第87話 ヴァンパイア退治

 口を広げてそのまま突進してきた。両腕を広げて、指の先は鋭く尖った爪。


 口の中には鋭く尖った牙がある。人間じゃないのは間違いない。


「爪はちゃんと手入れしないと駄目じゃない」


 目の前まで来て長い爪で斬り裂こうとした。でもあえなくその爪は、私が魔法で硬質化したミスリル製の剣で綺麗に落とされる。


「うおおおおおお!?」

「まだやるつもり?」

「小癪な人間がぁあああ!!」


 激怒した男は爪を斬り落とされた痛みを耐えて、もう片方の手の爪でまた攻撃してきた。


 学習しない男ね。私は容赦なく、片方の手の爪も全部そぎ落とした。


「うごぉおおおおおお!!」

「もう諦める?」

「ぐぐぐ……こうなったら!!」


 まだ諦めないようね。両腕を広げて目をさらに真っ赤に光らせる。


 それだけじゃない、なんと背中から黒い何かが生えてきた。よく見たら、巨大な翼だ。


「やっぱり、あなた……」

「俺達ヴァンパイアに逆らったらどうなるか、身をもってその恐怖を思い知れ!!」

 

 巨大な翼をさらに広げて、今度は上空に飛び上がる。そのまま私を赤い目で見下ろして、気を溜め始めた。


 かなりの魔力を感じる。どうやらあいつも容赦ないって感じね。私だって少し本気を出してあげる。


「ボルケーノシュート!!」


 形成した炎の魔球を左脚で蹴り飛ばした。そのまま一直線に飛び上がったヴァンパイアに向かって行った。


 これで決着、とはならなかった。ヴァンパイアは一瞬で真横に移動した。


「避けた!?」

「ふはは! 本気を出したこの俺にそんな魔法など通用するか!」


 なめていたわ。かなり俊敏性も上がっているわね、ボルケーノシュートはそのまま素通りして見えなくなった。


 でも、これで終わりじゃないわよ。あいつは気づくかしら。


「貴様もこれで終わりだ! はああああああ!!」」


 男が両腕の肘を上げると、なんとさっき切断された爪がまた伸びた。


「再生した!?」

「ヴァンパイアは自己再生能力があるのよ! あなどらないで!」


 後ろからウィンディが叫んだ。そういえばそんな話を聞いたことがある。


 さっきよりもさらに鋭く伸びた爪、そして両腕の肘から先を何やら不気味な気流で包んだ。魔力の気流かしら。


「今度こそ斬り刻んでやる! 血をたっぷり頂くぜ!!」


 魔力でさらに強化された爪を伸ばして、高速で降下してきた。あの感じじゃ、剣で斬り落とせないわね。


 だけどやっぱりまだ気づいていないわね。防御するまでもなさそう。


「ナターシャ、なにしてるの!? 早く防御を!」

「その必要はないわ」


 ウィンディも気づいていなかったのか、私の策略に。


 直後、ヴァンパイアが急に静止して後ろを振り向いた。でも遅かった。


 バァアアアアアアアン!!


「え? なに!?」

「うごああああああああ!!」

「よそ見してるからよ」


 空中で大きな爆発が起きた。降下していたヴァンパイアは、無残に焼き焦げてそのまま落下した。


「もしかして……ボルケーノシュートが?」

「戻ってきたのよ。やっと気づいたわね」


 もう一回魔球を形成して、それを上空に飛ばしてみた。


 指を一本立てて、空中で円を何重も描くと、魔球はそのままくるくると回転を始める。ウィンディが呆気にとられた。


「思念操作魔球、って私は名付けたんだけどね」

「初めて見たわ。Sランク魔道士でも、会得するのに何年もかかると言われてるのに」

「じゃあ私はSSSランク魔道士ね」


 さっき放ったボルケーノシュートはただ撃ったんじゃない。もちろんそれで当たればいいけど、避けられた場合も想定していた。


 元々私は射撃があまり得意な方じゃない。だから正確に狙いを当てようと試行錯誤して、身に着けたのが思念操作魔球だ。


 私の意のままに魔球が動く。公爵令嬢時代に偶然身に着けた奥義だけど、この一か月間暇だったから、ずっとこの奥義を磨き続けた。


 おかげでかなり正確な操作ができるようになった。あのヴァンパイアだって想定外な攻撃よね。でも一撃でこのざまなんて、意外と弱かったかも。


「さぁて、これで片付いたわ。あとはゆっくり事情聴取を……」

「うぐぐ……おの……れ……」

「動かないで。今度抵抗したら、マジで殺すわよ」


 瀕死だったヴァンパイアに近づいて私は警告した。


「たかが……人間ごときにやられるなど……なぜだ。お前は……一体?」

「あなたが弱すぎるだけでしょ。それより全部話しなさい、あなたがあの洞穴で何をやっていたのか。宝石商と会って宝石を手に取っていたようだけど、一体何が狙いなのか」

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