第88話 尋問
質問したけど、すぐに答えようとはしない。いや、よく考えたらこのヴァンパイアに聞くよりも、もっといい方法があったわ。
「宝石商、あなたいつからこんなヤバい奴と知り合いになったわけ?」
ウィンディの後ろで隠れていた宝石商に声を掛けた。ビクビク震えているのも私にはわかっていた。そのままそろりと姿を現す。
「ひぃぃ! わ、私は……何も……」
ヴァンパイアが恐ろしい目つきで宝石商を睨んでいる。この様子じゃ喋りそうにないわ。
「大丈夫よ、こいつはもう瀕死だから。遠慮なく話して……」
「ぐぐぐ……貴様、言っておくが喋ったら……」
「黙ってなさい」
「うぐっ!?」
ウィンディが魔法を掛けると、ヴァンパイは全く身動きができなくなった。多分金縛りにさせたのね。
「これでもう安心よ。さぁ、話してちょうだい」
「……その男とはつい先日、仕入れ先から戻る途中に出会いました。その際、希少価値の高い宝石をいくつか紹介してほしいと言われました。見返りに多額の金を渡すから、コルガン峡谷で待っていると言われて、それで……」
「もしかして、昨日の夜も?」
「そうです」
宝石商が言うには、ここ数日はほぼ毎夜この男にこの峡谷で会っていたとのこと。相手がヴァンパイアだから、日の光には弱い。暗くなるまで待つ必要があるわけね。
「私はただその男に宝石を渡していただけで、それ以外の取引は何も……」
「待ちなさい。あなたは肝心のことを話してないわ」
「か、肝心なこと?」
「今だから言うけど、私達は見ていたのよ。その男があなたが渡した宝石を、地面に投げ捨てたのをね」
「それは……」
「そしてもう一つ決定的なのが、唯一この男が手にした宝石……」
私は男に近づいて、懐に隠していたであろうアクアリウムスライムのコアを手に取って見せつけた。
「これだけを欲しがっていたみたいね。ただの宝石マニアじゃないわ、この男は」
「そんなこと言われましても、私は宝石を見せてほしいとしか……」
「そのコアはね、魔宝石なのよ」
「ま、魔宝石ですか!?」
宝石商が目を丸くして言い返した。
「魔石としても価値がある宝石のことよ。アクアリウムスライムのコアはその一つ、わざわざマブーレ村まで行って手に入れてきたのよね?」
「う……私はただの宝石商なんですよ。希少価値の高い宝石を集めていただけで、それが魔石だったなんて……」
「宝石商なのに魔宝石について詳しくないの?」
「本当なんです! 信じてください! ましてやその男がどうして魔石を欲しがるのかなんて、知る由もありませんよ」
宝石商は必死になって反論している。この様子じゃ嘘はついていないかも。となれば、こいつに聞くしかない。
「あなたはどうして魔石なんか欲しいわけ? さぁ言いなさい」
「……喋ると思うか?」
「もっと痛い目を見たいようね」
私の言葉が脅しじゃないってことくらい、この男だってわかるはず。だけどヴァンパイアは、不敵な笑みを浮かべたままだ。
瀕死だからもう力は残ってないはずなのに、どうしてこんな余裕なの。
「ふふふ……貴様ら、言っておくが俺など所詮下っ端、上には上がいるんだよ……」
「何が言いたいの?」
「危ない!」
ウィンディが叫んだ。でも私も何が来るかわかっていた。
咄嗟に頭を下げると、目の前に倒れていたヴァンパイアに巨大な槍が突き刺さる。
「ぎぎゃああああああああああ!!」
槍が巨大な炎に包まれかと思うと、ヴァンパイアは無残にも焼き尽くされた。あとには黒ずんだ灰だけが残った。狙いは私じゃなかったみたい。
「誰!? 出てきなさい!」
咄嗟に振り向いて、槍を投げた張本人を探した。距離と角度的に、峡谷の天辺からに違いない。
予想は当たっていた。満月の中に怪しい人影が見えたと思ったら、直後翼を大きく広げ降下してくる。そのまま私達の前に降り立った。
「やれやれ全くよう。これだから底辺の奴は……」
「あなたは!?」
「よう、人間の女。それにエルフもいるのか、なかなか強くて驚いたぜ」
口元をフードで隠した銀髪の男、全身黒ずくめだけど色白の肌に背中から生えた巨大な翼、やせ型の長身で目の光も人間のそれじゃない。
「あなたもヴァンパイアね。お仲間さんを殺すだなんてどういう神経してるの?」
「仲間ぁ? 笑わせるなよ、こんな底辺な同族など使い走りに過ぎんわ」
「要するにあなたの部下ってことね。でも仮にも同族でしょ、殺すことなんて……」
「貴様ら人間ごときにやられるんじゃ、ヴァンパイアとして失格だ。それに俺が手を下さずとも同じこと……」
「どういうこと、それは!?」
「知る必要などない。さて、無駄話が過ぎたが……貴様らの相手は俺だ。そいつも言ったと思うが、目撃者は始末しないといけないんでな」
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