……」


 ドンドンドンドン!!


 突然ドアを激しくノックする音が聞こえ、振り向いた。


「マスター! ナターシャ殿! 開けてよろしいですか!?」


 ドアの向こうから聞こえてきたのはジュドーの声だった。


「ジュドー!? ごめんなさい、今大事なところなの。話なら後で……」

「申し訳ございませんが、緊急事態なのです! 今すぐお話せねばいけません!」

「緊急事態ですって!?」


 聞きたくもないような言葉が飛び出した。でも張り詰めたジュドーの声を聞いて、アンジェラも決心した。


「ごめんあさい、ゴア。急用ができたみたい」

「構いませんよ。私はいつでもここにいますから」

「ありがとう。開けていいわよ、ジュドー」


 アンジェラが言い終わると、即座にジュドーが急いでドアを開けた。顔は明らかに切羽詰まっている。息も上がっているから、本当に急いでいたみたいね。


「お二方、いきなりで申し訳ないんですが、今すぐ王宮に来ていただけませんか!?」

「な、なんですって!? 王宮に!?」


 ドアを開けて開口一番耳を疑う発言をした。


「王宮って……シルバニア国王陛下がいる場所?」

「そうです! 一大事なのです、今すぐに王宮においでいただきたい!」

「ちょっと待ちなさいよ! 要件も何も言わないで、いきなり王宮に来いって言われても、了承できるわけが……」

「本当に一大事なのよ」


 今度はジュドーの後ろから聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


「ウィンディ? あなたも一緒だったの!?」

「何があったのか簡単に話して! 私もギルドを留守にするわけには……」

「大丈夫です。代理のマスターにはすでに手配済みですから」


 そこまで用意周到だったとは。本当に王宮に連れてこさせたいみたいね。


「ウィンディ、一体何があったのか教えてもらえる?」

「……全滅したの」


 思わず漏らした言葉を聞いて、私達は固まった。


「……何が全滅したの?」

「国境警備隊ですよ」


 遂にジュドーが打ち明けた。


「シルバニア帝国北西部の国境付近を警備していた部隊が、一部を除いて全滅したんです」




 ナターシャ達がいる『まどろみの宿』から、100メートルも離れていない民家の中で監視していた二人の男女がいた。


「……まずいことになったわね」

「全くだ。ミシェルめ、サピア様の娘でありながら敵に捕まるなど情けない。だから俺は反対したのに」

「あの仮面の魔道士、脳内を探っていたみたい」

「奴はボルトネア島の魔道士だ。我々のことも直にバレてしまうな。どうする?」

「待って……」


 女は宿から数名の人間が出ていくのを確認した。ナターシャ、アンジェラ、ゴア、ジュドー、ウィンディの五人が揃って馬車に乗って移動を始めた。ミシェルはアンジェラに担がれやはり同じ馬車に乗った。


「奴らを追うわよ。急いで!」

「本気なのか? まさかお前……」


 男は女の考えを読み取った。


「最悪魔道士だけでも始末するわ」

「メリッサ様には報告しなくていいのか?」


 女は男の言葉を聞いて睨み返した。


「呼ばなくていい! あんな奴ら私達だけで十分よ」

「だが、情報ではあの人間達は相当な手練れだ。とくにあの長身の女性……」

「ナターシャ・ロドリゲスとか言ってたわね。いいわ、どれだけの実力か見極めてやろうじゃないの」

「おい、深追いはするなよ。あくまで狙いは魔道士だけだ、いいな?」


 鋭く尖った槍の矛先を懐にしまい、二人は家を出て行った。二人は絶理のカーテンに身を包み、ナターシャ達が乗った馬車を追い始めた。

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